王子でもなく、悪役令嬢でもなく、おバカなヒロインでもなく、なるんだったら平民が良い。

ヨイ

王子でもなく、悪役令嬢でもなく、おバカなヒロインでもなく、なるんだったら平民が良い。

私はティムと言う。


私には6歳から親が決めた婚約者がいた。


しかし、私は12歳になり、学園に入り、そこで他の女性を好きになってしまった。


その女性と仲良くなり、周りの目も気にせずイチャイチャしていた。


好きになった女性から、私の婚約者に嫉妬されて苛められていると泣きつかれて、私は怒りのあまり、婚約者に公衆の面前で婚約を破棄すると宣言してしまった。


それから、私の人生は狂い始めていく。


婚約者からは、拍子抜けするほどあっさりと婚約破棄を了承された。


両親からは、なんて馬鹿なことをしたんだと、こっぴどくしかられた。


苛めたと言う証拠も無いのに、好きな女性から泣きつかれただけで、婚約破棄を宣言するとは何事かと言われた。


結局、後で調査したが誰も苛めの目撃者は出てこなかった。


しかし、私は好きな女性を信用していたので、その女性と婚約することにした。


両親からは反対されたが、どうしても婚約したいと説得した。


なんとか両親から婚約の許可を頂いた。


それからは、毎日が幸せだった。


幸せだったのだが、幸せは長くは続かなかった。


ある日突然、婚約を解消してくれと言われたのだ。


他に好きな人ができたと言われた。


私はショックのあまり、一ヶ月体調を崩して寝込んでしまった。


両親からは、ほれ言わんことかと呆れられた。


お前はまだまだ未熟者じゃ、修業をしてこいと言われ、体調が治ってから辺境の地へとばされた。


そこで、親戚の家にお世話になった。


そこでは、家の手伝いをした。


親戚の子供の遊び相手にもなったりした。


今までは使用人がすべて身の回りの世話をしてくれたので気がつかなかったが、私はなかなか一人で起きられないし、掃除もしたことがないし、洗濯もしたことがないし、料理も作ったことが無かった。


最初は戸惑ってばかりだったが、段々慣れていき、今では身の回りのことは一通り一人でできるようになった。


考え方も変わっていった。


いかに自分が傲慢で勝手で、使用人に対して、やってくれて当然とばかりに顎でこきを使っていたんだろうと反省をした。


もし実家に帰ったら、使用人にあれやって、これやって、あれまだできてないのとかなるべく言わないようにすることにした。


いくら雇われているとはいえ、相手も人間なので心の中ではそれぐらい自分でしろよとか腹をたてているかもしれないからだ。


もし、自分勝手にならずに相手のことを思いやれる人間であれば、婚約者を裏切ってはいけないと思い、他の女性を好きになったりはしなかったのかもしれない。


もし、他の女性を好きになったとしても、他の女性を好きになってしまったこちらが悪いので誠心誠意をもって説明し、なるべく婚約者を傷つけずに婚約を解消に持っていくべきだったのだ。


まあ、今回の件では婚約者は、他の女性と周りの目も気にせずにイチャイチャしていた自分のせいで、とっくの昔に愛想をつかして、私のことは嫌いを通り越して無関心になっていたみたいだったなと、今さらになって思った。


だから、まったく傷ついた感じではなかった。


だからと言って、公衆の面前で婚約破棄を宣言して、あげくの果てに好きになった女性を苛めていただろうと証拠も無いのに断定してしまい、申し訳なくもなった。


私のことを無関心になっていたのだから、嫉妬して苛めると言うことも考えにくいので、やっぱり婚約者は苛めをしていなかったのだと思う。


私は、好きになった女性に騙されていたのだ。


私は、馬鹿なことをしてしまった。


私はそれに気がついてから直ぐに婚約者だった人に、謝りの手紙を送った。


許してはくれないだろうが、せめてもこちら側に非があったことを認めて反省しているところを分かってほしかった。


自己満足だと分かっていても、謝りの手紙を送らずにはいられなかった。


手紙を送ってから、四ヶ月後に返事が来た。








 ティム王太子殿下へ


あなたも幼い頃から、勉強や剣術の修業ばかりをしていて周りには従者しかいなく、なかなか同じ年の友達と遊ぶ機会もなく、寂しかったのでしょう。


そして、学園に入ってからちょっと顔が可愛いってだけの女に、世間のことをあまり知らないあなたがそそのかされてしまったのでしょう。


私はそれを知りながら、見て見ぬふりをしていました。


ただの遊びなんだ。本気じゃないんだ。きっと、私の元に戻ってきてくれると信じていました。


しかし、あなたは日に日にその女にのめり込んでいった。


私は許せなかった。


あの女が憎かった。


だけど、あなたがあの女に向ける心が安らいでいるような表情を見ていると本当にあの女のことが好きなんだと思いました。


私では、あなたのそんな表情を作ってあげることができないと思いました。


それからは、私はなるべくあなたのことを忘れるように努力しました。


何か他のことを考えたり、編み物をひたすら編んで9mものマフラーを作って、気をまぎらわせたりもしました。


そんな日々を何ヵ月か過ごしていましたがある日、馬鹿馬鹿しくなりもっと自分のためになることに時間を使おうと思いました。


なんで、こんなにあなたのことで自分の時間が取られてしまうのか。


おかしいだろう。


確かに私は、あなたの婚約者で幼い頃からあなたの婚約者に相応しくなれるよう厳しい教育を受けてきました。


だからと言って、あなたと結婚をしないといけないのか?


親同士が決めた結婚だって、本人の意見も聞いてほしい!


結婚したくない!と思いました。


そんな矢先、あなたの方から婚約を破棄すると言ってきたので、これは好都合とそれをあっさりと了承しました。


こんな私を軽蔑してくれて、結構です。


私も、自分がこんなにも浅ましい心を持った人間だとは思ってもいませんでした。


自分が恥ずかしいです。


これからは、浅ましい心を取り除くように、心を休めてリフレッシュしていきたいと思います。


どうか、あなたもお身体には気をつけて頑張ってください。


今度会うときは、笑顔でお互いに会えるようになっていれば良いですね。


それでは、ごきげんよう。



       エマ・サンドウィッチより









ポタリ。と一滴のしずくが手紙に落ちた。

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