第35話
仏壇の前が物騒なことになっている。鑑識とか刑事とか……女性の捜査員もいるようだが一度もこの家でたくさんの人数招いてパーティとかせずに事故ってその後死んだわけで、まさかの大人数の集まりが泥棒入ったから、というのはあまりにも悲しい。
三葉は一度病院に行き、その後戻ってきた。倫典と一緒に。会話を聞いてると何事もなかった、身体中が痛いとのことで左手、左腕が少し他よりも強い痛みがあると言って湿布を貼っていた。すまない、三葉。
「奥様……ほんと怖い思いをしましたね。でも途中で犯人から縛れと言われたんですか?」
「……そうなんです」
三葉は答えたいようだがやはり恐怖で声が出ない。横にいる倫典が背中をさすって落ち着かせている。
「この部屋に来てから記憶を失って、気づいたら犯人が私の上に乗っかっていて……手足は痛いし。でも急に口調が変わって、自ら手足を伸ばして『俺を縛ってクレェええ』って叫んで……」
「犯人が言うには途中までは三葉さんが竹刀を握って応戦してたようですが女性の割には力が強かったっていてたんですよ」
……それは俺が乗り移ってたからな。倫典は仏壇の方に視線を移した。
「倫典君、どうしたの」
「いや、その三葉のこの腕痛み……そうだ! 大島さんが助けてくれたんだ」
お、おい! それは言うなよ。三葉も刑事さんもおかしいって思うだろ。刑事さんの方はハ? って顔してる。
「……和樹さんは確か左利き……それに竹刀。倫典君、そうね。和樹さんが私を守ってくれた……」
三葉……。うん、俺はお前を守った。泣くな、三葉。
警察も帰っていった。倫典しかこの部屋にはいない。三葉はトイレに行った。
「大島さんだよな、三葉はネックレスをしていた。ありがとう」
うむ。ここでは言ってもいいぞ。
「そして犯人に入って。そうか、このキーホルダー……遺骨ジュエリーを身につけている人に乗り移れるのか、って危ない、今持ってたからその隙に」
こんな形でこの法則がバレてしまったか。しまったな、今のチャンスだったが。キーホルダーは無事戻ってきてよかった。また仏壇前に置かれている。
「てか、聞いたか」
あぁ。三葉のいないときに刑事さんが言ってたな。俺は目の前で見ていたんだが。犯人の体の中で。
「犯人、亀甲縛りされてたって……」
あぁ、最高だった。亀甲縛り。じゃなくてなんで三葉はあの縛り方を知っていたんだ?
「ここだけの話だけど、三葉さんが一回だけ話してくれたんだ。大学生時代にSMクラブで働いてたって……」
……。知らん、知らん!!! そんなこと知らんし、なんで俺には言わずに倫典にいうんだ。で、それ告白された後にお前は三葉からどんなプレイ受けたんだ? あん? そんなそぶりもなかったが、手慣れた感じもあったしまぁ美人だからいろんな男を超えて俺のところに来たものだとは思ってはいたんだけどな。
生きているうちに三葉のプレイを受けたかった。あの男の体で受けた亀甲縛りと竹刀でぐりぐりって。最高だった。
「まぁその話はいいか」
よくはない!!! 話を変えるな。
「どうやら犯人は前からこの家を狙ってたらしいな」
……そ、それは刑事達の話を聞いていたがどこからかこの部屋には夫を亡くした若い未亡人がいるという情報が裏筋で流れていたそうだ。
そもそもここのマンションの住人は俺たち以外は金持ちが多かったからなぁ〜。まぁもしかしたら見栄張ってる人もいるかもしれんが。
「俺の出ていったのとすれ違いに入ったから。本当に悔しい。大島さんがいなかったら今頃三葉さんは……」
そう気にするな。助かったんだからな。あぁ、三葉に入って話すか。倫典はお調子者だが凹むときは本当に凹むからなぁ。
「でも俺がこの部屋にいてあの男から三葉を守れたんだろうか。俺は大島さんみたいに強くない。強くなりたい、強くなりたい」
今からでも間に合う。毎日稽古すれば。高校一年から始めた部員だって早ければ二年目で、大人になってもお前くらいのチビでも数年で剣道部員総当たりでストレートで勝った奴がいるからな。
あぁ、あいつは元気にしてるだろうか。倫典や高橋くらい、いや彼ら以上にメンタル弱い部下。今はそいつが俺の代わりに剣道部の顧問になって部員達を引っ張っていてくれていだろう。彼とも試合を交わしたい。
「倫典君?」
三葉だ。彼女に乗り移って話をしたいが……。
「どうしたの、ちょっと目が赤い」
「いや、そのさ。僕は三葉さんを守ってやれるかって」
俺は少し見守ってやろうか。
「……大丈夫、大丈夫、今こうしてそばにいてくれるだけでもすごく守られているわ。あなたがいなかったら怖かった」
「そうなんだ、それならよかった。三葉さんをこれからも守っていく」
「ありがとう、私も何かあったら守る……亀甲縛りだったり、なんだったらムチだってできるしね」
「そうだね。でも僕にはハードすぎるよ。そういうのは夜だけにしてください」
……! なんだ、この雰囲気は。黙って聞いてはいたが。
「あら、夜だけじゃなくてもいいのよ。結構好きだもんね、倫典君」
三葉?!
「好きっていうか、なんというか……好きです。非日常じゃないって感じが」
倫典ぃいいいいいいいい。
「ふざけんじゃないぞ、倫典」
「そうそう、そうやって上から目線の口調になるのが好きで。僕の中のMな部分が、ってまさか……」
そうだ、俺は三葉に乗り移った。ふざけてんじゃねえよ。まぁ恋人同士どうなったっていいがまた俺の前で見せつけるようなことしたらただじゃすまねぇからな。
「ごめんなさいー!!!!」
「さぁとっとと帰った帰った!! 明日の朝、高橋を連れてこい!!!」
「大島さーん、ごめんなさいっ。そろそろ認めてください、僕と三葉さんとの関係を」
俺は大人気ないことをしたな。にしても左手痛いな。ごめん、三葉。倫典は土下座してるし。いい加減大人になれ、俺。
「わかった。いちゃつくのは俺の前以外でしろ。さっさと寝室行っていちゃついてこい、したかったら!!!」
「は、はい」
倫典と寝室に入ってから俺は仏壇に戻った。そいや乗り移った時に事故してから死ぬまで下半身麻痺だったのにちゃんと歩けたし動けたし。あれなんでだろうか。それ気づかなかったけど。
そうだ。足も元に戻って歩きたい、それも思っていたっけな。それが気づいたら叶ってたのか。なんとも不思議なことだ。
……。
……。
寝室から2人の愛し合う声が聞こえる。
しまった、目の前でするなって言ったものの声小さくしろよっていえばよかったぁあああああああああ!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます