第52話 気分はピクニック

 現在時刻は十四時。


「少し遅めのお昼が食べ終わった所で、ちょっとお話があります。みんなも奥まで来るのは初めてだと思うので色々分からない事がありますが、一つゲームをしようと思います!


 三チームに分かれて討伐数を競い合ってもらおうと思います。奥に行けば敵が沢山いると思いますが危険ですので、ダンマスのスキルで掌握したエリア内で討伐数を競ってもらおうと思います。エリアと言っても範囲だと分かるように、ダンマスのスキルでラインをひくだけなんだけどね」


 みんなの様子を見ながら、言葉を続ける。


「そのエリアを出るとみんなにも分かるようにしています。超えて討伐した魔物は無効なので注意してね。ただ討伐数を競うのは面白くないので、勝ったチームにはご褒美を考えています。急には思いつかないので、ほしい物やお願いがあったら可能な限り用意しようと思うので、勝ったチームは真剣に考えてね」


 娘たちもご褒美と聞いて、色々考えているようだ。


 色々考えているのはいいけど、まだゲームも始まってないのに気が早いのではないだろうか? 娘たちを連れて、外に出る。


「よっし、最後に一言! 無理だけは絶対しないこと。十九時にはここに戻ってくるように!ゲーム開始!」


 俺の掛け声に合わせて娘たちが一気に散開する。戦略や戦術より索敵や敵に遭遇できる運が試されると思うが、楽しむことも必要だと思うのでみんなには、訓練しながら頑張ってもらいたいところである。


 掌握しているエリアは、ラインを引いた地点から更に五キロメートルは広い。戦闘エリア内に入ってくる魔物を把握するためであり、危険がないかを判断するバロメーターにもなる。


「カエデ、俺たちも出発するか。この次のベース候補地を探しに行こう。ニコ・ハク・ギン・クロ、ついてきてくれ。スカーレット、後のことはたのむ」


「了解であります! 行ってらっしゃいませ」


 ニコはぴょんぴょん跳ねて俺の頭へ着地する。ハクは俺が乗る予定のウォーホースの頭の上に着地してキュイキュイ、早く行こうと鳴いていた。


 ウォーホース二匹に森の中心に向かうように指示すると、乗っている俺やカエデに負担をかけない様にほとんど上下する事無くかなりのスピードで進んでいた。


 あまり変わり映えのしない景色だが、時折ファンタジー世界ならではの光る花やコケが所々に生えていたので採取していく。敵は俺の索敵にひっかかると同時位にハク・ギン・クロの3匹のモフモフ達たちが瞬殺して、討伐部位やドロップ品を拾ってきてくれていた。


 戦闘シーンは見れていないが、接敵して次の瞬間には成仏しているようで一撃で葬られているのだろう。ここら辺の敵ではモフモフたちの相手にもならないようだ。


 しばらく進むと、森の雰囲気が変わった。木の幹が少し太くなり木の間隔も広がっているようだ。俺の索敵にひっかかった魔物は、今までのオオカミやイヌやイノシシ等とは違い、三メートル程の大きさをしていた。


 今までと同じで、索敵範囲に入った次の瞬間には三匹のモフモフたちが襲い掛かっていたが、十五秒ほど経って反応が消えた。時間がかかったのは、魔物のランクが上がってきたのだろう。俺もそろそろ一戦しておきたいので、カエデに声をかけて二人で一回狩ってみることにした。


 五分程進むと先ほどと同じ反応が2つ索敵にひっかかった。片方にはモフモフたちに譲って、俺とカエデ+ニコでもう片方へ向かっていく。ドロップ品で解っていたが、熊系の魔物だった。バーサクベアー、気性が荒いことで有名。Cランクの魔物としては上位の魔物で耐久力は、Bランクの中位程ある。


 耐久力は逸品か、でも他の能力が劣ってるからCランクの魔物なんだろうな。スピードで撹乱しながら切り込んでくか。


「カエデ、俺が囮をするから隙を見て切り込んでみてくれ。こっちこいや!」


 挑発スキルを乗せた挑発をすると、バーサクベアーは俺をターゲットにしたようで突っ込んできた。正面からぶつかれば流石に体重差で吹っ飛ばされるだろうから、受け流す形にしてみよう。


 薙刀の真ん中あたりを中心に拳二つ分くらい離して握り、武器を構える。突進に合わせて刃の腹をバーサクベアの顔の右側にぶつけて、その反動を利用して左へ回避する。攻撃を避けられた上に顔を叩かれたバーサクベアーは、怒りをあらわにして立ち上がり右手を振り下ろして攻撃してくる。


 俺は体を回転させつつ柄尻で攻撃の軌道を逸らす。続けて左手で横薙ぎに攻撃してくるが、今度は武器を回して柄尻を上から左手にぶつけ軌道を地面へと逸らし、下がった頭に回し蹴りをお見舞いする。ひよったバーサクベアーにカエデが切り込む、右腕が肘のあたりから落ちた。


 相変わらずの切れ味だ。耐久力に自信があっても切り落とされたら耐久もくそもないよな。カエデにヘイトが移ってしまったその隙に薙刀に雷付与をして胸の中心に差し込む。


 さらにそこで、雷魔法をアレンジして作った瞬間出力をあげた魔法版スタンガンを武器に流し込む。バーサクベアは一瞬痙攣してその場に倒れ、ドロップアイテムと化した。


「相変わらず、カエデの刀はすげえな。付与もなんも無しで耐久力の高いって言われてるバーサクベアーの腕を切り落とすなんてな。資料では、バーサクベアーってもう少し奥にいる敵じゃなかったか?


 やっぱり資料にはそう書いてあるな、何かが起こってるのは確定か。ブラッドオークみたいに見境のない魔物が生まれたとかじゃなければ、スタンピードが最有力候補か。経験値とDPになっていただきますかな」


「霞は私が手塩にかけて育てた私だけの武器ですからね、このくらいはできてもらわなきゃ困るわよ。多分ランクAの下位あたりまでなら、何とか武器の能力だけで対抗できるかな。そこから先は、やっぱり素材の問題で無理なんだよね。


 新素材が使えるようになったらまた打ち直さないといけないのよね。アダマンタイトとかどうやって加工するのやら。オリハルコンまでなら、高温に熱して魔力を込めながら鍛造すれば、加工できるらしいんだけど……何かしらのスキルが必要だったりするのかしら?」


「今のところそれらしいスキルは見つかってないよ。レベルが上がれば何か出てくるんかね? アダマンタイトってオリハルコンより上位の金属のくせに、召喚コストがオリハルコンの100分の1ってどうなんだろうな。加工ができない金属だから価値が安いってのは分かるけどあんまりだよな」


「ドワーフの伝承にアダマンタイトは、今までに加工できたドワーフはいない。神の領域に至ったものだけが加工できる伝説の金属って話があるわね。加工できないから伝説もくそもないのにね。それだけに加工できたら鍛冶神として崇められる存在になるんだろうけどね」


「召喚できる身としては、ドワーフたちに申し訳がない感じがするけどね。ここら辺って昔見たアニメの映画に出てきた森に似てるな、何かこう、右腕が疼いてくるような」


「シュウ、大丈夫? 疼くって呪いでもかけられたの?」


「あ~カエデ、すまん。特に深い理由はないけどそう思ってしまうってことだ」


「ふ~ん、よく分からないけどシュウに異常がないならいいわ」


 しばらく進んでいくと、一個目のベースと同じような場所に出てきた。ここに来るまでに、バーサクベアーが四匹、ワイルドウルフが三匹、ブラックサーペントが一匹でてきた。ワイルドウルフはCランク中位、ブラックサーペントはBランク下位の魔物である。


 大きめの強い狼と忍び寄ってくる毒蛇だと、思ってもらえばいいだろう。索敵にもひっかかりにくいが、臭覚でも敵を捕らえられる三匹のモフモフ達がいるので不意打ちは不可能であった。


「よし、ここら辺を二個目のベースにしようか。ここら辺が森の外周部と内周部の境目位だろう。ここから先はAランクの魔物が出てくる可能性があるな。本来ならここでもCランク上位あたりが妥当な範囲なんだでけどな。にしても見晴らしがいいな、シートでも敷いてサンドイッチでも食いたくなる」

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