第88話 戦争の前

 集めた情報を持ち帰って、みんなに報告する。


 みんなは、屋台のおじちゃんや喫茶店の様な所のおばちゃんの事を心配していた。自分たちの心配は一切しておらず、よくしてくれた人たちを心配するなんていい娘たちだな。


 自分たちの事を心配しないのは、自分たちで戦闘もでき実力的には、そこそこ強いから周りの事を心配できるのだろう。


 周りの事を心配している様子の娘たちに、食糧の値段の上昇や在庫の減少を伝えると険しい顔をしていた。助けてあげたいけど、一部の人たちを贔屓をするわけにはいけないことは理解しているようだった。


 善意で始めた食料提供が初めは喜ばれたが、周りから恨まれ略奪されたり殺されたりなんてこともあるのだ。最後には提供してもらっていた人たちが、牙をむくなんてことも珍しくはないだろう。


 この屋敷の中であれば、周りが焼け野原になろうと全くの問題はないのだが、せっかくの街が街としての機能を失う可能性もあるわけで、メルビン男爵の血筋許さん!


 ちなみに戦争を仕掛ける予定の街は、リーファスという街らしい。もちろんエリア把握できてるから内情もしっかりわかってるんだよね。


 人口はほぼ同じくらいで、兵士の数もほぼ同等、冒険者の質でいえばフレデリクが上だが何人が参加するのだろう? 問題なのが兵士の練度はリーファスの街の方が大分上のようだ。


 騎士団長はレベル一六〇を超えており、兵士の平均的なレベルもフレデリクより十程高かった、スキルは同じくらいでも、兵士がガチでぶつかったら、確実にリーファスが勝つだろうな。何か隠し玉でもあるのだろうか?


 玉砕覚悟の戦闘なんて時代錯誤なことをするのか? 中世くらいの世界ならありるか? メルビン男爵の血筋だから、何も考えていない可能性もあるよな。俺の中の男爵評価は限りなく最底だから、これくらいの評価が妥当だろう。


 みんなにどうするか聞くと、この街にはよくしてくれる人がいっぱいいるから負けてほしくないけど、私たちが戦争に参加して、メルビン男爵が勝つのは嫌だという複雑な心境のようだ。俺も、メルビン男爵が勝つのを手伝うのは正直嫌だ。


 でも、街には愛着がある。どうしたもんだかな? 才能のある人材を旗にこの街のトップを挿げ替えるか? とはいっても才能のある人なんて、マップ先生から得られる情報じゃ判断できないしな。戦争を止めるには、食料があればいいのかな?


 もし食料があればなんとかなるのなら、他の街に俺たちが買いに行って収納系アイテムで持って帰ってくれば解決するんだけどな、大量に買う事なんてできないか?


 みんなにも意見を求めてみたが、いい案は無さそうだった?


「は~~~い、ご主人様!」


「ん? シェリル、何かいいこと思いついたのか?」


 シェリルが背伸びをしながら手を上げていた。この娘からは、時々予想していない切り込みの発言があるから期待がもてるか?


「えっとね、メルビン男爵には勝ってほしくないけど、フレデリクの街には負けてほしくないんだよね? 負けると買った街の貴族に税を高くされるから? ならいい方法があるの! メルビン男爵もリーファスの街の貴族も、倒しちゃえばいいと思うの!」


 っ! そういうことか、俺らがどっちかにつくんじゃなくて、第三勢力で戦争に参加して両方とも倒せば問題ないと、戦後処理がめんどくさくなるか?


「確かに悪くない案だけど、戦後の処理考えると悩ましいところだな」


「ご主人様は何もしなくていいと思うの。喧嘩を始めた馬鹿貴族たちに命令して、処理させれば問題は解決なの!」


 シェリルの言い分はもっともだ。自分たちでまいた種は自分たちで処理してもらう。俺は処理するときに条件を付ければいいだけか。勝手に戦争を始めて、住人に負担を背負わせるくらいなら、自分たちで負担しろっていえば完璧だな。


 後に税金を上げたとかなればもっかい攻めればいいだけの話だしな。まてよ? 許可なく税金を上げたら首を取りに行くとでも言えばいいか。それを正式な書類に残しておけば、貴族をうちとるのにわざわざ宣戦布告する必要もないしな。


「よく考えてるな! 偉いぞシェリル」


 ほめながらシェリルの頭をぐりぐりと強く撫でる。


「も~ご主人様やめてよ~」


 撫でられてるシェリルは、言葉と裏腹にいい笑顔で喜んでいるようだった。それを見ていた娘たちは、指でもくわえそうな顔で羨ましそうにみていたが、シェリルをぐりぐり撫でているシュウが気付くことはなかった。


「さて、いい案を出してもらったのだがどうやって宣戦布告をすればいいのだろう? レイリー知ってるか?」


「そこらへんは知りません。貴族に仕えていましたが、そういった書類整理などはあまりしていなかったので、戦争に参加して少し武勲をたてたくらいですね」


 武勲ね~確か奴隷商にいた時のレイリーのレベルって九十台だったはず。だけどフレデリクの街の騎士団長よりステータス的には上。レベル的には三十は離れてて能力向上スキル持ってなかった……そう考えるとドラゴニュートって本当に強いんだな。


「ん~どうやって戦争するんだろうな? せっかくシェリルがいい案だしてくれたのにな。宣戦布告をするにしても、ある程度条件はあるんだろうか?


 さすがに無条件に宣戦布告できるわけないだろうしな。誰か知ってそうな人に相談するしかないけど……誰が知ってるんだろ? 考えても解らん! とりあえず飯にしよう。準備してもらっていいか?」


「了解であります! では皆さん準備しますからいきますよ!」


 やっと自分たちの出番が回ってきた! と喜んでいるシルキーたちをほんわかした気分で見守っていた。相変わらず家事関係に関しては、ひくほど一途に取り組むんだよな。有能なんだが、それが変な方向に空回りしている時が多い気がするが、美味い飯を作ってもらえているので文句は言えないな。


 今日のお昼のメニューは、メインが自家製チーズを使ったドリア、サイドメニューがフライドポテトやサラダスパゲティにシンプルなサラダ、スープはツナを使った具だくさんのミネストローネが出てきた。


 相変わらず、見た目もきれいだしバランスよく作ってくれている。ってか食材に縛りがないし、お金を気にしないでいいから気持ちよく、シルキーたちも作ってくれるんじゃないだろうか? 上手い飯が食えるって素晴らしいね。


 みんなもいい笑顔でご飯を食べてるな。シュリは相変わらず、いい食べっぷりだ。みんなの5倍は軽く食べているのに、元の世界のフードファイターの様な汚らしさが全くない。でも食べるスピードがはやい。


 フードファイターは、早く食べるのが仕事みたいなものだから、見た目は二の次だったりするんだよな。その点、大食いは綺麗に食べる人も多いよな。フードファイターより汚い食べ方をする奴もいるけどな。


 美味しい昼ご飯を堪能して片付けが終わった。


 ピーンポーン

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