第150話 事の終結

 リブロフの街に進攻して約三十分程が経った。進行状況というと、街の六割程を進んだところだろうか? 六組に分かれ流動的に位置を変えながら、ありえないほどのスピードで進んでいた。まぁピーチが全員の位置を把握して、進行するルートを指示しているのだから当然と言えば当然か?


 指示されたとはいえ、寸分たがわぬ進攻状況なのには驚きを隠せない。普通の軍隊でもこういった進攻が可能なのだろうか?


 敵の処理状況は、約半分程だろう。一般市民に扮して襲撃をしようとしていた部隊もいたようだったが、思惑通り一般市民によってそれは阻止された。いくら兵士が普通の人たちより強いと言っても、俺たちみたいな規格外というわけではないのだ、数の暴力にはさすがに勝てなかった。


 一般市民の中には冒険者や元冒険者も少なからずいるので、当然の結果と言えるだろう。一般市民に捕まった兵士たちは、娘たちが制圧した兵士より怪我がかなりひどかった。日頃の行いのせいだろう、以前この街に来た時に見た衛兵の事を考えれば頷けるってもんだ。


 俺は大丈夫かな? 娘たちに酷いことしてるつもりはないけど、実は恨みを買ってたりしないよね? 奴隷の首輪をつけてはいるけど、ツィードに協力してもらって娘たちの首輪だけは、他者に勝手に解除されない機能だけにしたからな。行動制限なども一切ない。自分でいつでもとることができる状態だ。


 みんなには知らせてないけど、薄々感づいている様子だった。あえて聞く事もなければ話すこともしなかったのだ。


 お? 敵の別動隊か? 門からこっちに向かって移動してる光点が十個。どうやってこっちに天幕があるのを確認したんだ? そんな些細なことはどうでもいいか、ミリーの初実戦が見られるわけだ見学しに行こう。


 レイリーは渋ったがカエデがのっかってきたので、全力で守ることを条件に移動が許可された。全力とは手加減なしの全力、殺すことが前提となった攻撃をするという事だ。


 ミリーの戦闘に入る前にたどり着けて良かった。ウォーホースは優秀だな、自分で走っても間に合ったと思うけどな。


 おっと、敵がミリーの戦闘圏内に入ったな。あれ? 戦闘圏内に入ってるのに従魔たちが動いてないな、ミリーだけが前に出ているようだ。


 どうやら一人で戦うようだ。ミリーの武器は元々長い棍棒を用いた棒術であったが、今は多節棍を使用している。


 攻撃の幅を広げるためと、多節棍にした際の棍棒としての耐久力をカエデの鍛冶能力と、ライムとアリスの魔導具製造の力で克服できたため、今のメインウェポンになっているようだ。もちろん、俺のアダマンコーティングを施してある。


 兵士たちが何かわめいてミリーに突っ込んできている。その敵に鞭のようにうなりをあげて、多節棍が展開された状態で襲い掛かった。一人目は辛うじて盾でうけたが、盾が変形し体ごと吹っ飛んでいた。恐らく手の骨も折れてるな、一人脱落。


 続いて二・三人目は、盾で受けるのが危険と判断したため避けようとするが、速すぎて避けられず二人目は左腕左肋骨の複雑骨折、三人目は左右大腿骨骨折。


 四人目は、三人がやられる間に何とか接近して、持っていた剣で切り付けてくる。焦っていたためか簡単な軌道の太刀筋だ。ミリーは慌てず多節棍を何やら操作し棍棒状態に変形させ剣の軌道に割り込ませる。


 ガキンッ!


 剣が折れた。折れた剣がミリーに回転しながら向かっていく。危ないと思ったが棍棒を回転させ冷静に弾き、回転運動を維持したまま四人目の兵士を滅多打ちにする。途中で気絶したな、膝から崩れ落ちてる。


 ミリーかなり強くなったな。フレデリクの街にいた時に手合わせしたことがあったな、あの時からステータス以上の動きをしてたから、これくらい当たり前にできてしまうのかもな。自力で棒術をLv八まで上げたんだから、天性の才能があるのかもしれない。


 残りの六人は、近付いて滅多打ちにされた仲間と離れた位置で吹っ飛ばされ、明らかに曲がってはいけない方に曲がってしまった腕の仲間を見て、動けなくなっていた。攻撃範囲内での停滞は、戦闘中において致命的な隙になる。


 それを見逃さなかったミリーは、棍棒の先に風魔法をまとわせて素早く六回突く仕草をした。残っていた六人が六人とも何かに弾き飛ばされたように吹っ飛んでいく。


 ミリーは何をしたんだ? 風魔法を付与したわけではなく、風魔法を使って棍棒の先に風をまとわせていただけ、圧縮した空気を撃ち出したとでもいうのだろうか?


 それにしてもよく飛んだな、一番飛んだ奴で三十メートル位吹っ飛んでる。死んではいないだろうけど、結構速度のある車にはねられたような衝撃だったんじゃないかな。


「ミリーお疲れ様。とりあえずその兵士たちは適当にまとめておいて、様子を見る限り縛る必要も無さそうだし、どこかに運んでもらって」


 了解の返事をもらうと、レイリーに引きずられ天幕に戻ることになる。天幕じゃなくても護衛が二人と六匹もいるのだ、安全は確保されているのだがそれとこれとは別らしい。


 街の中の様子をうかがうと、時間にして十分程だったと思うのだが、残り一割程になっていた。貴族街と呼ばれる街の中心部のみを残した状態だ。


 貴族街には囲むように城壁が設置されているが、娘たちが等間隔で城壁を囲んでいるのが分かる。何をするかと思えば、貴族街を囲んでいた城壁が瓦礫の山と化した。兵士たちに被害は無かった。もともと自分の屋敷を固めるために、ヒキガエルの親が呼び寄せていたのだろう。


 他の貴族はこの街には来ておらず、領主以外この街に貴族の血縁すらいなかったようだ。同じ国の貴族にも嫌われてたのか?


 そこから戦争終結までは一瞬だった。


 ピーチの号令により全員が中心にある領主邸に侵攻していく。距離にして五〇〇メートル程だろうか? 瞬く間にその距離がゼロになる。そうするとピーチの声が無線から聞こえてくる。


「領主邸たてこもってる皆さん、攻め入る前にも言いましたが領主関係者には投降は認めません。この家に集まっている兵士の皆様の投降も認めません。八つ当たりの対象になった事は運がなかったと思ってください。最後に、全力で抗ってください、その上で完膚なきまでに蹂躙します」


 ピーチの宣言が終わり全方位から娘達が襲い掛かる。無線で聞こえてくる音に、『アブッ』『グヘッ』等とヤラレる声に交じって、『ご主人様を侮辱したヒキガエルの親……死よりもつらい苦しみを味わえ』『臭い人の関係者なので手加減は無しです!』『とりあえず、死んで』等の声が聞こえてくる。


 ストレスが溜まってるのだろうか? 俺のためとはいえマップ先生を見る限り、五十メートル先の家に突き刺さってる兵士もいるぞ。


 兵士たちが稼げた時間はピーチの宣言から四分間だけだった。家から引きずり出されたヒキガエルの両親は、ヒキガエルだったようだ。カエルの子はカエルっていう事か、意味違うけどな!


 領主関係者に下された罰は、イリアの魔法を存分に注ぎ込まれた闇精霊の【フィアーハウル】だった。


 攻撃力はまったくないが、恐怖を直接精神に叩き込む叫びだ。叩き込まれてしまえば、発狂することが許されない恐怖をあじわい続ける事になる。娘達の殺気も加わり領主関係者のまわりはカオスと化していた。

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