第83話 ダンジョンの中の変化
何事もなく一ヶ月が過ぎた。相変わらず冒険者ギルドには行っていないが、冒険者っぽい活動は再開している。ダンジョンの中だけでもよかったのだが、屋敷の中にこもりっきりになるのは良くないと考えて、街や街の外に出ることにしたのだ。
身分的には奴隷ではあるが身綺麗にしており見た目もよく、何よりメイドの修行のせいか街の人間の印象がいい。この屋敷の位置は、平民街と商業区のちょうど境目の位置で商店街にも近く、その商店街にはよく買い物に行く娘たちをひいきしてくれるお店もいくつもあるようだ。
屋敷の中ですべて完結できる程ダンジョン農園は収穫量がおおいが、お肉はまだ家畜の飼育が確立していないので、どうしても召喚するか買うしかないのだ。
冒険者活動っぽい真似をした際にゲットした素材を冒険者ギルドではなく、自分たちで買い取ってくれる場所や必要としている場所を見つけて納品して資金を得ている。
需要に見合ったところにもっていけば、冒険者ギルドで売るより二倍近く高くなることもあるので、冒険者ギルドで活動していた時より資金繰りは良くなっている。中には、買い取り額が低くなるものもそこそこあった。
素材関係で喜ばれるのは、獣道の森の魔物の皮は防具や服、靴、カバン等を作っている工房だ。他には、亜人の森の魔物でオークの肉は宿屋や食事関係のお店。ゴーレム系のドロップ品である石や岩、土等は建築関係の工房に喜ばれたりする。
ゴーレム系のドロップ品は石・岩・土・鉄鉱石みたいなものだけだったので、基本的に鉄鉱石以外は拾っていなかったのだ。
娘たちが鍛冶の工房に鉄鉱石を納品に行った際に、ゴーレム系は倒すのが面倒なのに実入りが少ないとぼやいたことで、建築系の工房で魔物産の石・岩・土が優秀な建築資材なるので高く売れることを教えてもらったのだ。俺にはないコミュニケーション能力が、娘たちには備わっているようだ。
この一ヶ月みんなを見ていたが、自分たちだけで生活することは問題なくできると思う。稼ぎはこの国の一般的な家庭の一年の稼ぎの五倍が一ヶ月で稼げるから、贅沢して生活しても問題ない。
特に今は、俺が基本的に生活費は全部出しているので、娘たちは自分たちの簡単な買い物や食べ歩き以外でお金を使うことがない。ちょっとしたお金持ちになっている。おそらく自分を買い戻せるくらいの金額は貯まっているのではないだろうか?
三日前ほどにピーチに質問したのだ。『自分たちを買い戻すことができたら自由になりたいか?』と、答えは『ご主人様が嫌でなければ一生ついていきます』だった。他の娘にも聞いてみようとしたが、ピーチがそれはしない方がいいと全力で止められてしまった。
娘たちの中には、捨てられてしまうのではないか? と今も心のどこかで思っている者もいるので止めてほしいと懇願された。みんなと離れ離れになるのも嫌だけど、一番はご主人様と離れることがみんな嫌だと話しているそうだ。
そんな中で、自由になりたいか? と聞かれれば泣き崩れる者がいてもおかしくないとピーチは熱弁した。
以前に、シェリルに同じ質問をしたことがあった。その時の答えは、「シェリルが自由になったら? ん~~~、ご主人様のお嫁さんになりたい」であった。
あまり深く考えないで質問して、質問した相手がシェリルだったから大事にならなかっただけで、相手を考えて質問しないと大惨事になる所だったかもしれん。ちなみにシェリルには、もっとおっきくなって気持ちが変わってなかったら、その時にまた考えようと言って頭を撫でてあげた。
街は何事もなく過ぎて行ったが、ダンジョンの中も一緒とは限らない。
ダンジョンの中は大きな変化があった。まず、農園の規模が二倍程になっていた。特に、果物と香辛料の関係が増えているようだった。家畜牧場は何と四倍程の面積になっており、見た事のない種類の家畜が増えていた。
他にもジビエの肉を得るためにと、完全に野生として育てるように自然すらも配置された、ダンジョンの新しい階層も増えていたのだ。生け簀もといダンジョン海は三倍程の面積になっていた。生け簀はなくなっており、その代わりに海の中に大きな変化があったようだ。
ようだというのは見た目ではわからず、メロウたちに聞いて初めて分かったからだ。どんな変化があったかというと、海水の温度を意図的に調整して日本近海の状況を簡易的に再現しているとの事だった。魔法ではなく、ダンジョンの機能を使って細かく調整したらできたみたいだった。
みんなの話を聞いていたら、俺って何の役にも立ってない気がしてきた。ダンジョンマスターだからDPとか使った操作の権限とかを与えてるとはいえ、調整その他諸々をしているのは俺以外なのだ。ひもみたいな状況になってる気がしなくもない。
問題なのは、農業や牧畜を手伝おうとすると全力で拒否されて、しょんぼりすることが何度かあったのだ。さすがに何度もやっていると先手を打たれて、手伝おうとする前に違うところへ誘導されるようになってしまったのだ。なので俺はここ半月ほどは、生産系のスキルを一生懸命磨いている。
娘たちもやりたいことを決め、空いた時間を使ってみんなでワイワイ話しながら修行をしている。リラックスした状況で出来るようにダンジョンの中に工房を準備して、そこでみんなで集まって修行できるようにしたのだ。
MMORPG風に言うとスキル上げなのだが、一人でやると高確率で苦痛を伴うのでできる限りその部分を緩和できるような工夫をしているつもりだ。
そういえば、生産系スキルだが自分の腕にあわないランクの高い物を使うと、高確率で作業が失敗する事が分かった。品質にも影響を与えるようだが、ランクの高い素材はしっかりとした技術が伴わないといけないらしい。
革の装備なんて、型紙を作って切って縫い合わせるだけ(もっと細かい作業はあるけど)なのに、作業が失敗するのだ。相変わらず変な部分で、妙にゲームっぽい仕様が度々出てくるんだよな。
だが一番大きな変化と言えば、チビ神が希望した様なガチダンジョンを作ってみた。カエデやレイリー、娘たちや四大精霊などに相談しながら、作ってみた二十階層のダンジョンだ。最下層のBOSSはBランクの亜人系魔物の鬼人だ。
まだAランクの魔物は呼べないので、バランスのいい鬼人を使っているのだ。まぁBOSSとは言っているが、鬼人がパーティーを組んでいるのでAランクの魔物一匹よりよっぽど厄介になっている。
亜人系の魔物を召喚して気付いたのだが、他のタイプの魔物と違って職業を追加で選ぶことができるのだ。いわゆる、強化種にできるということだ。もちろんDPを消費してだが。それなので、バランスのとれたパーティーを鬼人で作ってBOSS部屋に配置している。
でも気付いているだろうか? ダンジョンの中に作ったダンジョンなのだ。誰がここに挑戦するかは、決まっている。俺たち以外いない、それを知ったチビ神は、
『なにやってるのYOU! やっとダンジョン作ったって連絡が入ったのに、あなたたち以外は入れない場所にあるなんて意味ないじゃない!』
と急に大声で俺に声を送ってきた。あの時は頭が割れるかと思うくらいうるさかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます