第14話
ネックレスの先についているすこし大きめなこの塊は三葉のものとスケキヨのについている。そして俺の名前。まだ真新しい。最近作ったものだろう。これは生前つけていなかった。
「これなあに」
「わからない。でも名前がついているってことは俺に関するものなのか。身につけているってことは俺のことを忘れない……ために」
不意に涙が溢れる。そういうことだよな、きっと。肌身離さず俺のことを忘れないために俺の名前を刻印したものを……。にしても何が入ってるのか?
「おじさん何泣いてるの」
「いや、ちょっとな。嬉しいだけだ。死んでも俺のことを忘れずにいてくれたってことだ」
「よかったね、おじさん」
美守に頭を撫でられた。
恥ずかしくてティッシュで涙を拭き、自分……三葉の顔を叩いた。子供の前で泣くのは嫌だ。美守の口元をもう一枚ティッシュを出して口を拭いてやると、ありがとってニコッとした。
「それよりも美守くん、ママは今日何しに行ったの。仕事?」
俺は話を切り替える。
「違うよ……」
ニコッとしていた笑顔が一瞬にして曇ったぞ。どうした?
「ママ、結婚するんだ。今日はお話ししにいくんだって」
結婚? 美帆子が……。美守も連れて行けばいいのに。子供のいない三葉に預けるのは……結婚式場でも託児がないところなのか。
そうか、再婚……。確か美帆子が離婚したのは美守が生まれる前。4、5年経てばそりゃ彼氏の1人や2人……。
三葉に倫典や倉田という男が近づいている。三葉もまだ若いと言ったら若い。高齢出産になるがまだ子供も産める。スケキヨと彼女1人このマンションの部屋一室で生きるのだろうか。もし彼女に何か起きたら……やはり彼女もいつか誰かと結婚をしてしまうのだろうか。それは倫典なのか、それ以外なのか。
「おじさん、何考えているの?」
「すまん、1人で色々考えていた。新しいお父さんができるってことだよね」
「うん」
「どんなお父さんなんだ?」
んーっと美守は首をかしげる。するとすぐにアッと声を出す。指差す方はテレビ。そこではCMが流れている。美帆子が講師を務める塾のCMだ。母親の働いているところだとすぐわかるんだろう。
「この塾の社長さん」
「社長さん?!」
まじか。美帆子、社長と結婚か。じゃあ美守は安泰である。羨ましい。俺は単なる高校教師、公務員。安定はしつつも割りに合わない給料だ。残した貯金もわずか。このマンションのローンは残っている。
三葉もだ。仕事をしていても貯金はこのマンション購入、そして不妊治療代でほとんどないのよね、って笑っていた。そして俺の事故と入院と……死。
大丈夫なのか、三葉。倫典と再婚すればってあいつは確か実家の系列のところに勤めているが家から出ているって言ってた。勘当されたって。親からの援助も一切なし。こないだ質問責めした時に貯金はほぼないしあの外車のローンが残ってるって言っていた。
また我に返ってふと美守を見るがやはり浮かない顔をしている。
「新しいお父さん、社長だし金持ちだしママと一緒に安心して暮らせるじゃないか」
そうだそうだ。安泰だぞ、美守。でも子供はピンと来ないのか。
「おもちゃも欲しいものも手に入る、学校だって頑張り次第でいいところにも行けるぞ、羨ましい。俺なんて金がないから一生懸命勉強して奨学金もらって大学いったんだ」
奨学金返していったから貯金ができなかったというのも事実である。
それでも美守はいい顔をしない。
「あんな人僕のパパになるなて嫌だ」
……えっ。
「おじさん、ママの結婚やめさせてよ!!」
どういうことなんだ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます