灰の月兎
Ibu -イブ-
灰の月兎
灰の月兎
この地球が夜を照らしていた、あの月の様に
突然として灰の景色と化した
その予兆は無く、一瞬にして色彩が
「白」「黒」「灰」この三つだけとなった
それはまるで昔のテレビの様な
それはまるで昔の写真の様な
照らしてくれた太陽も光が届かず
空すらも灰色に染まった
きっと地球の外にいる人にはこう見えただろう
「地球が月になった」と
今、この僕がこの記憶を書き記すことができているのも
黒そして白があるからだ
色は付けれない
抑々色などあっただろうか
きっと、この現象は
僕らのこの戦争に対する天からの鉄槌だったのだろう
予想できる限り、この灰で生き残ったのは
力ありし者
知恵ありし者
若き者
そして
僕の様な運のよかった者だけだというのが
この静かな大地から犇々と感じることができる
僕は力は無ければ知恵も無い
かといって若くも無い
50を超えた立派なおじさんだ
僕は持病の治療の為、20才を超えた辺りから
冷却による延命治療を行ってきた
その時僕に延命治療を行う際
「今の技術では君を生かす事は出来ない」
「だから30年、冷却による仮死が行われる事を重々承知して欲しい」
「30年後君を迎えに誰かが来るだろう、その時迄待って欲しい」
私の持病は世界的に見ても珍しいモノらしく
その研究として僕が選ばれたらしい
そんな話を事前に聞いていたので
心の中で
「何故僕を生かす必要がある、どうせ玩具の様に扱われる位なら...」
そこから先は考えなかった
考えてしまったら恐らく自害してしまうだろう
そう思ったら
「どうせ長くない人生だ、賭けにでも行こうじゃないか」
そう自分に言い聞かせ
その話を受け入れた
そして冷却され私の意識は遠のいた
恐らく僕が起き上がる迄
色んな研究をされるだろう
どんな研究でどんな事をされるのが
僕は分からない儘
恐らく30年眠り続けた
そして、その治療が終わり目が覚め
時間は20の時から30年は経っている...だろう
あの話が本当なら
私は50を超えたおっさんになっているだろう
目の前の鏡を視て、見た目若きおっさんになっているのを感じた
ただ、様子が可笑しい、誰も迎えに来てはくれない
僕はこの迷宮の様な施設を歩き回り、彷徨っていた
すると不意に灰の匂いがした
その匂いを頼りに進んで行くと
扉があった、その時に僕は異変に気付いた
施設の何処にも色が無い
人が居る筈なのに僕以外の人が居ない
恐怖を感じた
だか、自分は恐怖心よりも先に好奇心を得てしまった
「30年後のこの世界はどうなっているのか」
そう言いながら僕は扉を開けた
想像を絶した、建物は殆ど破壊されて、
身の回りには戦争?で使われる様な、そんな兵器が横たわっていた
僕は察した
僕の眠る30年の間に戦争があった事に
どんな戦争なのか、僕には想像はできないが
恐らく”何がか“あったのだろう
周りを見ても
まるで永眠でもして居るかの様に
息をしていない、只目を瞑る少年少女がそこら中に横たわっていた
何なんだ?この戦争は子供迄巻き込まれた戦争なのか?
然し、大人らしき人が一人として見かけない
察して戦争が起きた事は分かったが
その詳細迄は全く以て理解できなかった
此処で自分は今迄の情報を整理する為に
此の月の様に灰と化してしまったこの星で
呼吸をした
少し苦しかったが、其れも此の歪な匂いが理由なのだろう
僕は誰か一人でも生き残っている人が居ないが探す旅に出た
そう云えば、あの時僕に延命治療を行っていた人は何処へ行ったのだろうか?
抑々...いや此れは憶測に過ぎないが、僕に対する研究はこの戦争が起きる迄の間
どれ程の時間が有してあったのだろうが?
何時頃研究が終わったのが?若しくは終わらせざる負えない状況になったのか?
其処が分からない、30年と約束したと云うのに、お迎えが来なかったのも不思議だ
恐らく、調べていけば分かる事だろう
そう頭を巡らせ乍ら、僕は歩いていた
...幾ら歩いたのだろう、治療のおかけなのもあってか
昔と比べて気楽に歩ける様になった気がする
僕が探していた”何がか“が分かる日が来るのだろうが
僕が今見ている、この景色と一緒で人もモノクロで構成されていた
そう、此の世界は灰に包まれたかの様に
色という概念が研究所を出てから一切感じられなくなっていた
色を探すと共にこの現状を知る為
この異常な世界を歩いていた
そうして歩いて行けば流石に多少の生きている人が見かける事が増えてきた
然し、誰彼皆、まるで発狂でもして居るかの様に
叫ぶ者、泣く者、呆然としている人、沢山の人が居た
正常で居られる人を見かける事は今の所無かった様で
僕は
「余程の戦争だったのだろう」
と思い
少しの憂いを感じ乍ら進んでいた
するととある旅人に出会った
その人は他の人と比べるとまだ正常に見えた
相手も僕の様なまだ正常で居られる人が居るというのに
少しの吃驚を見せ乍ら
少しの話をして、すぐ意気投合する事ができた
そしてその流れで今起きている現状がどの様な事なのか?
