第10話
ユイが僕の学校に転校してから、初の週末が来た。
「私もアルバイトやらをしてみようと思う。自立するのは大切だからな!」
「そう言っても、ユイが出来るバイトって、何かな……?」
僕はスマホから、近所のアルバイトを検索してみた、
「重い物を運んだり、戦ったりするのは得意なんだがな……」
ユイは僕のスマホの画面を不思議そうな表情でのぞき込んだ。
「あ、これなんかどうかな?」
僕は近所の引っ越し屋さんの週末バイトを見つけて指さした。
「引っ越しか。それなら、私の力を生かせそうだな」
ユイはやる気みたいだ。
僕はちょっと心配だったけれど、引っ越し屋に電話をしてみた。
「伊口と申しますが、アルバイトの面接希望なんですけど女子高生でも働けますか?」
「引っ越しだから、力仕事だけど大丈夫ですか?」
電話の相手の声は、少し年を取った男性のようだった。
「はい。力はあります。でも、ちょっと日本じゃ無い場所で育ったので常識が分からないところがあるんで心配なんですけれど」
「ああ、帰国子女かな? 大丈夫。ウチの店は一から礼儀とか教えてあげるから」
僕はホッとした。優しそうな人だ。
「そうですか」
僕が答えると、電話の相手が話し出した。
「それじゃ、早速だけど今日の午後に面接に来てくれるかな? 格好は動きやすい服を着てきてくれれば良いから」
「分かりました。よろしくお願いします」
僕はお礼を言って、電話を切った。
「ユイ、今日の午後はアルバイトの面接に行くよ」
「了解した」
ユイは自信満々だ。
昼食にチャーハンを二人で食べて、時間になったので引っ越し屋にユイと僕の二人で面接に行った。
「こんにちは。電話でおはなしした伊口と申しますが」
「はい! 良く来てくれましたね。よろしくお願いします。佐藤敏夫(さとう としお)と申します」
「伊口ユイだ。よろしく頼む!」
佐藤さんは、すこし驚いたような顔をした。
「ずいぶん可愛らしいお嬢さんだけど、重い物持てるかな?」
「馬鹿にするな! あの箱くらいなら一人で持てるぞ!」
そう言ってユイが指さした先には、大人が二人がかりで持つような大きな棚があった。
「え!?」
佐藤さんが目を見開いていると、ユイは棚に向かって歩き出し、大きな棚をひょいと両手で持ち上げた。
「ほら、簡単じゃ無いか」
「これは力持ちのお嬢さんだ。名前は、ユイちゃんだったね? よかったらウチで働いてみないかい?」
佐藤さんはにっこりと笑っている。
「金をくれるんだろう? なら、働こう」
ユイはそう言って、手を差し出した。
佐藤さんはユイと握手した。
どうやら契約成立らしい。
「ウチは、ほかにバイトが三人いるんだ。だけど、今日は吉田君しか居ないんだよね」
そう言った後、佐藤さんは事務所に向かって大きな声を出した。
「吉田君! ちょっと来て下さい! 新しいアルバイトの子が決まったよ」
すると事務所から、短髪でひょろりと背の高い二十代半ばくらいに見える男性が現れた。
「吉田です、えっと、キミが新しいバイト君?」
吉田さんは僕を見て言った。
「違うぞ! アルバイトをするのは私だ!」
ユイは胸を張って、なぜか不敵な笑みを浮かべて仁王立ちをしている。
「え、事務員さん雇うんですか? 佐藤さん?」
佐藤さんは首を横に振ってから、吉田さんに言った。
「いいや、吉田君。ユイちゃんは力持ちで、即戦力になるよ」
ユイは吉田さんにも握手を求めた。
「よろしく頼む! 吉田とやら!」
「よろしくおねがいします、ユイちゃん」
吉田さんはズボンで手を拭いてから、ユイと握手をした。
「それじゃ、早速だけど明日の朝、ここに来てくれるかな? 引っ越しが一件があるんだ」
佐藤さんはそう言うと、メモに<9:00に店>と書いてユイに渡した。
「あと、携帯の番号を教えてくれるかな、ユイちゃん? 念のため、何かあったときに連絡が取れないと困るから」
佐藤さんの言葉を受けて、ユイはスマホを出して佐藤さんと連絡先の交換をした。
「伊口ユイさん、これからよろしくね」
「おう! 任せておけ!」
ユイの言葉使いに苦笑しながらも、佐藤さんは言った。
「言葉使いも覚えていこうね」
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