第54話 謎が増えた
朝起きるといつも通り、ニコとハクが俺の上に乗っていた。左右にはギンとクロではなく年少組の娘たちが引っ付いて寝ていた。この時間に娘たちが寝ているのは珍しいが、添い寝をしていた俺を起こさないようにするため朝のお勤めはなしになったようだ。
俺を一番に考えてくれている。嬉しい限りなのだが何かもやっとするのはなんでだろう?
お腹が空いたので、みんなを起こして食堂へ向かう。朝食は屋敷と同じように、ビュッフェ形式だ。さすがに、屋敷と同じような種類とはいかないが、魔物の出る場所での食事でない事は確かである。食事と睡眠は、とても重要なのである!
今日の予定についてみんなと相談する。昨日の競争の際、この周囲の魔物は明らかに減っているようだったらしく、後半はほとんど遭遇できなかったらしい。ということで、お昼までは周辺の魔物の数を確認しながらの狩りをしていく予定になった。
お昼のときに情報をもらって移動するか判断することとし、娘たち三組と俺たちの四チームでベースを中心に四分割して各エリアで魔物討伐することにした。
そういえば、獣系のランクの低い魔物は小集団を作って狩りをするらしいが、ここに来て遭遇したのは一から三匹のはぐれ的な魔物たちだけだったはず。スタンピードの前触れってこういうものなのかな。
娘たちに指示した手前、俺がさぼるわけにもいかないので、カエデ・従魔たちと一緒に調査に出る。戦力的にも索敵能力的にも一番高い俺のパーティーが、バーサクベアーなどがいた方向を担当する。
昨日、バーサクベアーが多く出た境界線まではまだ距離があるはずだが、バーサクベアーが出現していた。魔物の数は昨日に比べて多くはないが、それでも普段以上はいるんじゃないかな? それに、強い魔物の出現エリアが若干だが森の外側に向かっているのも気になるところだ。
「なぁカエデ、魔物ってどうやって繁殖してんだろうな? 昨日あれだけ倒したのにもうこんなにいるんだぜ、どうやって生まれてんだ?」
「ゴブリンとかオークは他の種族のメスを苗床にするけど、他の魔物についてはよく知られてないわね。一説には、魔素と呼ばれる魔石の素になるものが濃いところで自然発生するって言われてるわね。ゴブリンやオークの事を考えると、魔物同士での交配もできるだろうけどねって私は思っているよ」
「魔素が濃いところに魔石ね。魔力の素みたいなものかな? 人間種や精霊種にはないんだよな? でも魔法は使える。人間種は魔素を取り込んでMPに変える?
魔素が元になって出現する可能性か。ありそうな感じはするんだけど、どうやって生まれる魔物が決まるのやら。ダンジョンみたいな召喚陣に近い物が存在でもするのかな? スタンピードは、その魔素が濃くなりすぎて魔物が異常発生する? なんかそれっぽい気がしなくもないな」
結論は出ないが、魔物が異常発生している状況なのは変わりがないだろう。その原因がどこにあるのか突き止められれば最高なんだが、そうはいかないよな。
三時間足らずで、五十一匹の魔物を処理した。お昼の時間なので、ベースに戻ることにした。
ベースのプチダンジョンに到着すると、みんなはもう戻ってきていた。
「みんな早かったね、魔物はどのくらい討伐できたのかな?」
ピーチが代表で口を開く。
「森を中心にこのベースと同円上を探索した、年長・年中組は合わせて十三匹、年少組は三匹だったそうです」
「え? 森の中心側に向かった俺達は五十一匹倒したんだが……中心の方なら魔物がまだ多く残ってるってことなのかな?」
意外過ぎる報告を聞いて、少し悩んだ。森の中心側でないところは、ほとんど魔物がいない状態で中心には魔物が沢山いたってことだよな。自然発生するにしても中心側からなのか? 昨日狩りすぎて魔物の数が減っただけなのか……分からんな。
とりあえずベースは、昨日見つけた二個目に移してから考えるか。そっちの方が経験値もDPも稼げるしね!
