第5話 シェダルside




温室の一角にて。



「先日は、すまなかった!」

彼女に、頭を深く下げる。


ハーシェル子爵令嬢を一目見ると、少し驚いたような顔をしていた。また、困っているようにも見える。 



そして私は、言葉を続ける。



「其方の志を傷つけるような真似をしてしまい、申し訳なかった。心より…お詫び申し上げる。」


「………。」



彼女は俯いていて、表情はこちらからは見えない。


想像した通り、怒っているのだろうか。

自分のした行いについて、再び後悔した。



「お父様の件についてはあなたが?」

あの日以来、はじめての第一声だった。


「そうだ。君が落としたこのメモがあったおかげで、今回事件の解決に、一歩進んだ。了承もなく、あなたのお父上に捜査の協力を頼んだのは…私の独断だ。其方を困惑させてしまい…。」


彼女のメモを見せながら必死に説明したが、


「もういいです。」


令嬢は、話を途中で遮った。無断で使った件で、怒っているのだろうか。私は、内心焦りはじめる。


「メモを利用させて頂いた件は、あなたに確認を取らずに無断でやったことに関しては、悪いと思っている。」


「そうじゃなくて…もう謝らなくて良いと言ったんです。嫌疑をかけられた時、本当にダメかと思いました。私を救って下さり、本当にありがとうございました。」


お陰で退学せずに済んだと言い、ハーシェル令嬢は安堵したかのような表情を私に見せた。


彼女の未来を奪わず、救うことができて本当に良かったと思っていると、

「でもあの日のことは、本当に傷ついたので暫くは許してあげませんっ!」


「!!!」


想像はしていたが、実際にいざ言われてみると、心が苦しい。 


「……っ。どうしたら、許してくれるのだ?」 


私は正直な気持ちで、令嬢に問うた。

 


「ぷっ…それ本人に聞きます?胸に手を当てて、よーく考えてみて下さい。なんだか副会長って、変な人ですね。」

 


彼女にくすくすと笑わてしまった。



変な人と誰かに言われたのは人生初めてだったが、全然不快には感じなかった。



またそれが不思議で、魅力的に感じる。 



何故そう思うのか、想像しても納得のいく回答には辿りつかなかった。


考えていると、いつの間にか予鈴が鳴ってしまったので、彼女とすぐに別れることになった。



どうすれば、令嬢は私を許す気になってくれるだろうか。


その日の晩から、色々と作戦を考えるようになった。

実際に何かをする訳ではない。ただ思いを巡らすだけだ。



そうして私は、ハーシェル令嬢のことが気になって仕方がない状態になってしまうのは、時間の問題だった。

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