第31話
「もう美帆子さんと塾長の婚約破棄が塾の裏掲示板で書かれているよ。しかも今年をもって退職……わぁー早いなぁ」
倫典はソファーで寛いでいる。仕事帰りでネクタイを緩め、三葉のご飯を食べてお腹いっぱいにしてリラックスしている。
「もったいないよなぁ〜経営者の妻、きっと住む家も大豪邸。安泰だろー」
ってお前の実家も大豪邸だろ、まぁしばらく行っていないだろうが。いくら金持ちでもいくら大豪邸でも心が満たされないとダメなんだよな、やっぱり。
美帆子も美帆子らしくこれから生きていけるといいよな。そうすれば俺みたいに後悔することもなくあの世へ、って勝手にこっちの世界に入れちゃダメだ。
それに美守もほっとしただろう。しばらくは母子の生活は続くだろうけども無理して生きるよりかは全然いいかもしれないな。
「美守君っていう小さい仲の良い友達もできたし……」
うんうん、美帆子の結婚の話がなかったら美守はこの家に入ってくることはなかったもんな。
「なぁ、大島さん。今は三葉の中にいるけど、こないだ美守君に入っていたでしょ」
ぎくっ。俺は倫典が寛いでいる横でクローゼットにあった写真のデータから俺の写真をパソコンで探していたところだった。三葉に乗り移って。
「スケキヨの葬式でうずくまった時から……だろ。あそこからおかしかったし、美守があんなに号泣するのはなぁって後から思い返したらそうだって思った」
……勘が鋭い、おまえにしては。
「今回の美帆子さんの婚約破棄も大島さんが関わってたりするよね……」
「関わっているっていうか、なんというか。俺が背中押してやったんだよ!」
「フゥン」
倫典、なんだよ。
「今までスケキヨと三葉さんしか乗り移れなかったのになんで美守君に乗り移れたのか。僕わかった」
……しまった。もうバレてしまったか。
「仏壇にスケキヨの首輪置いてあったのに無くなっていた。……でも今見に行ってきて」
俺は見に行った。気づいていたのか、美守が持っていったの。そういえば三葉が今日朝に来ていた美帆子から何か受け取って仏壇に……って! この猫のキーホルダー!
「美守君がスケキヨの首輪についていた遺骨ジュエリーを持っていた猫のキーホルダーにつけて美帆子さんを通じて今朝渡したっ言ってた。その時に来いたよ。大島さんに乗り移られたことを楽しそうに」
俺はキーホルダーを握った。もうバレたらしょうがない。
「……あぁ、そうだ。あいつが持っていったんだ。それにあいつに入ったまま美帆子の元婚約者のあの塾長に対して美守の本音も伝えたつもりだ。色々あって俺が話を聞いて総合的に判断した言葉を代弁しただけだ」
どう思うんだろうか。ずっと黙っておきたかったのに。子供の口は軽いな。
「もぉ、僕に内緒で勝手なことしないでよ。それくらいだったら僕も協力したのになんで黙っていたの」
お前にはその遺骨ジュエリーを持っている人に乗り移れる法則バレたら都合が悪いんだよ。だから黙ってたんだよ。ってことは言えないが……。
「でも不思議だよなー。骨に魂が宿るのか……てことは俺もそれを身につければ乗り移られちゃうのかよ。怖いな……」
「不思議だよな。そんなに俺の骨はしっかりしているのか?」
「そんな小さいジュエリーになってでもそんな効果あるなんてどれだけなんだろうねぇ」
倫典は相変わらずヘラヘラしている。本気でお前に乗り移ってやるぞ。俺はパソコンを見ていい写真を見つけた。事故に遭う数ヶ月前の剣道部の試合で三葉が部員たちに差し入れしてくれた時の写真だ。こんな写真、いつ撮ったんだろうか。
横に三葉がいて、部員や保護者の前だから隣にくっついて撮影するのは恥ずかしかったが……デレデレする姿はみっともないと平然を装って顔作って写真撮ったつもりだったが三葉の笑顔につられて笑っている。
「これいいっすね、これにしましょうよ」
「じゃあよろしく」
「了解しました……あっ」
ん、倫典どうした? 写真を俺に渡してきた。俺の横に写っているのは部下である高橋だ。こいつも応援に来たんだっけな。ヒョロッヒョロで頼りなさげで生徒たちからも馬鹿にされているが優しいのが取り柄の一番心配している男だが。(実の所倫典よりも心配)
「こいつ、僕の知り合いだ……最近あっちが結婚して子供ができたから会ってないけど、辿れば連絡先出てくるかも。そいや教師やっているとか言ってたけどまさか大島さんと同じ高校の教師だったんだ」
「え、類は類を呼ぶ……」
「なんすか、ルイって」
……それはチャンスだぞ。どうやって高校に潜入しようか悩んでいた。ツテはあったがどうやって遺骨ジュエリーを渡すかが問題だった。それに倫典はまだ法則がわかってなかったけど今回の件でわかってしまったからこそようやく実行できそうだ。
「部下だったら一周忌で……ここに呼び出して乗り移りましょう」
「そうだな……って高橋とはどんな繋がりなんだ? 少し歳が離れているが」
「えっ、と。そのですね……」
ん? 口籠ってる。なんでんだ。
「まぁ好きなものが一緒っていうか……なんていうか」
好きなものが一緒? 趣味か? 倫典は断固して言わない。
「あの、その、てかバレちゃうよなぁ」
あぁ、いつかはバレるだろ。
「僕と高橋君は地元アイドルの清流ガールズの美玲ちゃんのファンともなんですぅ!」
なぜそんな大声で言うんだ。
「えっ、何それ」
「えって、僕は美玲ちゃんのファ……ってまさか」
「倫典君、いきなり何その告白……」
今俺は三葉から抜けて仏壇に戻った。三葉はもちろん俺が乗り移ったことを知らずして仏壇の前に立っており、なぜ自分が今もらった猫のキーホルダーを持っているのかわからないだろう。そしてここ数分の記憶とともに抜けきっているというのも。
「これ可愛いよね、美守君がスケキヨだと思って大事にしてね、寂しくないよ、そばにいるよってつけたんだって。4歳なのに可愛いことしてくれるよね。きっとモテるわよ、あの子」
実はそれを考えたのは俺なんだよ、美帆子たちの部屋に転がっていた猫のキーホルダー見つけそれに付けて美帆子に渡したんだ。
「……三葉さん」
ん? ん!!!!! なんで俺の目の前で、俺のいる仏壇の前で三葉を抱きしめる。
「倫典君……」
このやろ、三葉に乗り移って……って乗り移れない??? いつの間にか三葉の首と手にあった遺骨ジュエリーを仏壇に置いた!?
てことは……。
「寝室でしましょう」
「ここで今すぐ三葉さんを抱きたい!」
「電気消して……あっ」
「愛してるよっ、三葉さん……」
地獄だ。目の前で妻が寝取られた。
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