第121話 決着

 東門側の奴隷兵一チーム十人を倒し人数的には逆転しているが、決定打に欠け攻めきれていない。むしろ戦闘技術の差の為か、娘たちに傷が目立ってきている気がする。


 まずいな、ハクやニコですら一対一で攻め切れていない。とにかく強いのだ。特に特別チームであろう奴らは、フェンリルを倒した際のリーダーのリリス以上の実力があるのではないだろうか?


 リビングアーマーにいたっては、硬さだけで耐えているようなものだ。あいつらの耐久であれば三時間以上は攻撃に耐えられるだろうが、奴隷兵に比べれば動きが遅いためダメージを与えることはできないだろう。


 後衛からの支援、回復と魔法や矢の攻撃を行っているが押されている状況では、攻勢に転じるきっかけがつかめないな。残っている奴隷兵の一チームでも減らせれば、こっちの勝ちが確定するだろうが……


 使う事は無いと思っていたが、もう一つの切り札を切るべきか。特別チームを半数でも減らせれば問題ないだろう。後手に回る前に行くべきだろう。


「シュリ、例のあれをやるから準備してくれ。今回はあれの影響のないリビングアーマーも使って、やるつもりだ。ライムも準備してくれ、抵抗があるかもしれないが厳命する、蓋をしてくれ。準備を始める」


 この作戦は五段階に分かれているが、三段階目に入ってしまえば間違いなく命を刈り取れるだろう。人間種では実験していないが、強化した魔物のオーガで実験した際には、予想通りの効果を発揮している。魔物でも効果が出たので、人間種でも問題ないだろう。生命力でいえば、強化したオーガの方が上なのだ。


 準備を始めよう。


 魔法を行使するためのイメージをしっかりと行う。作戦の流れを確認し、さらにイメージを行う。特別チーム以外の奴隷兵と戦っている娘たちを確認する。押され気味ではあるが、すぐに崩れるほどではないだろう。作戦実行には、問題ないだろう。


「シュリ、やるぞ。ニコ、ハク、リリー、シャルロット下がれ」


「了解いたしました。では行きます。【バーストチェイン】」


 特別チームの十人に対して、チェインを発動した。全員にチェインがかかった、シュリが強引に引き付ける。


「リビングアーマーたち、一緒に押し込め。【ピットフォール】」


 俺、シュリ、リビングアーマー六体、奴隷兵十人全員が落とし穴に落ちた。


 よし、全員いるな。


「ライムやれ! シュリ、準備が終わったらスタングレネードを使う。そしたら、マスクをつけろよ」


 ライムがピットフォールで出来た穴に蓋をする。奴隷兵たちは警戒して距離をとって、問題に対処できるようにしていた。俺は収納の腕輪からスタングレネードを二個取り出し、これ見よがしに奴隷兵に見せて警戒心をあおる。


 俺の計画通りに進んでいる。これなら問題ないだろう。ピンを取り奴隷兵の前に投げ捨て、フルフェイスの酸素マスクを取り出し着用する。光と音で混乱している奴隷兵たちを放置し、シュリを近くに抱き寄せる。


 切り札の秘密兵器を取り出し起動して、兵士たちに向けて投げる。その後に【エアウォール】を発動させる。空気を圧縮して半球状の壁を作りさらに【アースウォール】を重ね掛けする。


 俺の投げたそれが起動する。DPでカスタムして召喚しているので、どんな仕組みになっているかわからないが、俺が投げたのは【サーモバリック爆弾】である。


 細かいシステムは割合するが、一次爆発で燃焼性の強いガスと粉塵の散布が行われ、散布されたそれらが燃焼を起こし、一気に範囲内が三〇〇〇度近い熱と気圧が上がり内臓を破壊し、酸素を奪いつくすものらしい。


 簡単に説明したが、俺も良く分かっていない。強化したオーガで実験した際には、衝撃波や三〇〇〇度近い熱にも耐えたが、最後に酸素が無くなったために、生命維持をできなくなり死亡している。


 身体能力的にはオーガより高かったとしても生物である以上、生命維持にかかせない空気が無ければどうにもならないと俺は判断している。違う理由があるかもしれないが、今は倒せるという事実が大切なのだ。


 爆発が収まる前にライムに蓋をしてもらった天井が吹っ飛んでしまった。天井は奴隷兵に逃げられないようにするためにしてもらっていた物であるため、この段階で吹っ飛んだとしても問題ないだろう。


 大分魔力を練ってアースウォールとエアウォール張っており、熱は何とか防ぎ切ったが衝撃をすべて防ぎきることはできなかった。だけど何とか耐える事には成功した。目の前には苦しんだような表情や体を掻きむしっていた死体が十体あった。


 表情が分かるくらいしか、皮膚を焼けなかったんだな。


 何とか倒すことに成功したが、俺とシュリはよくわからない目まいに襲われていた。しばらくは、戦闘に復帰できないだろう……みんな頑張ってくれ。


 目まいも収まり、あけた穴から出ると、戦闘は終わっていた。


 戦闘の報告をピーチから受ける。


 落とし穴に蓋をしてからは、形勢が一気に逆転したとの事。今回の功労賞は、ニコとハクだったようだ。特別チームの奴隷兵たちとまともにやりあい、押されて無かった二匹が横から奴隷兵に襲い掛かったのだ。


 一対一でも防ぎきれないニコとハクの攻撃が、横からあった奴隷兵は抵抗もできずに命を刈り取られたとの事。人数がさらに減った奴隷兵たちは、防御陣を組み守りに入ったが、一人ずつ確実に仕留めていったようだ。


 ニコとハクが六人ずつ仕留め、娘たちも二人処理して半分になったあたりで、逃げることを画策したようだったが逃げれないと悟った奴隷兵たちは、持っている武器で喉と心臓を突き刺して自害したようだ。


 この世界は本当に不思議だ。戦闘中には深い傷をなかなか負わせられなかったのに、なぜ簡単に自害できるんだろう? ファンタジーの世界だからって不思議なことが多いな。


 俺たちが上に戻ってきた時には、戦闘の跡をかたずけている所だった。死体をそこらへんに放置しておくわけにもいかないので、死体専用に新しく召喚した収納のカバンに入れておこう。こいつらの荷物は落ち着いた時にでもチェックすればいいか。


 新人たちに連絡し、いったん馬車を止めるように伝え、リビングアーマーたちには家に戻るように命令した。メイには落とし穴の際に気付いたことがあったので、一緒に付いてきてほしいからこっちへ来てもらう。残った四大精霊には、リビングアーマーが到着したら連絡してほしいと伝え行動を開始する。


「ご主人様、お姉さま方お疲れさまでした。この後はどうしたらよろしいでしょうか?」


 新人は先輩にあたる娘たちをお姉さまと呼んでいるのか。そういえば、新人組の名前知らねえや。今度聞くか?


「しばらく街道沿いに進んでくれ。先の戦闘で大分消耗してしまったから、休ませてほしい。御者は任せてもいいかな? 太陽が出たらみんなを起こしてほしい。ツィード君、このクッキー上げるからみんなに夜目の利く魔法かけてもらっていい?」


「クッキー! やるやる!」


 戦闘に参加した人以外にささっと魔法をかけ、満面の笑顔でクッキーを頬張り始めた。シルキーたちには、量優先の食事を準備してもらうように伝言してもらった。


 予想以上に強い敵だったな。できればサーモバリック爆弾は、使いたくなかったんだけどな。もう一個準備してる秘密兵器は、できるなら使う事がないように祈りたい。でも、娘たちに危険が及ぶのであれば、悪魔と言われようと使用にためらうつもりはないけどな。


 願わくばこの世界の人間が俺の予想を超えて愚かでない事を祈る。

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