第2話
「ハーシェル子爵令嬢。貴様には、ミルザム令息への迷惑行為の嫌疑がかけられている。」
私の目の前にいるのは、生徒会副会長であるシェダル・ルーベンス。我が国の最高裁判所の裁判長の嫡子。
父の厳格な公正な気質を受け継いでおり、法の番人と言えるその鋭い眼光は、泣く子も黙るほどだ。
私には、寝不足で目付きが悪い人にしか見えないのは黙っておこう。今はそんなことは関係ない。彼から尋問を受けた生徒は、必ずとは言って良いほど、何か処罰が与えられる。
実際に悪事を働いたのなら、それは妥当な決定だと思うが、私の場合は冤罪だ。
どのようにアリバイを説明しようかと迷っていたところ、
「おい、聞いているのか。ハーシェル子爵家令嬢!ミルザムが襲われた時間帯、お前は何をしていたんだ?」
集中して思考を巡らしていたせいで、副会長に話しかけられていたことに気が付かなかった。
すごく不機嫌そう言われたので、余計に激昂しそうになったが、心を落ち着かせる。腹が立っている時の言葉は、思わぬ失言が多い。
私は大きく息を吸って答えた。
「えっと…天体観測です。」
「君が、いつも持ってるその長い鏡を使ってしてることだな。それは一体なんなのだ。」
「遠くのものを拡大して見るものです。私は、これを使いながら、夜空に流れる流れ星の原因を作る、#彗星__すいせい__#・またの名をほうき星というものを探していました。」
彗星というのは、宇宙に浮かぶ移動する小さな星の塊だ。太陽に近くに来ると、その彗星の中に含まれる氷の塊が溶け、尾を引いて星空の中を進んで行く。
父ならさっきの説明でみんな理解してくれると言っていたが、そうではないようだ。
「彗星というものなんて私は見たことないぞ。そう言った天上の世界にあるもののことを書いた高度な論文資料は、学院には置いていない。そもそもそんな遠いところのことを調べる必要があるのだ。怪しいな。」
逆に怪しまれてしまった。何故私何か彗星を探していたのか説明しようと思って考えたいたが、これじゃあまるで伝わらないのでは?
前世の日本人なら、この説明でもわかってくれるのに。
「じゃあ、質問を変える。君はミルザムのことを愛しているのか?」
「いいえ、ミルザムには何の感情もありません。彼のことを付き纏うメリットすら感じません。」
私は正直に答えた。誰かにストーカーされるは不幸だと思うが、嫌疑をかけられている私がどう彼に対して好感情を持てるだろうか…いやない。
「嘘をいう必要はないのだぞ?正直に言って貰って構わんからな。」
ルーベンスは微笑を浮かべてそう言ったが、威圧してるようにしか見えない。嘘と言ったりするところから、挑発するのは慣れっこって感じがするな。すごくタチが悪い。
私は拳を強く握りしめた。力を入れ過ぎて、少し爪が食い込んでしまった。でも、その痛みで冷静になろうとしていた。
「私は、天上の世界にあると言われる星達を研究する学者を目指しています。研究を続ければ、いずれ正しい暦を作ることもでき、農民の皆様など多くの人々に貢献できるんです。私は、父の名に恥じぬよう今まで#研鑽__けんさん__#を積んできました。たかが、恋愛事で私の学者人生を失いたくないのです。もしも、この私めを、この件で退学させて、学者になる資格を失うのなら、自決した方がマシですっ!」
感情的になり、息が絶え絶えになりながら立ち上がる。その勢いで、座っていた椅子をひっくり返してしまったので、元に戻した。
シェダルの方を見つめてみると、呆気に取られたように固まっていた。
「話はこれで終わりで良いですか?私にまだ聞くことありますか?」
帰りたい気分だった。何で私がこんな目に合わないといけないの?一人で星を見てたから悪いの?私の無実を証言してくれる仲間が居ないことは仕方がないから譲歩しよう。
だけど、私が心底頭に来ているのは、好きなことを犯罪まがいの行為だと勘違いされたことだ。好きなことをしているだけなのに、何故こんなに理不尽な思いをしないといけないのか。
最初は、この世界に転生して神に感謝してたけど、今は非常に呪いたい気分だった。
自決してやると、彼に言ったのは、言い過ぎであったかも知れないが、それぐらいの気持ちで星空が好きだったということを伝えた。
私は、シェダルの回答を待たずに、激情の怒りに任せて退出して行くのだった。
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