第142話 出発前のいざこざ

 体が揺れてる、誰かに揺さぶられてるな……まだ眠いよ。いいこと思いついた、こういう時は揺らしている張本人も巻き込んで二度寝すればいいじゃん。揺さぶってくる手を取りそのままぐるり回転し巻き込む。


 そのまま抱き枕の様にして寝ようとすると、キャッと声がする。ん? そっか、一緒に来てるメンバーに男がいないんだから、女の子の声がするのは当たり前か……


「もうちょっとだけ、むにゃむにゃ」


「ご主人様~、起きてくれないと浸透頸しますよ」


 マジか! シェリルを巻き込んで二度寝していたようだ。でもそのシェリルが物騒なことを言っている。仕方がない起きよう。


「ご主人様、眠いのは解りましたのでご飯食べて出発してから、馬車で寝たらどうですか?」


「なるほど! シェリル、いいところに気が付いた。じゃぁさくっとご飯を食べに行こうか」


 シェリルに背中を押されながらキッチン馬車のある倉庫の下の階に降りていく。きれいに並べられたテーブルと椅子に、いつもと同じビュッフェ式の食事だった。ただ、家じゃないので種類が少ないが、俺の好みに合わせて作ってくれるから俺は満足だけど、みんなはどうなんだろ?


「ねぇみんな、今日の朝食って俺の好みに合わせたメニューだと思うけど、みんなの好みは別でしょ? そういったものも作らないの?」


 娘達は一斉に首を傾げた。口々に言う事は、


「何でご主人様の好みに合わせるメニュー以外を作る必要が?」

「こんなに美味しい食事を食べれるのに、他の物作る必要なくないですか?」

「私はお腹がいっぱい食べれるだけで幸せです」


 最後のはシュリだ。人の数倍食べる物が必要だから、心の底から本音だろう。その体質が俺達を助けてくれているんだから、むしろ感謝が必要だな。


 そのことを考えると、食事の量が多いなんてことは微々たることだ。シルキーたちも喜んで作ってくれるから、俺の手の中にいる限りは、食事量が多いことはデメリットにならない。


「ご主人様の好みに合わせて作るのは、メイドとして当たり前なのです。ご主人様が喜んでくださることが私達のすべてなのですから! あなたたちも感謝を忘れてはいけませんよ。


 この世界でこんな豪華な食事を毎日食べれるなんて、ご主人様に仕えてる私達だけなのですから。そこら辺の貴族や王族であっても、食べられるものではありません」


 これはミドリだ。うちの食事ってこの世界の一般家庭で考えれば確かに豪華だが、貴族や王族が食べれないほど豪華なものは使ってないはずだが?


「ご主人様? 何か不思議な事でも? あ、貴族や王族がってやつですか? ご主人様、よく考えてください。この世界で調味料・香辛料という物はほとんど使われていません。貴族や王族の調理人であれば、独自にそういったものを作っている者もいますが、ご主人様のように次々に出せる物ではありませんよ? その調味料や香辛料を使った料理なのですから、王族ですら毎日食べられるものじゃないのです!」


「ふ~ん、そういう物なのか……な?」


「ご主人様は解ってませんね。そもそも塩にしても、基本は岩塩です。海の水から作る塩は苦みが強くてとても美味しい物ではありません。


 岩塩だけだとどうしても埋蔵量の関係だったり、ダンジョンの中で取れたりするため、質が悪くても海の塩を使う必要があるんですよ。ご主人様の計画にある海水を使った、塩プラントはそういった塩を生み出すためだったのでは?」


「あれ? もしかして海水から作る塩の知識って、ミドリには無かったりするのか? 温度管理して生成された塩の素を、きちんとした処理を施せば美味しい塩になるんだよ。そのために魔導具を作ってるんだよ」


「え? そうなんですか? 海の塩が美味しくなる? 信じられませんね」


「後でその辺の情報の乗ってる本召喚するから読んでみるよいいよ。実際に今ミドリ達が使ってる塩も何種類か用意してるだろ? あれは岩塩の他にも、純粋に塩の成分だけの物や海の塩を置いてあるんだぞ」


「え? 違うところでとれた岩塩を召喚してくださってるものだと思ってました」


 朝から説教じみた話を聞き、当たり前に知っている物だと思ってたことが当たり前でなかったり。別に日本の塩づくりが特別ってわけじゃないよな? 日本は島国で岩塩がとれないから発達したんだと思うけど、他の国でだってそういう事はやってるし、この世界が遅れてるだけか?


「ご主人様! ご主人様! シビルさんがお見えです。どうなさいますか?」


「シビル? 何か用があったから来てるんだよな? ただの挨拶だけってこともあるか、倉庫の外かな、今行くよ」


 倉庫の外に行くとシビルが待っていた。


「シュウ君、突然で悪いのですが、出発をお昼頃にしてもらえませんか?」


「一応理由を聞いてもいいですか?」


「私を含め一部の方が、今までは盗賊のせいで帰れなかったのですが、あなたたちがこの街に来てくれて、ついて行く事ができれば帰ることができるので、できれば同行させてほしいと考えています。なので、昼まで待っていただければ、出発できますので待っていただけないかとお願いに来ました」


「それは寄生するってことですか? おそらく馬車のスピードが違うのでついてこれませんよ?」


「そんな失礼な事は考えていません。直接依頼という形で交渉したいと考えてます。報酬はこれからの話し合いで決められたらと考えています」


「ふ~ん、どんなものが出せるの? 帰る人たちの人数は?」


「そうですね、お金、骨董品、商品、人材位でしょうか。人数は私を含め十四人、馬車四台分の予定です」


「報酬はお金でいいですよ。帰った際に冒険者ギルドで報酬きいて、平均の値段を払ってもらう形でいいですので、それとは別にシビルさんを雇う事ってできますか?」


「私ですか? 商売や接客位しか取柄はありませんが、どういった形になるのでしょうか?」


「ジャルジャンにある俺の家の管理が主かな? もししてもらえるなら、うちには秘密が多いから俺たちの不利になることは話せなくなるようにする予定ですが」


「え? 奴隷になれって事ですか? それはさすがに勘弁してほしいです」


「そんなことするか! 魔法で制約してもらう形だな。確か契約魔法ってツィードが言ってたな。禁止事項を明確にして、その事項についてしゃべれなくなるという契約だね」


「そんなことできるのですか?」


「可能だから提案してるんだよ」


 この契約魔法は、ツィード君に教えてもらった彼の得意魔法の一つらしい。縛り付けるという意味で闇魔法の分類になるらしい。奴隷の首輪は契約魔法を元に作られた魔導具だと思うとの事だ。秘密の多い俺には助かる魔法である。幸運三セットのおかげかかゆいところに手が届く人材や魔法が都合よく手に入るな。


「家の管理以外にすることはありますか?」


「とりあえず、管理してもらって色々考えていく形を取れればと思ってる。そっちにも都合があると思うので今すぐには返答しにくい事だと思うけどよく考えてほしいな。もしシビルさんが無理でも違う人を紹介してもらうとか考えてもらえたら嬉しいな」


「帰り道に色々聞かせてもらってよろしいですか? 一応報酬に関しては、正当報酬を冒険者ギルドで聞いてお支払いする形でお願いいたします」


「了解、荷物ならまだ運べるから必要だったら娘たちに声かけてくれ、まだ出発しないならちょっと眠いからひと眠りしてくる。みんな、勝手に決めてごめんな。ミドリ~お昼昨日と同じようにサンドイッチでも作ってもらっていい? 数気にしないで大量に作っておいて、おねがいね。ってことでちょっと寝るわ」

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