知っている事があれば教えて欲しいと問いかけた
すると旅人は
「私は全てを知っている訳ではない」
「でも、その全てを知る事が出来る場所がある事は確かだった気がする...」
その情報だけでも十分だった
でも、その場所が分からなければ話は進まない
僕は彼にその全てを知る事が出来る場所を地図で記してくれた
其処で最後に
「もしまだ出会う事がありましたら、まだお話をしましょう」
そう一言残してくれた
僕は貴重な正常な人と別れを告げ、僕もまだ旅に出た
その地図を頼りにどれ程歩いたか分からぬが
丁度月が見えて来て、其処から見渡す月兎が憎ったらしい程笑みを浮かべるそんな日
僕はとある異常に気付いた
空腹は何処へ行った?好奇心はまだあるが
欲というモノは殆ど無かった
食欲も湧かず、睡眠欲も湧かなかった
治療の際の副作用か?
そう思いながら只管目的地迄ずっと歩いていた
この残虐な光景を目に焼き付け乍ら
すると一人本に何がを書き記している人が居た
何を書いているのだろう?と思い乍ら
丁度目的地の所に立っていたので
恐らくこの人そのものが全てを知れる場所
言い換えれば知れる人の居場所と云うべきだろうが
僕はその人に話しかけた
すると其処で何がを書き記していた人が
「ん?どうしたんだい?私で良ければ何でも聞くよ?」
そう云ってくれた僕にとっては二人目の正常者に
僕は
「僕が寝ていた30年の間に何があったんだ?
君に聞けば全てを知る事が出来ると聞いたんだ
教えてはくれないか?」
すると彼は書き記していた本をバタンと閉じ
「全ては此の本の中に記したつもりだ
君が望むのならば僕が持つ全てを君に与えよう」
そう云って彼はその本を私に渡してくれた
僕は読むのが地味に苦手な人だ
それは昔から一緒だった
そして、僕は其の小難しい事に対して
今起きている事を知る為に
その本を開いた
その本の内容は沢山の字列で埋め尽くされており
僕自身大まかな内容だけしか分からなかった
其れを察したのが
その少年はその本の内容について教えてくれた
...今思えば知らない方が良かったのかもしれない
話によるとこんな内容だった
今から約1年前、二つの宗教が悪目立ちしてた頃
確か...「サクランボ教」と「偉大なる兄弟教」と云う名前だった
その二つの宗教はこの世界の終焉を願っていた
其れは今この状況になったから判明した事だか
その時は誰も知る人はいなかったらしい
そして、作戦への決行に移り
世界中が混乱で満ちてしまったらしい
そして、とある少年の一言、此れを利用した「サクランボ教」の信者が
その少年を虐待へと導き、戦争が始まった
最初は皆が想像しやすい”戦争“だったらしいが
「微小粒子状核兵器物質」
此れの導入により
多くの死人を出した
その戦争は軈て世界中に広がり
終わらないものだと思っていたとある日
通称「分争」と呼ばれる通常兵器による
大量粛清の作戦が決行され
避難に遅れた人が死に絶え
人口的には大人よりも子供の方が上回った瞬間である事が分かった
そこでその「微小粒子状核兵器物質」を応用された
子供達による戦争
「偉大なる兄弟教」が運営を務める
通称「GAME戦争」が始まり
現実世界ではそんなに経っていないが
彼らの「GAME空間」の中では
実質100年近く感覚として戦争を行っていたらしい
そして、残り少ない大人が運営していた
その「GAME戦争」が終わり
「DELETE」によって
殆どの人が其れによって
目覚める事の無い永眠へと繋がり
その「DELETE」から抜け出した人々が
今生きている人々だという
その生きている人はこの台詞を全員聞いたらしい
「貴方が最後のヒトです」
それで発狂している人が居たり
残り少ない人生を謳歌しようと
正常を保っている人が居たりと
そんなこんなで今に至るらしい
大人も子供も巻き込まれたその二つの戦争
それに使われる「微小粒子状核兵器物質」
それが何処から生まれたのか?
私は疑問を持っていた
するとその話を語り終わった彼は
とある絵を見せてくれた
それはその兵器
「微小粒子状核兵器物質」の出所を指す絵だった
僕は絶句した
それはまるで昔の自分の様な人が
僕の身体から灰色の物質が取り出される瞬間を写した絵だった
僕は悟った
このモノクロの世界と化した理由も
死体が転がるこの世界も
何故僕だけが30年も冷却されていたのが
そう、僕の病が「微小粒子状核兵器物質」を生み出していた事を
だからなのか、灰色で染まったのも
戦争が成立してしまったのも
僕は利用されていたのだな、そう悟った
この地球が月の様になってしまった事を
僕は涙を我慢しながら
「ありがとう、全てを教えてくれて」
そう云い立ち去ろうとした時
彼はもう一つの本を渡してくれた
すると彼は
「君は何がを悟ったのだろう?ならば、最後位自分で書き記してみたらどうだ?」
そう言いながら本とペンを貸してくれた
僕はその本に今迄の事を書き記しながら
眺めのいい場所迄行った
タイトルをどうしようか考えた時に
その月にも似た灰色の景色を見据えて
月に居る兎、月兎の事を思い出した
月兎、それは僕が昔話として
僕の母が良く語ってくれた物語の生き物で
月には兎が居る
その話を良くしてくれた
沢山の月兎の存在を教えてくれて
この灰色に染まった月の様な景色も
僕の目には月兎の模様が見えてしまった
そんな短い文章を書き綴る事で
懺悔になるのならば
そう思い私はこの本にタイトルを付けた
名は
「灰の月兎」
きっと誰からも読まれない
そんな事を思い乍ら
僕は今も書き綴っている
この先に待っているのは
死だけかもしれない
私自身、利用されていたとはいえ
この状況を作ってしまった元凶だ
そんな昔話の様なメッセージを
今も生きている誰かに届けば
そう思い書き、そしてペンを置いた
灰の月兎 Ibu -イブ- @-ibu-
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