第63話 シングル冒険者

 娘達と趣味を共有してから一週間が経った。ゲームしたり本を読んだりしてただけではない、体がなまらない様に朝起きた後はみんなで一時間はトレーニングをしていた。


 三日目になると、年長組もキャーキャー言っている娘達が気になった様子でゲーム部屋に来たのだ。RPGは途中からじゃ面白くないので全員が揃ったということで、携帯ゲーム機を召喚することにした。


 もちろん俺・カエデ・レイリー含む合わせて二十五個分の携帯ゲーム機と『一狩り行こうぜ』で有名なモンスター退治ゲーム二作品目のアップグレード版だ。


 娘たちは、おっかなびっくり操作の仕方を覚えて、自分に合った武器をチョイスしチュートリアルをこなしていった。二時間後には、何とか初期の討伐クエストがクリアできるくらいまで、できるようになっていた。


 一週間たっぷり休んでくつろいだので、そろそろ現実というか、異世界の日常に復帰しようかと思う。冒険者ギルドに出向き獣道の森の様子を聞きに行くことにした。


 冒険者の少ない時間帯だったので、ミリーも手持無沙汰で受付に座っていた所に声をかけて、進展状況を聞いてみた。


 王都のギルド本部まで伝書を飛ばし返信が帰ってきたとのこと。この世界では魔導具で声をやり取りするものが存在しているが、それができるのは迷宮から見つかった魔導具だけであり、人間の手でその魔導具を再現することはできずとても貴重なものだとのこと。


 リストで調べたら一〇〇〇DPでした。全然貴重な感じがしねえな、日本円で十万だしな……それなりの値段だけど、高級家電ほどではない。現在確認されているのは五つだけだとのこと。数が少なかったらほとんど価値がなくねえか?


 王都から戻ってきた返信には、シングルの冒険者を二名とAランクを二チームほど送るので、その者たちに調査を引き継ぐようにと書かれていたそうだ。出発したのが三日前になるので荷物のない状態で急いでの移動なので、後四日もあればたどり着くだろうとのことだ。


 可能な限り会いたくないものだ。庭のダンジョンの中に訓練用のダンジョンとか作って、レベル上げでもするか? 召喚できる魔物が増えてAランクが出せるようになったら、安全とはいいがたいかもしれないけど、格上相手に立ち回りとか覚えることもできるしな。


 ちょっと頑張ってみるか。でも、夜はみんなで『一狩り行こうぜ』で楽しむのも忘れちゃいけない! バトルものが好きなら○拳とかも悪くないかな? 個人的に好きなゲームの一つだったりするんだよね。


 ん~、武芸に秀でた魔物っていないかな? 確かゴブリンにはソードマンとかファイターとかいたから、ランクの高い亜人系の魔物にそういったやつがいればいいんだけどな。


 オーガだと強いんだけど大きすぎて参考にならないし、人間位の大きさで強い亜人系の魔物がいたら召喚して各種戦闘訓練要員にできるのに……くそ! レイリーみたいにそこそこ武芸に秀でた人いないかね? 奴隷となると高いのは問題ないけど、なかなかいないし扱いにくそうだから嫌なんだよな。


 二日後、シングルとAランクの冒険者たちが到着したと街で噂になっていた。予想より二日早く到着したってことは、本当に急いできたのだろう。到着したのが夕刻であったため、ギルドに顔を出した後そのまま宿屋に向かったらしい。


 俺がこの世界に来て初めてお世話になっていた満腹亭を利用しているようだ。なぜ分かるかといえば、マップ先生の力に決まっているじゃないか!


 遭遇しない様にしっかりとマークしてたんだよ! フレデリクの街に近づいてくるレベルの高い人物が到着したら、知らせるようにアラームを設定している。


 王都にいる時は、レベル以外のステータスを覗けなかったが、フレデリクの街に到着した後は、ステータスが覗けるようになっていた。俺のステータスと比べてみると……


 素のステータスの運以外の数値が俺の三倍近くあった。レベルあげるだけでここまでステータスに差が出るのかレベル制MMORPGの理不尽さに近いシステムだよな、この世界って。


 俺が思うにレベル三〇〇とかまで上げられる人間は、戦闘に特化しているというよりも、効率的に魔物や敵を狩っている人ではないかと考えている。自分の倒せる範囲の敵で、効率よく経験値を稼いでいるから辿り着ける境地だと思う。


 レベル差がありすぎると経験値がもらえなくなるゲームもあるし、何かの要因が必ずあるのだろう。ダンジョンだと強くなりやすいっていう話もあるしな。


 ステータスをチェックしてガッカリしたことが一つある。こいつらのスキルが一切わからないのだ。レベル差なのか特殊な装備なのか、それともスキルを隠すスキルがあったりするんだろうか? 武器系のスキルがあれば、それがメインの武器とかを判断できるのに……


 はっ! 何で俺は戦う前提で物事を考えてるんだ? 接触することが無ければ何の問題もないわけだし、屋敷に籠って庭のダンジョンでレベル上げをしようって事にしたじゃないか。


 シングル冒険者たちは、到着した次の日には獣道の森へ出発していた。激しくタフな奴らだと思った。過酷な日程でも問題なく動けるから、シングルになれたのかな? それだけ動かなきゃならない状況にも対応できたから、シングルになれたのだろうか?


 おそらく後者ではないかと思う。そういった状況に何度も陥って生き延びたから、問題なく動けるようになった可能性の方が高いと思う。


 移動のスピードも速く、馬車を引いてないとはいえ、うちのウォーホースと同じくらいのスピードを維持して移動している。移動している状況が分かるのもマップ先生のおかげであり、俺が移動したところをシングルの人たちが通っているからなんだけどな。


 さて、のぞき見はこの辺で終わりにしよう。ずっと見てたらチビ神ストーカーと同じになっちまうからやめだやめだ。


 訓練用のダンジョンINダンジョンを一緒に考えるために、食堂へ集合してもらった。初めに、訓練用としてどんなダンジョンがいいか、みんなに聞いてみることにした。


 しばらく同じ組で話し合いをして、まとめてから発表するような流れで話を持っていく。俺はカエデ、レイリーと一緒に考える。三十分くらい話し合ってもらい、出た意見をかけるようにホワイトボードを準備した。


 まずは年少組の発表だ。この組は実にシンプル、とにかく色々な魔物と戦って経験を積めればいいと思っているので、フロア毎や部屋毎に出てくる魔物のランクをきめて十匹以内でランダムに沸くようにしたらどうかという意見だった。


 確かに戦闘訓練をするためには、数多くこなすことも確かに大切だろう。


 次に年中組の意見は、ダンジョン内では違う種族同士が協力し合って侵入者を排除するのが普通だとのことで、魔物の連携の上手な組み合わせで沸くようにして、色々な作戦を練ったりできるような仕組みだと嬉しいという意見。


 と、亜人系の魔物で武器を使う統率された集団と、戦いを経験したいという意見が出た。


 集団との戦いは、対人を意識してのことだと本人たちから後で聞いた。ご主人様を守るためには、「人からも守らなければならないからです」と胸を張って言い切られては、反論の余地がなかった。対人では、スキルを伸ばすというよりは、技術を伸ばすことができるという点がいいと俺も考えてはいた。


 年長組は年少組よりシンプルにまとめていたが、効果的でもあった。ダンジョン内にフィールドを作成して、森や市街地など色んなシュチエーションのフィールドを準備して、沸く魔物は完全にランダムで配置もランダム、集団で沸くこともあるように設定してほしいとのことだった。


 いわゆる自然に近い状態で外と同じような感覚での戦闘をしたいとのことだった。


 最後になった俺たちの意見は、とにかくレベルを効率的に上げられるようなダンジョンが、一つはほしいと考えていることを伝えた。


 レベルが上がるだけでも安全になっていくので、技術や経験も大切だけどまずはステータスを上げて、安全をある程度確保したい。過保護だが、傷付いてほしくないのも本音なのだ。

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