招かざる客

第33話

 ガタッ……がんっ!!!!


「いやぁあああああああっ」

 三葉! どうしたんだ! こっちにこい。足音が三葉だけでない。もう1人ドスドスとした音が聞こえる。誰だ、誰か入ってきたのか? 確か三葉はあのネックレスをつけているから乗り移れるよな。よし、まだ姿見えないが乗り移る!!!



 ……あれ、なんでだ。乗り移れていない。

「やめてっ、近づかないで」

「お金を出せ……それか何か金になるものを」

「そんなのこの家にはないわよ!」

「こんな高級マンションに住んでいるくせに……」


 野太い声の男だな。同じ家の中にいて三葉はあのネックレスしているのに乗り移れない。……まさか一緒の部屋にいないと乗り移れないのか? なんなんだよそんな設定!

 今はそんな場合じゃないだろ。三葉が危ない状況なんだぞ。せめて……三葉、こっちに来れるか? 


 がっ!!! がんっ!!!


 なんだこの音は。怪我していないか?

「ちくしょう、リモコン投げやがって。血が出ちゃったなぁ。もう一回何かやったら刺すぞ。刺してその身体をいたぶってやる!」

 怪我をしたのはあっちの方か。……いたぶるって言ったよな? 三葉っ!!! こっちこい。俺が助けてやる!!


「やってみな。私に手を出したら窃盗よりも罪は重くなる。それに私が死んだら死刑もありえるわ」

 すごく強く立ち向かってるな。怖いだろう、声が震えている。あぁ、仏壇の横に置いてある俺の愛用の竹刀を早く握って倒したい。三葉を守れなかったらもう成仏したくてもしきれないじゃないかっ!!


「そんなのはいい……とにかくお金、お金だ!!! お金を出せば何もしないぞ」

 いや、そんなこと言ってお金を出したところで引き下がるわけないだろ。ってミステリードラマやサスペンス映画の見過ぎか?


「わかったわ、あっちの部屋にあるから……」

 あっち……あ、ここだ。早く三葉来るんだ!!! 三葉が後ろ歩きで部屋に入ってきた。息も荒く、顔も強張っている。やっぱり怖いよな。ネックレスもついている。

「まだこのマンションのローンも残っているし、主人の医療費でほとんどお金はないわ。雀の涙よ、それでもいいの」

 ……やっぱりないんだ。こんな状況で家の財布事情が知れたのはなんともいえない。

 部屋の外にいる男の鼻で笑うのが聞こえた。笑うんじゃねえ。てめえもお金ないから強盗に入ったんだろ。にしてもなんでここを狙ったんだろうか。もともとリサーチしていたとか。

 それにここまで入ってくるのにオートロックが……住人が出て行く時に入ったのか。って倫典と入れ違いにだ、きっと。時間的にも。

「動かないでちょうだい……そこで待ってて」

 震えてる。怖いだろう。それにまたその露出の多い服で怖いだろう。大丈夫だ、安心しろ。俺が守ってやるから!!!






 俺は三葉に乗り移ったが目の前の光景に絶望した。

「さて、どこにあるのかなぁー」

 かなり体格のある男が目の前に立っていたのだ。


  この部屋の入り口に頭が着きそうだから俺よりも背が高く190センチくらいだ。倉田も少し頭につきそうだった。そうか、背の低い三葉に乗り移ったからさらに大きく感じるか。

 息を飲む。心拍数が上がっている。落ち着け。俺は178センチだった。180後半、190センチ台の選手とも数回戦ったことがある。もちろん国体優勝経験のある俺はそいつらに勝ったんだ。苦戦を強いられた戦いであったが。

 勝てる、三葉を守れる。……いくらその男の左手にカッターがあっても。俺には長い竹刀があるんだ。少しずつゆっくりゆっくり俺は下がる。


「へぇ、ご主人……亡くなってるのか。立派な仏壇だこと。これも高く売れそうだな。まぁ持って帰るの大変だからやめとく」

 そうなんだよ、前から気になってはいたがたいそうえらく立派な仏壇だって思ってはいた。ずっとここの中にいたがそれには気づかなくてスケキヨに乗り移って仏壇見た時にそう思った。

 絶対金かかってんだろうな。まさかあの倉田の紹介か、あいつはいろんなものを紹介しつつも金目のものばかり三葉に売り付けてないか。

 遺骨ジュエリーもそうだし、遺影だってあんなん、写真館に頼むほどでもなかったし、ペット葬はあれだが今度の墓もきっと高いやつを売りつけるんだろ。


 いや、今はそんなの考えている場合ではない。気づかないように竹刀を握って……。

「おやぁ、この猫のキーホルダー。なんか高級そうですなぁ」

 あれはスケキヨの! ただのキーホルダーにつけただけだが……。見る目がないな。

「……これいただこう」


 その隙に! 俺は竹刀を握って男に振り払った。

「うおりゃぁぁああああああああっ!!!!」




 がしっ。


 えっ? 竹刀を男が握っている。なんでだ……。しかも握られて……三葉の体だから力がいつも以上に入らないのか? でもなんとか耐えれる。

「ごめんねぇ、僕も写真のご主人みたく剣道やってましてねぇ。しかも……柔道もやってたんですよ。……元警官なので」

 グゥううううっ! 元警官が泥棒かよ。最悪じゃねぇか。反対の立場にいた男がなんでこんなことをするんだ。これ以上力を堪えると三葉の体が壊れる。俺が抜けた後にかなりのダメージを受けるぞ。だが守らなくては。三葉を守りたいっ。


 ……俺は竹刀を離した。それでも腕や手首が痛い、ごめん……三葉。もう素手でしかない。竹刀は男が握っている。

 その竹刀の先で胸をツンツン触ってきやがった。やめろっ!! 乗り移っても感じるんだ……なって、今はそんな場合ではない。

「ギャンブルにハマっちゃってさ、金もなくなるわ妻も子供もいなくなるわ……最悪なんだよ。もうしばらくあっちの方もご無沙汰だ。奥さんもこっちの方はご無沙汰だろ? いい身体して……って夫が死んでから他の男と遊んでたりしてなぁ、ひひひ」


 気持ち悪い、さっきから竹刀で三葉の胸をついてきて。しかもだんだん強くなってきている。奴の股間もズボンの上から見てもわかるくらい大きく膨らんでいる。

 気持ち悪い笑みを浮かべて、目の下はクマができていて剃り残りのヒゲに、だらしない体。色々問題ありじゃねえかっ。そんな体で三葉に乗っかってきたら終わりだ。さっきまで足腰で踏ん張っていたせいか力が抜けてしまってる。腰が抜けるってこんな感じか? ううう。くそ。


「お金出すとか言って全く出してくれない、そんな奥さんには……お仕置きしなくちゃですねぇ、未亡人に色っぽい体、夫の仏壇の前での陵辱!! 最高のシチュエーションだ!!!」

 倒れ込んできたっ!!!! これはもう終わりだっ!!!!


 ……あ、そうだ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る