第136話 盗賊(笑)への嫌がらせ

 夜も明けて、馬車に荷物も積み込んだ。昨日のうちにフェピーに連れられて、商人ギルドにも登録している。俺が商人として登録して、娘達は従者として登録している。シュリとマリーには冒険者風の装備をしてもらい、馬車の御者をしてもらう。


 ここに来た時はキッチン馬車だったが、さすがにそれで行くのはおかしいので、新しく馬車を召喚している。荷物を積む馬車と人員を運ぶ馬車に分けて行動する予定だ。


 ウォーホースは普通の馬に比べれば力もあり頭もよく瞬発力にも優れているので、かなり速いスピードで移動しても車間一メートルをあけないでも問題ないため、後ろの御者をしているメンバーだけ一人になることもないのだ。


 シュリやイリアにいたっては、小柄でありながら身体能力が高いためジャンプして、ウォーホースの頭を伝い後ろの馬車に移動する荒業まで行うのだ。初めて見た時は流石にビビった。


 後ろに移動しなくても会話自体は無線機で出来るので何の問題もないのだが。


「はい注目。出発してそろそろ二時間かな。もうちょっとでライチェル王国の領土になります。中立地域という事もあり関所がないので、あまり実感ないと思うけどね。盗賊と思われる集団は、ここにいます」


 全員が十五インチのタブレット型PCの様な物を持って見ている。俺のレベルが上がって、よくわからない魔導具を召喚できるようになってから、俺のダンマスのスキルを視覚化できるようになったのだ。


 その魔導具の名称は、【見えるんです】という名前だったので、男のロマンとして……透視メガネ的なエッチィものを想像して、こっそり可愛い町娘に使おうかと思って召喚したら、何か機械っぽい物が説明書と一緒に召喚されたのだ。


 そこには、任意でダンマスのスキルを視覚化して、それを映像として映し出すことができる、と書かれており最後の方に【でも離れた人に見せるためには、タブレットを別途購入する必要があるYOU!】と……チビ神が書いたのかこれ! ピキピキッ


 今までも隣に座る位の位置であれば、俺以外にもダンマスのスキルを見せる事が出来たが、今回は俺が見ている物を、タブレットを通して離れた人にも見せられるという便利なものだ。


 常時マップ先生にアクセスさせておけば、俺以外でもマップ先生を通して周りを監視できるようになったという事だ。ちなみに、召喚した魔物たち、精霊たちにはダンマスのスキルを一部使わせることが可能だが、娘たちには使用権限を与える事が出来なかったのだ。


 だがDPで召喚したタブレットには、オプション機能として各タブレットごとに使用権限を付与できることができたのだ。これで、娘たちにもダンマスのスキルの一部を使用させることができるようになったのだ。


 各タブレットごとにDPを受け渡すこともでき、最近の給料は全部DPで払っている。お金を持っていても、買いに行けないのでDPで自分たちで召喚してもらっている。


 娘たちに服とかなら俺がDPでだすから遠慮しない様に言ったが、その発言の後にカエデに頭を殴られ、アクアとメイには弱い魔法で攻撃された。さすがに俺も意味が分からず怒ったのだが、それ以上の威圧が三人から放たれ黙ってしまった。


 乙女心を理解できてないから困るわ! と口をそろえて言われてしまったのだ。なので、俺が召喚してプレゼントという形ではなく、DPを多めに支給するという事で落ち着いた。


 後日どんなものを召喚したか聞いてみたら、娘たちに『デリカシーの無いご主人様は嫌いです』と声をそろえて言われてしまった。流石にショックで寝込んでしまうくらいに堪えた。


 話が脱線してしまった。タブレットを支給したので、それを見てもらい作戦会議を始める。


「ライチェル王国に入ってから、ヒキガエル男爵の都市までのちょうど中間地点あたりだね。なのであいつらの警戒網にひっかかるあたりで一回休憩の昼飯にしよう。向こう側からも今日は商団馬車は来ない事になってるから、俺たちの人員を見れば襲ってくるはずだ。


マップ先生を見て分かる通り、敵の数は三十二人。確かこの世界では、四人一組で小隊、四小隊一組で中隊、四中隊一組で大隊、四大隊一組で師団だったはずだな。人数的に二中隊規模、ぴったりっていうのがまず怪しいな。っていうか、これもうヒキガエル男爵のとこの兵士確定でいいだろ。


 野営の組み方も斥候の出し方も明らかに盗賊のそれじゃなくて、軍隊のそれだしな。非殺傷装備で全員捕縛で行こう。自害されても困るので、意識は刈り取る様に。何か質問ある? 無いみたいだからお昼までノンビリしよっか」


「「「「了解です」」」」


 斥候の認識範囲内だと思われるところまで進み昼食の準備に入る。戦闘メイド服を着てる娘たちが中心になって、昼食を作っている。シュリとマリーは警戒をしており、俺はシートの上にひいたクッションで寝そべり、ニコとハクをいじって遊んでいた。


 その様子を見た斥候の一人が、本隊のある場所へ移動しているのをマップ先生で確認して、娘たちに状況を報告していく。斥候の戻ってきた本隊は、動きが慌ただしくなっておりマップ先生でみると光点がわしゃわしゃとしていた。


 多分襲撃の準備だろうと思う。馬鹿め本当に釣られやがって、普通に考えれば朝出発してここまで来るのに普通の馬車じゃ四時間じゃ無理だろうに。普通の馬車ならここらへんで夕食の野営をするはずだ。


 実際に近くには野営をした跡の様なものがちらほら見えるので間違いないだろう。特に深く考えてないんだろうな。


「ご主人様! お食事できました!」


 キリエが俺の事を呼びに来てくれた。今日の昼食は、ミドリが用意してくれたシチューとミドリの焼いてくれたバターロールにサラダと豚肉の生姜焼きが出てきた。シチューに生姜焼きか、ミスマッチだな。


 でも単品で見れば、どっちもバターロールと相性は悪くないな。シチューならつけて食べていいし、生姜焼きならキャベツの千切りと一緒にはさんで食べてもいい。多分そういう事なんだろう。


 飲み物は、温かいミルクティーが出てきた。快適な環境で移動できるため忘れがちだが、今は春先なんだよな、積もった雪は解けかかっているけど……暖かい食べ物は、こういうとこで食べるとおいしいな。


「食事が終わったから聞いてくれ、マップ先生を見てもらえばわかるけど、奴らの準備が遅くて今出発すると確実に遭遇できなくなる。なのでしばらくここで過ごしてから、片付けて出発しようと思います。でも奴らが襲撃ポイントについてから一時間位まではここでのんびりします。


 寒くてイライラしたところに現れて、挑発して怒らせて一気に制圧って感じで行こうと思う。ということで、たき火を囲んで温かい物でも飲もうか」


 そういうと、今度は緑茶を出してくれた。年少組には、レモンティーを出したようだ。これ見よがしに飲んでいるのは、斥候に対する嫌がらせも含んでいるしね。どんな顔をしてるか見てみたいもんだ。


 おそらく視線で人を殺せるなら、俺は死ぬんじゃないかと思うような形相をしててもおかしくないと思っている。命令とはいえジャルジャンの商人たちの命を奪ってるんだからいい気味だ。


 本隊の奴らの動きは、やはり軍隊の動きのそれだ。マップ先生を見る限りでは、隊列を組んで統率された動きに見える。まぁ全員捕らえてフェピーに引き渡せばあの人ならなんとでもしてくれるだろう。

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