第13話

「冬休み始まったけど、何か予定できた? ユイ?」

 僕の問いかけにユイが答える。

「佐藤さんから31日から1月3日までは休みだと聞いているぞ?」

 僕は驚いた。

「え!? そんなに働くの?」

「別に用事も無いしな」

 ユイが笑顔で答えたので、僕はそれ以上何も言わなかった。


「両親も今年は帰れそうに無いって言ってたから、ユイと二人で年越しとお正月か」

「年越し? お正月? カウントダウンパーティーのことか?」

 僕は首を横に振った。

「違うよ、ユイ。年越しにはそばを食べて、年明けにはおせち料理を食べてお祝いするんだよ」


 ユイは首をかしげている。

「そば? おせち? それは美味しいのか!?」

「うーん、美味しいって言うか、風物詩というか」

「食べてみたい!」

「わかった。じゃあ、年越しの買い物は一緒に行こう」


 大晦日の前日に、ユイと年末年始の買い物に出かけた。


「すごい人だな」

「ユイ、はぐれないようにね」

「分かった」

 そう言うとユイは僕と手をつないだ。


「これなら、はぐれないだろう?」

「……うん」

 僕はちょっと恥ずかしかったけど、人混みではぐれるよりはマシだと思って手をつないだままにした。


「なあ、晴人、この白いのはなんだ?」

「お餅だよ。ユイ」

 ユイはお餅を手に取ると、クンクンと匂いを嗅いだ。

「焼くと膨れて、醤油を付けて食べると美味しいよ。あんことかでも良いし」


「食べてみたい」

 ユイは上目遣いで僕のことを見ている。僕はユイの可愛さにドキドキした。

「分かった。じゃあ、かごに入れて」

「ああ」


 ユイはピザや、中華まんでも同じことを繰り返した。

 かごの中身は一杯になった。

「ちょっと、おそばとおせちも買わないといけないから!」

 僕はユイにこれ以上かごに食べ物を入れないように注意すると、ユイはしょんぼりとした。

「分かった」

 僕はそばを四人前と、四人分のおせちを選んでかごに入れた。

 ユイをお腹いっぱいにするには、三人前は必要だと思ったからだ。

「ずいぶん買うんだな」

「ユイは食べるからね」


 僕たちはレジに並んでお会計を済ませた。

 レジを出て、袋に食材を移す。

 僕もユイも、両手に荷物を提げてバス停まで歩いた。

「じゃあ、帰ろう」

「そうか」

 僕たちは家に帰って、冷蔵庫に食べ物をしまった。


 翌日、起きるとユイは僕に訊ねた。

「なあ、晴人、おもちとやらを食べてみたいんだが」

「いいよ。じゃあいくつ食べる?」

「6つ!」

「分かった。それなら七つ焼こう」


 僕はお餅を焼いて、醤油と、きなこを用意した。

「これを付けて食べると良いよ」

「うむ」

 ユイは焼きたてのお餅を手で掴むと、あちあちと言いながら、醤油を付けて一口かじった。

「むむ!? もちもちとして、なかなか噛み切れないぞ!?」

「よく噛んでると、口の中でとろけてくるよ。喉につまると大変だからゆっくり食べて」

「了解した」

 ユイはお餅をもぐもぐと噛みながら、次はきなこを付けて食べた。

「こっちは甘いな。どちらも美味い」

「良かった」


 本当は、新年のお雑煮に入れるつもりだったお餅は、半分になってしまった。


「除夜の鐘、聞きに行く?」

「いや、寒いから家にいる」

 ユイはきっぱりと言った。


 僕たちはテレビで音楽番組を見てから年越し番組を見た。

 新年の神社が映ると、そこでは沢山の人がはしゃいでいた。

「なんだか、沢山の人が集まるんだな」

「そうだね。明けましておめでとう、ユイ」

「明けましておめでとう、晴人」


 僕とユイは年越しそばを食べ終えて、それぞれの寝床に着いた。


 目を覚ますと、ユイがおせちを机にのせて、僕が来るのを待っていた。

「遅いぞ! 晴人!」

「ユイ、おはよう。早いね」

「おせちが楽しみだったからな!」


 僕がおせちを開ける。小皿をユイに渡し、僕も一つ目の前に置いた。

「改めて、今年もよろしく」

「よろしく頼む。もう食べても良いか?」

「いいよ」


 ユイはおせちを一通り食べて、ため息を着いた。

「けっこう味が濃いな」

「まあ、三日間食べるからね」

「え!? こんな量じゃ、三日も食べられないぞ?」

 ユイは半分からになったおせちを見つめて、驚いている。


「じゃあ、お昼はお雑煮を作るね」

「お雑煮?」

「お餅の入った、お吸い物って言えばいいかな?」

「なんだか美味しそうだな、頼んだ!」

 僕たちは食事を終えると、ちょっと暇になった。


「新年だし、お参りに行こうか、ユイ」

「お参り?」

「神様に挨拶するんだよ」

「神様に会えるのか!?」

 ユイが驚いているのを見て、僕は吹き出した。


「神社って言うところに行くんだよ」

「そうか、テレビで見たあの人混みに行くんだな!?」

「うーん、近所の神社はあんまり人いないと思うよ」


 僕とユイは着替えて、近所の神社にお参りをした。

「なんだ? あの人だかりは?」

「ああ、破魔矢とか、お札とか、お守りを売ってるんだよ」

「私も買ってみたい」

「いいよ」


 僕たちはお守りを見に行った。

 ユイは白い、厄除け守りを選んだ。

「こっちも可愛いな」

「って、ユイ、安産祈願は違うよ……」


 僕とユイはお揃いのお守りを買うと、神社を後にして家に帰った。


「お雑煮、楽しみだな」

「うん、待っててね」

 僕は鳥肉と野菜を少し入れた、お吸い物風のお雑煮を作った。

 そこに焼いたお餅を入れる。

「ユイはどのくらいお餅を食べる?」

「6つ!!」


 年末に買ったお餅はもう無くなりそうだった。

 明日はまた買い出しに行かないといけないな、と僕は思った。




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