第111話 国からの刺客

 近づいてきた冒険者風の者たちが、俺の警告を受けて止まる。どうするのか悩んでいる様子がみられる。おそらくリーダーだと思われる人物が声を発する。


「急に済まない、警戒を解いてくれないだろうか? 冒険者ギルドに依頼を受けて、坑道の発掘作業を手伝いに来た者だ」


「俺の望む答えではない! 全員戦闘態勢! 俺たちが何も聞いていないのに、追加の人員が来ること自体おかしい。付き添いのギルド職員もいないしな。視認六、戦闘開始」


 俺の指示に従って前衛の娘たちは、お互いをフォローできる距離で隊列を組み、後衛は敵に向けて牽制をしている。カエデとレイリーは、俺の近くにひかえている。頭の上にはニコが乗っており、ハクは俺の上をパタパタと飛んで威嚇している。


「ちょっと待ってくれ、俺たちに戦闘の意思はない」


「戦闘の意志は無いが暗殺はする? もしくは足止めが目的か? 冒険者風に装っているけど、お前らは冒険者のそれとは違う、警告を発した際に帰らなかったことを後悔して死ね」


 マップ先生によって得ていた情報を、あたかも見た目で判断したと言わんばかりに言葉にする。俺はストーンバレットの魔法を待機させ、伏兵の二人の位置に照準を定める。


 伏兵の二人は木の上を移動しており、斥候系のスキルをたくさん有している。明らかに戦闘行為だろこれ。俺たちに見える者は一切武器を抜いていないが、こそこそ動き回っているやつに容赦するつもりはない。


 武器を抜いていない奴らにも、容赦するつもりもないんだがな。おそらく奴隷であるため、解除できなければ情報収集もできないだろう。とらえて奴隷商へ連れて行っても、国王の下に戻るだけだろう。


 こそこそ動き回っている斥候たちに向けて、圧縮して回転を加えたストーンバレットを撃ち込む。マップ先生と索敵スキルを合わせて偏差射撃を行ったため、狙ったが片方は肩に当たりもう片方は足に当たった。


「攻撃の意志がない割には、こそこそと動き回っているやつがいるな。手加減なしで全力で行け」


 俺の指示を再度受けた娘たちは、牽制から本気の攻撃を開始する。


 まず後衛組が魔法で範囲攻撃を仕掛け、弓のメアリーは狙いやすそうな敵に向かってスキルを使用して攻撃を仕掛ける。ニコはポンポンと飛び跳ねて、足を怪我した敵の斥候へ向かい、ハクは肩を怪我した斥候に向かっていく。おぃおぃ、お前たちには指示したつもりはないんだけど、暇だったのかな?


 敵のリーダーだと思われる奴がシュリに捕まった。範囲に挑発を放った後に、チェインを発動し敵の一人を力に任せて一気に引き寄せた。豪剣の一撃を叩きこんだが、簡単にやられるわけもなく、少し負傷するが剣筋を逸らしていた。


 戦闘を回避できないと踏んだ奴隷たちは、ひく事はせずに殺気をみなぎらせて攻撃に転じてきたが、シュリのチェイン、鎖に捕まっている敵以外の五人は、メルフィ・サーシャ・アリス・ケイティ・シェリルに攻撃を仕掛けられていた。


 リーダーは、他の仲間を確認して舌打ちをしていた。おそらく押されている状況を打破するために仲間を呼ぼうとしたのだろう。シュリとのステータス差に経験を凌駕されて一方的に押されているのだ。


 シュリがこのパーティーの要だとでも思ったのだろう。確かにシュリは娘たちの中で段違いに強いわけではあるが、他の娘たちが弱いわけではない。


 一番初めに戦闘が終わったのは、ニコだった。シュリがリーダーを捕まえたあたりで決着がついていた。ニコが斥候を仕留めた瞬間を見てしまった俺は少し目を疑ったよ。


 だって、ありえないスピードで体当たりしたかと思ったら、斥候の全身を飲み込み溶かしていたのだ。かなりえぐい光景だった、変なもの食べちゃダメだよニコちゃん。


 次に終わったのはもちろん僅差でニコに負けたハクだった。上空からブレスで視界を潰した後に、前から首に噛み付いていて身を回転させ食いちぎって、呼吸ができずにそのまま絶命した。


 従魔たちの事は置いておいて、娘たちの戦闘を見てみよう。


 娘たちの中で一番初めに敵を倒したのは、装備に関係なくダメージが貫通して与えられるシェリルだった。俺たちほどではないが、こいつらもかなり上質な装備で身を整えていたし、経験によって蓄積された戦闘技術もあっただろうが、それをお構いなしに踏みにじったのが、問題児のシェリルだった。


 シェリルの相手は、おそらくタンクだろう敵だった。盾持ちのオーソドックスなスタイルだった。本来、格闘のシェリルとタンクの相性は、圧倒的にタンクの方が優勢なはずなんだが、シェリルのスキルである浸透頸は、防御力が関係なくなってしまうのだ。


 攻撃するたびにしっかりとタンクは受け止めるのだが、ダメージが貫通して次第に耐えられなくなり膝をついた段階で意識を刈り取られて戦闘終了となった。


 次に終わったのはアリスだ。この相手には敵とは言え同情をせざるを得なかった。初めのうちは対等に打ち合っていたが、アリスが目潰しの霧をかけられてから状況が一変した。


 後に聞いたところによると、目潰しされた際に毒霧を口から吐き出されたのを回避したが、一部が服に付着してしまい、俺にもらった服にクソ虫の唾液を含んだ汚いものをつけられてしまったことにキレてしまったとのこと。


 その後は、手首を切り落とされ肘、足首、膝、肩と次々に切り飛ばされ最後に首を刎ねられていた、エグイ。


 両手剣のケイティは、同じタイプの両手剣使いに苦戦していた。ステータス的には勝っていても経験が伴っていないため、押されていたのだ。流石に勝てないとわかった段階で、ピーチにバフを頼み能力を上げ、付与魔法を使い経験を上回る力を得て対抗をしていた。


 身体能力で経験を上回ったケイティは、両手剣とは思えない連撃で敵を追い詰め、受けきれなくなった敵の心臓に斬撃が辿り着き命を刈り取られた。


 タンク組のメルフィとサーシャは、他のメンバーと協力して敵を圧倒していた。年少組のタンクは自分たちに倒せるだけの攻撃力がない事を理解していたので、早い段階で遠距離攻撃組と連携をとり、デバッファーのマリーとイリアに行動阻害をしてもらい、安全確実に相手を制圧していた。


 まぁ一番可哀そうだったのは、シュリに捕まっていた敵のリーダーだろう。シュリの攻撃を何とか逸らししのいでいたが、攻撃されるたびに傷が増えたり吹っ飛ばされても、チェインで引き戻されサンドバッグの様にボコボコにされていた。


 腕も足も変な方向に曲がりながらも、ギリギリでしのいでいたが限界を迎えると、なすすべもなく命を刈り取られた。


 八人中五人が戦闘にて命を落とした。生き延びた三人には、DPで召喚した行動阻害魔導具の高級品をつけ、何もできない状況にしてから、冒険者ギルドの指名依頼を終わらせることにした。

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