第6話 戦闘訓練
地球のジャンクフードを堪能し一息ついていると、鐘の音が聞こえてくる。ここではだいたい六時、12時、18時になると鐘が鳴るみたいだな。だいたいというのは、正確な時計がないためである。
戦闘訓練の募集は、12時の鐘が鳴った後から開始され定員数になるか、1時間ほど経つと募集が締め切られる。冒険者じゃなくても参加できるため、朝から昼ころまで農業してきた人たちが、自分の身を守る術を身につけるために、この戦闘訓練を利用することも多いそうだ。
農閑期には1時間経たずに埋まることがほとんどだとか。農業をやっている人が減るのは、食糧事情に大きく影響するのでここの冒険者ギルドでは、推奨しているとミリーさんが教えてくれた。
冒険者ギルドの中には、それなりの数の人が集まっていた。参加しない冒険者っぽい人を含め30人程だろうか。受付やクエストボードがあるためかなり広い空間があり、30人いても全然圧迫感がない。
朝には100人を超える冒険者たちが入っていることを考えるとこの数は少ないのだろう。
受付に向かい、
「こんにちわ、戦闘訓練に参加したいんですが、まだ募集は大丈夫ですか?」
「あら、シュウ君じゃない。募集はまだしてるから大丈夫よ。そういえば、6日位毎日講習受けてたみたいね。講師の人達も真面目に勉強している君に感心していたわよ」
「そうなんですか? せっかく冒険者になれたのに知識が足りなくて、簡単なミスで死ぬとか嫌ですからね。こっちは必死ですよ」
「そういう人が増えてくれるといいんだけどね。戦闘訓練の申し込みを完了したよ。そうだ、私も今日の戦闘訓練の講師の1人だからお手柔らかに」
「え? 受付のミリーさんが講師なんですか? 戦う猫耳受付嬢、かっこかわいい? ですね。講師をするってことはそれなりに実力があるってことですよね? 俺がぼこぼこにされそうだ……」
「アハハッ。フレデリクの冒険者ギルドの職員の大半は、戦闘訓練の講師をしてるのよ。冒険者をやめて職員になった人もいれば、職員になってから鍛えた人も多いのよ。ここが混むのは基本的に朝だけだから、その時間以外で勉強したり鍛えたりするのもここのギルド職員の決まりだったりするんだよ」
ミリーさんにまた後で、と伝えて受付を離れる。
時間になり、教官と思われる人たちが戦闘訓練に参加する人たちを集める始める。パッと見、25人程集まっていた。
どこで戦闘訓練をするのだろう? マップで見る限り戦闘訓練できそうな広い空間はなかったけど……
移動すると告げられ、自分がこの街に来てギルドに向かった道を逆走している。ってことは、街の外に出るのかな?
しばらく歩いていると、予想通り門を抜けて街の外に出た。だが、道を進んでいくわけではなく外壁にそって少し歩くと、建物が見えてきた。建物の後ろ側には、広い空間があった。どうやらここが訓練を行う場所のようだ。
「さて、初めての人もいるから言うがここが訓練をする場所だ。ギルドだけじゃなく兵士も街のみんなも使ってる共同施設だな。では、こちらで勝手に別けた5人1組になってもらいます」
端から5人1組にわけられていき、グループが決まった。俺以外のメンバーは、冒険者というよりは、戦う農家さん的な感じだ。強さはわからないが、下手な冒険者より強く見えるのが不思議だ。
「あら、シュウ君の班に当たったみたいね。みなさん、この班の担当のミリーです。メインの武器は、棍です。長い棒とか両手にトンファーと呼ばれる武器を装備して戦うのが戦闘スタイルになります。みなさんも一応得意武器を教えてください」
俺以外の人は、棍棒がメインらしい。剣は高いし手入れにお金がかかるので、お金のかからない棍棒が多いようだった。農具で攻撃していたこともあるらしい、逞しいぞ農家さん!
「長物は、槍だけみたいね。棍棒メインの4名は二人に分かれてみて。シュウ君は私と組もう。とりあえず、一回対戦形式でどのくらい動けるか見せてください」
農家の4人の実力は、どんぐりの背比べのようだ。ただ、今まで何回も参加しているためか、かなり慣れた動きをしていて、俺のイメージしている農家にはとても見えなかった。
「では、私たちも模擬戦をしよっか。さすがにその槍は何かあったら危ないのでこっちで用意した木槍を使ってもらうわね。重さが違うだろうから戸惑うかもしれないけどそこは我慢してね。じゃぁ行くよ」
ミリーは話が終わると真剣な顔になり、距離をつめてくる。
構えてどう攻めようか迷っていると、鋭い突きが最短距離で迫ってきた。慌てて下がりながら払い、突きを受け流す。
「あぶね、いきなり怖いですよ」
「戦闘は待ってくれませんよ、特に奇襲なんかの場合は危ないなんて言ってる暇はないですからね。冒険者は常に戦闘できるように心がけてください」
会話をしているのに、よどみなく突き・払い・強打などの攻撃をしてくる。ミリーのレベルも15なのだが、能力向上のある俺より鋭い動きをしてくる。これは獣人の特性なのだろうか? 何とか、かわしはじき受け流すことができている状態だ。
「シュウ君すごいね、冒険者になったばかりなのによくここまで動けるね。私これでもDランク相当の実力があるはずなんだけどな。自信なくしちゃうよ」
ミリーの言ったDランクは、冒険者の質を表すものだ。純粋な強さだけではなく、様々な対応を含めた総合力で質を表すのだ。
まぁCランクまでは、あきらかに粗暴で野蛮でない限り強さがものをいうが、B以上になってくると強さの上に上流市民や貴族からの依頼も増えてくるため礼節がしっかりできないとなれないのだ。
ちなみに、冒険者のランクはG~A・S(シングル)・SS(ダブル)・SSS(トリプル)の10段階に分かれている。Cランク以上は、強制依頼と言われるクエストを発行されたら参加しなくてはならない。参加しないと資格のはく奪をされてしまう。
「これでも、一人旅をしてきたので腕にはそこそこ自信がありますよ。むしろギルド受付のミリーさんがDランク相当の実力がある方が驚きですよ」
「専門ではないのですが、それなりに鍛えていて獣人というアドバンテージがあるのに攻めきれないのですから、自信をなくしてしまいますよ。実力は把握できました。いったん中止しましょう」
やはり獣人は、身体能力が高いのだろうか。後、とてもカンがいい気がする。払って態勢を崩して死角を突くように攻撃をしたのに、俺の槍を見ずに回避したのである。
気配察知をしているかもしれないが、五感が鋭くカンがいい可能性もあるか。
「棍棒の4人は、実力が拮抗しているので4人で組みなおしながら模擬戦をしていきましょう。模擬戦をしていない人は、模擬戦をしている人たちの動きを見て自分ならどのように動くか想像してください。
私は、拙いところや改善するとよさそうなところの指摘をしたいと思います。体の使い方も工夫できそうなところは助言させてもらいます」
「あれ? 俺は?」
「シュウ君は、私と模擬戦を何回かしましょう。今のところ実力が拮抗していると思うのでそれだけでも得るものがあると思います。ただ、対人戦に慣れてきたら負けそうですが」
他の四人の模擬戦を見て、色々話したりアドバイスっぽいことをしていると、だんだん動きがよくなっているような気がする。
目に見えて動きが変わっているわけじゃないが、短い時間で何かをつかんでいるようだ。密度の濃い経験値は、スキルを誘発するのだろうか? 原因はわからないが、何かが良くなっているのだ。
俺の順番が回ってきて、ミリーと再び向き合う。
「今度は、本気で行くよ。あの動きにも問題なく対応できたんだからね」
「じゃぁ俺もできうる限りの力で対応させてもらいます」
話が終わり、今度は俺から距離をつめる。
狙うは、最短距離での最速の突き。
「キャッ! 今さっきのお返しなのかな? かなりきわどい攻撃だったね。私もいくよ」
先ほどの模擬戦とは違いスピードの質が変わっていた。おそらく速さは変わっていない、目で見ている速度が変わっていないのだ。だが、対応が難しくなっている。なんでか分からないが、さばき辛くなっているのだ。
次第に対応できなくなり、突きが肩に当たり態勢を崩して足を払われてしまう。ここで勝負が決まった。
「お疲れ様です。やはりいい動きですね。冒険者としてやっていくにも問題ないと思います。私からアドバイス出来ることそう多くはなさそうですね。これから経験を積めば、もしかしてシングルやダブルになれるかもしれないです」
「強くなりたいですけど、厄介事が増えるのは勘弁かな」
「何となく言いたいことはわかりますね。ランク高い人が増えるのはギルドとしてはうれしいですが、それを強引にかっさらってく貴族も多いですしね。この街ではないですが、よそではよくあるみたいなので外に出る際は気を付けてください」
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