第14話 ご褒美
休憩室の上に俺と親父が暮らす部屋がある。
ソファに横たわり、ぼうっと天井を眺める。
近くの低めのテーブルには錠剤とお水が入ったコップ。
はい、風邪をひきました。
まぁ、ひくよね。ひいてしまうよね。だって土砂降りだったもん。引くほど降ってたもん……ひくだけに……。風も凄かったもん。風邪だけに……。はぁ……しょうもない……。
クソでかため息を吐きながら、うなされているとピコンと携帯が鳴る。
目を通すとノケモン? とかいうキャラクターのスタンプが送られていた。もちろん神代からだ。……心配してくれていたりするのだろうか。
俺も適当にスタンプを選び返す。
そういえば今朝、無理を承知でバイトのシフトを変わってもらったが、神代には悪いことをしたな……。
あぁ、ダメだ。体がだるい。早く寝て治さなければ。
目をつむっていると、時計がチックタックとなる音も段々と遠のいていった。
***
「……ぱーい」
……ん、ドアの向こう側からなんだか聞き馴染みのある声が。
「やっぱり寝ちゃってるかなぁ……」
頭は依然ぼうっとしているが、その声でゆっくりと体を起こす。
どれくらい寝たのだろうか。日はとっくに落ちてしまい部屋の中は真っ暗だ。
近くのリモコンで照明をつけると、大きく伸びをする。
「う~んっと……神代か?」
「あ、先輩! ……起こしちゃいました?」
「いや、すまん。暇だからイヤホンで音楽聞いてた」
ま、嘘だけど。
「そうでしたか。良かったです。あの……入ってもいいですか? お見舞い持ってきたので」
「有り難いが……うつったら……」
「私は風邪ひかないので!! 大丈夫です!」
「まぁ、バカはひかないっていう……」
「帰ります」
「すいませんでした! 今のは僕が悪かったです!」
「全く……素直じゃないですね。先輩は」
ため息を吐きながらゆっくりとドアを開け、部屋に入ってくる神代。
手にはそこそこ膨らんだスーパーの袋が握られていた。バイトに来る途中寄ったのだろう。……って、
「そういえばまだバイト中じゃないか?」
「何寝ぼけてるんですか? 今はもうおじさんの時間帯ですよ? 風邪とはいえ、少しは起きて何か食べないと!」
まるでお母さんみたいに腰に手を当て、叱られてしまった。
時計を見ると九時を過ぎている。辺りは暗くなっていたとはいえ、もうこんな時間なのか。
「今日は急に変わってもらって悪かったな。この礼はいつかするわ」
「別に大丈夫ですよ。暇でしたし。 ……全く私の占いを信じておけばこのような事態にならなくて済んだものを!」
「おっしゃる通りです……」
いや、ほんと当たり過ぎな? 一瞬、本当に弟子入りするか迷ったからね俺? ってかもうこれほとんど予言じゃね?
そんなことを考えていると神代は少し腰を下ろし、コトコトとテーブルに食料を並べ始めた。
「取りあえずスポーツ飲料とカロリーメイト買ってきました。食欲があったらおにぎりもあるので食べて下さい」
「悪い。またこの礼もいつか返す」
「ほんと感謝してくださいよねーっと」
そう言いながら、地面をはいはいするように近づいてくる神代。
え? 何々? 急に何で距離詰めてくるの? 少し甘い香りがふんわりと漂う。
「ほら先輩じっとしててください」
「へ?」
戸惑っている俺の肩をおさえ、そっと俺のおでこに手を当てる。
ひんやりと冷たいのに、体温は一度上がった気がした。
ほんとこういうの急にやるなよな……。心が準備してねぇんだよ……。準備してても多分無理だけど。
神代とちゃんと目が合ってしまいなんだか照れてしまう。って意識するのもなんだか癪だが……。ああ! もう何なんだよ一体!
「ん~まだ少し熱はありますね……。冷えピタ貼るので少し髪抑えていてください」
「いや……自分で……」
「え、何でですか? ……あ」
瞬間すべてを理解した神代。にやりとほくそ笑む。
「あれれ~、もしかして可愛い後輩に看病してもらってドキドキしてるんですか~?」
「別にしてねぇよ。これぐらいできるから……」
「まぁまぁ、遠慮しないでくださいよ先輩。私がやってあげますから」
「いいって! 自分でやるって!」
「そ……そんな嫌がらなくてもいいじゃないですか! むしろご褒美ですよ! ほら、先輩! 早く堪忍してくだ……うわあああああああ!」
どたん! っと大きい音がし、押し倒される。
いてて……あぁもうなんだよまったく。
朦朧とする意識の中手を伸ばすとむぎゅっと柔らかい感覚が。
……ん? 二度三度確認するように揉む。……あ。察した俺は思わず手を引っ込める。がしかし、時既に遅し。
「ななな……」
視界が開くと、顔を真っ赤にしている神代が恥じらうように手で胸を抑えている。
冷えピタが必要なのは彼女の方だなぁ~なんて。ははは……。
……あああああああ!!!! どうしよおおおおおおおおおお!!!!
「……あっ、ええとこれは事故で……」
「先輩の……、先輩のスケベッッッ!!」
「あべしっ!!」
思わず投げられたカロリーメイトは頭に直撃。
え、これ? 本当にカロリーメイト? 頭えぐるような衝撃なんだが。
……ああ、死んでしまうとは情けない。
俺は目の前が真っ黒になった。
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