ティファニーで朝食を

「カポーティはカッコいいよ」



 そういって勧められたのが“ティファニーで朝食を”だった。

 タイトルは聞いた事があるけれどどういった話かは知らず、結局購入してから二年程寝かしてからページを捲る事となった。

 一次的な感想を述べれば「読みやすい」である。あの村上の畜生が翻訳したらしく、「気に食わねぇ」なんて思いながら文字を追っていくとどんどん頭の中でシーンが再生されていく。腹立たしい事だが認めざるを得まい。あの畜生の文章表現力は高次元だ。プロフェッショナルの仕事をする。忌々しい。



 ティファニーで朝食を

 作家志望の主人公は、同じアパートに住むホリーと交流を持つようになる。

 ホリーは身勝手で自由奔放。男に金を貢がせる生活をしていて、一見利己主義の塊でろくでなしのようだが、知り合いの囚人と面会をするために足しげく刑務所へ行ったり、戦場へ出ている兄に対してピーナッツバターを買いあさり送るなど、情に深い面もあった。

 しかし彼女は同時に自由を求めていた。彼女の部屋の表札に掲げられたミス・ホリデー・ゴライトリー トラヴェリングの文字は、いつでもどこへでも飛び立てるための一文だった。ホリーは愛を求めているが、自由とは愛を捨てる事さえできてしまう。誰かを愛しても、その人間から離れてしまえるのだ。

 そんなホリーに、主人公は好奇心以上の興味を持つようになっていく。





 最初しばらくはナオミみたいな女だなーと思っていたけども、途中から見方が変わってきた。痴人の愛は終始ナオミが悪霊みたく主人公を悩ます存在だったけれども、ホリーは段々と内面が明かされていって弱さや人間味が露わになっていく。特に終盤はこれでもかというくらい彼女の心境が表現されていて迫るものがあった。全部捨ててしまって自由に生きる事を選んだ人間の苦しみがまったく痛々しく書かれている。

 しかしそのホリーなんだけど、なんか調べてみたら、「ホリーは自立した女性!」「強く生きてる!」なんて感想が目に付いた。でも本当にそうかなと思う。そもそも自立した強い女は男相手にたかったりしないだろう。時代もあるだろうけども。

 個人的な見解としては、“愛が欲しいのに手に入ったら怖くて捨てちゃう哀れな人間が泣きながら幸福を探す話”という感じ。誰かに依存してないと生きていけないけど、時間と共に離れちゃう。ちょっと前に人間関係リセット症候群みたいな悪癖が話題になっていたけど、まんまそれじゃないだろうか。そんな気がする。

 実はかくいう俺もその手の人種で、まったく後悔しているんだけど、そういった部分で嫌な共感を得てしまった。

 ……これはですね。いつか失うかもしれない恐怖と不安が過剰な自意識を刺激して、いっそ自分から離れてやろうっていう気持ちになっちゃうんですよ。能力もないのにプライドだけは高くて、目立ちたくて、優れていたくて、優越感に浸りたいけど無理で、段々嫌な気持ちになってきて、でも寂しいから、気を引きたくて自分から離れていっちゃうんですよ。馬鹿ですね。馬鹿。あぁでもこれは俺の場合であって他の人は違うかもしれない。ホリーもひょっとしたら単純に多くの人から愛されたいけど自由もいいなって風なだけかもしれない。愛って束縛だよね。

 いずれにしても、可哀想だなという同情が先にくる。



 ところでこれは余談なんだか、しばらく有給消化で暇なのでおススメの本を教えてくれたら幸いです。純文学でお願いします。

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