「よし、昨日下見しておいた二個目のベースになる場所へ移動しよう。魔物が強くなるから注意して移動するように! じゃぁ、二十分後に出発するから荷物をしまって準備するように。シルキーたちは料理の途中だけど移動するから片付けてもらっていいか」
「了解であります。メイドの嗜みにご主人様が付与してくださった、時間停止があるので何の問題もありません。ベッドなんかも片付けてきます」
シルキーまじ有能! そしてDPまじ万能! シルキーたちが覚えたメイドの嗜みにDPで収納の腕輪みたいに、オプションで時間停止がつけられたのだ。拡張の方もできないか試してみたが流石に無理だった。スキルもDPでLvがあげられるわけだから、固有のスキルでもある程度いじれるらしい。
二十分後、プチダンジョンの前にみんなが集合する。ダンマスの能力で入口を塞いで入口を同じような材質の岩でカモフラージュしてみた。もともとそこに存在していたような岩場が完成した。
「思ったより上手くできたな。昨日と同じように索敵しながら進んでいくように、しばらく進んだところで魔物の強さが変わるから、タンクはすぐに対応できるようにしておくように、出発しよう」
外縁部の魔物たちでは、俺たちの相手ではないようだった。バーサクベアーの耐久力にたいして、娘たちがどういう風に対応するかちょっと楽しみである。
一時間三十分程進むと魔物の種類が変わった。バーサクベアーの前にワイルドウルフが出てきた。シュリが挑発スキルを使い、真正面から二メートルを超えるワイルドウルフの突進を大盾で止めていた。
衝突の反動でワイルドウルフは、グロッキー状態になっており近くにいたケイティが声をかけて両手剣で首を切り落とした。
娘たちも本当に強くなったもんだ。ダンジョンマスターの能力を使って、レベルを上げられる環境を作れば誰でも強くなれるんじゃないだろうか? さすがに敵に回る可能性のある人たちまで恩恵を与えるわけにはいかないので、身内だけにしておくべきだな。
次に出てきたのは、シャドウスネーク。何でバーサクベアーじゃねえんだよ! どう戦うのか見てみたいのさ!。
シャドウスネークは、マリーに見つかり双剣で顔を数回切られて、その後滑るように体を切り付けてられていた。深い傷は無かったが多少デバフが発生しているようだ。
シャルロットが盾を構えて突進して、ぶつかりながら挑発でタゲをとっている。注意が向いている隙にライムが雷魔法のLv五で使えるようになるライトニングを詠唱し発動する。
ライトニングはターゲットを認識し一直線に雷が駆け抜け、当たると全身がしびれて動けなくなる魔法である。INTの数値にも左右されるが、痺れるだけでなくそのまま死んでしまうこともあるらしい。
Dランクの冒険者たちならもっと苦戦して時間がかかり、下手したら大けがをして撤退も厳しくなる程の相手なのに二回とも、ほぼ一撃で倒されているようなものだろう。ステータスがBからAランクに近い位なのだから、相手にもならないだろう。
二個目のベースまで残り一時間位のところまで来たとき、バーサクベアーが出てきた。
今回のタンクはどうやらサーシャだった。挑発スキルを使ってタゲをとると、真正面に位置を取りバーサクベアーの攻撃をかわし、逸らして隙をついて切り込むが、さすがに刃が通らずダメージはほとんど与えられていない。だけどタンクとしてヘイトをしっかり稼いでいた。
ジュリエットがサーシャに声をかけ、魔法を詠唱し始める。火魔法Lv四のファイアランスを発動した。サーシャは来るのが分かっていたように避けて、バーサクベアーの右肩に突き刺さる。動かなくなるほどのダメージは与えられなかったが、右腕がうまく使えなくくらいの傷に血を流していた。
一瞬バーサクベアーがジュリエットの方を振り向くが、サーシャが顔や右肩を狙いつつ挑発しているため完全にタゲが移ることはなかった。今度はイリアが精霊魔法の詠唱をはじめ、木の精霊を呼び出してツルなどを使い移動阻害のバインド系魔法を発動した。
動きが止まった隙に、エレノアが斧槍を右肩に突き立て、クシュリナが突き立てた斧槍を斧の刃がついてない方で思いっきり叩いた。斧槍が右肩に食い込んだ状態で斧に叩かれれば、体が裂けるのは必然だろう。
抵抗できない位に深手を負ったバーサクベアーの最期は、シェリルが頭に向かって浸透勁を打ち込んで終わった。
シェリルよ、俺と同じ武器の薙刀はどうしたんだい? 確かに内側から壊す攻撃は有効だろうけどそこは薙刀でやってほしかったよ。
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