堅物侯爵令息は転生モブ令嬢のことが気になって仕方がない
Cattleya
第1話
紅葉が彩る季節。
16歳以上の貴族の子女達が通うメテオ王立学園祭の創立記念パーティーの後夜祭が行われていた。
皆、華やかなドレスを着て、ワルツを踊ったり、噂話に花を咲かせていた。
創立記念パーティーとは言っても、社交界の夜会とほとんど変わらない。
私、ステラは、何故か同世代の学生から煙たがられて、仲の良い友達もいないので、一人、学園の中庭で、望遠鏡を組み立て天体観測をしていた。
そんな私には皆んなに言えない秘密がある。
それは、前世の記憶があり、ここが乙女ゲームの世界、もしくは類似した世界だと言うことを知ってる。
乙女ゲームの世界だとわかった理由は、王太子の名前に聞いて確信した。
前世に入っていた天文サークルの友達がやっていたゲームなのは分かっているが、プレー自体をしたことがないので、攻略方法やストーリーなどは不明である。
前世の死因は、サークルの天体観測の帰りの朝の高速で、居眠り運転のトラックに、跳ねられたからだと思う。
一瞬のことだったので、痛みを感じる間に、昇天した。
前世の唯一の心の残りは、幽霊になって、家族の顔を見て、あの世に行きたかったのだが、それすら出来ず、転生してしまったことだ。
前置きが長くなったが、今世の私は、学者一家の子爵家の長女として生を受けた。
前世のことを思い出したのは、5歳の頃、父様に満天の星空を見せて貰ってから。
前世で星が大好きだったから思い出したんだと思う。
前世を思い出してからの私は、忙しかった。
ここは、中世と文化レベルが変わらない世界だ。
望遠鏡なんて存在しない。一から組み立て作り上げた。
父の部屋に置いてある使わない虫眼鏡を削って、天体望遠鏡を作る。最初は片手で持てる大きさの筒型の試作品を作った。
最初は星を眺めても、近眼の人の見え方のように星の光が滲んではっきり見えなかったが、今ではしっかり星が映るくらい、精度が上がった。
これでもし、昼間に望遠鏡を使うとしたら、遠くにいる人の顔の表情までばっちり見えそうだ。
人を観察するのは、戦争とかで役に立ちそうだけど、この世界で戦争が起きたのは、200年以上前。それっきり国同士の衝突もないし、平和そのものである。
そんな平穏な世界の学園で、事件が起こった。
私は、月明かりのない星空全体を隈なく望遠鏡で眺めていると、男子生徒が怒鳴る声が聴こえてきた。
「私の周りにあるものが最近なくなっているのはどういうことだ!それに毎日帰り道で尾行している人がいるんだ。女子生徒なのは分かっている。先週からは、四六時中、誰かに見られている気がするんだ。私を付け狙っているのは一体誰なんだっ!」
発狂に近いその叫びは、中庭にいる私のところまで届く。
「私、知っていますわ。」
小鳥が囀るような声が聞こえた。
「なんだね?ヒドゥリー男爵令嬢。」
ミルザムは落ち着かない声色で返す。
「もしかしたら、ステラさんかも知れないと思うの。」
???
「ステラさんが、ミルザム様のことずっと見てると思うの。」
ヒドゥリー令嬢が答えると、
「確か彼女は、覗き棒を毎日鞄に持って歩いていたよな?」
男子生徒が思い出したかのように話し出した。
覗き棒とは鞄に入るサイズの小型の望遠鏡のことである。
「きっとそうだわ!ミルザム様が美し過ぎるから、覗き棒でずっと眺めていらっしゃるのだわ。」
「ずっと、天を仰いでぶつぶつ言ってるし、きっとミルサム様に相手にされなくて、その腹いせに、呪いをかけていらっしゃっるのだわ。」
ヒドゥリー男爵令嬢以外の女生徒から口々と私の言われのない妄想話が告げれていく。
「ハーシェル令嬢はどこだ?ステラ・ハーシェルっ!!!」
ミルザムが私を探し出そうとしている声が聴こえてくる。
「きっと、いつものことだから中庭にいらっしゃると思うの。」
ヒドゥリー令嬢がそう答える。
自分、何かヒドゥリー令嬢に嫌われることしましたっけ。
というか、同級生から嫌われ過ぎてて本当に泣きそう。
逃げる暇もなく、私は彼らに見つけられ、生徒会室で尋問を受けることになったのだった。
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