俗物図鑑

純文学デビューは太宰だが本を読む切っ掛けを作ったのは筒井康隆だった。


笑うな


小学校時代、母のススメで買った短編集である。

これを読み、初めて小説で抱腹絶倒できる事を知る。こんな面白い話があるのか。何者だこの作家はと感動し、しばらく母と筒井康隆談義に花を咲かせた。


以降、俺は筒井康隆の短編集を買い漁るようになる。しかしどれに何が収録されていたかはさっぱり覚えていない。タック現在なりやとか末法法華経とか内容は覚えているのに、タイトルと作品がまったく一致しないのだ。なにせ数が多い。把握するには今一度読み直さねばならないが、残念ながらもう手元にはない。


そんなわけで筒井康隆といえば短編、ショートショートのイメージが強いのだが、しっかり中、長編も書いている。

虚構船団。時をかける少女。パプリカ。聖痕。などなど。いずれも名作揃いであり、メディア化も何度もしている。内一つが俗物図鑑である。


全編に渡って小気味良く人を小馬鹿にした文章。方々に喧嘩を売っていく内容。どこを取っても現代にそぐわない言葉ばかりがページに記載されている。なんて酷い話だ。


皮肉と嫌味が詰まったコメディは潔白に生きる人間に対し猛毒となるだろうが、俺のような品性下劣には丁度いい麻薬となって性格を更に歪める効果を発揮した。多分、この作品に遭ってなければもう少し性格が良くなっていたかもしれない。



考えれば考えるほどまともじゃない作品だが、原点には反骨の心かあると思う。


作中、主人公達はしたり顔で人を馬鹿にする評論家達と戦う。

彼らは異常者だが筋は通っていて、悪だが間違ってはいない。にも関わらず、世間からは後ろ指を刺され嘲笑されるのだが、皮肉にもそんな人間が多ければ多いほど、彼らは求められていく。嫌いな人間が出ている方が視聴率が高いという話を聞いた事があるが、まんまそれだ。先陣を切って嫌われ、爪弾かれた社会を冷笑しながら組織がどんどん規模を拡大していく様子は清々しい。周りが何と言おうと自らの道を進み媚びない。笑いの中にある一筋の矜持が、馬鹿馬鹿しくも憧れを俺に抱かせた。




ただ一つ。

筒井康隆は今の時代には間違いなく合わない。女性軽視をはじめ、民族や宗教問題でさえネタにしてくるような人間だ。まったく酷い奴である。そんな人間が書いた作品など読まない方がいい。本人もツイッターでそういってる。



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