天然な後輩は俺の幼馴染が好きらしい

紅月鈴音

後輩は気にしない

春休みが終わり高校1年から2年に上がってから1ヶ月と数日が経っていた。あんなに綺麗に咲いてた桜も今やほとんど散っている。


高校生活も2年目に突入するとかなり慣れてくるようでクラスではもうだいたいグループ的なものが出来上がってる訳で昼休みにもなると部活がどうだ勉強が彼氏が彼女が……なんて話で盛り上がっている。


そんな中教室から抜け出して学食でおばちゃん特製の良い出汁の効いた月見うどんを一番端のかどの席ですすってる俺……結島萩ゆいじましゅうの周りには誰もいなかった……。決して友達がいない訳でわない!いつもだったらそいつと一緒に昼食をとってるとこだけど今日はちょっと人に呼び出されているのだ。


「お、先輩いましたね」


「呼び出しの連絡来てわかったって返信してるのに来ないわけないだろ」


「さすが先輩です。では今日も作戦会議を始めましょうか」


「そうだな、て言うかわざわざ昼に呼び出す必要あったか?」


「そりゃいち早く先輩に会いたかったので、前いいですか?」


「お〜座れ座れ」


俺の視覚外から話してる相手の顔を一切見ることなく話す。俺は今うどんと真剣に対話してんるだ!こんな美味しいうどんが学校で食べれるなんて凄い時代が来てしまった……そしてズズーッと音を立てながら俺の正面にあったイスを後ろに引いて座った。


うどんが入ってた丼を両手で持ち上げて口元に持っていき1口スープを飲んだあと正面に座った彼女の顔を見る。胸元には綺麗な青いリボンをつけていた。うちの学校は女子はリボンの色で学年がわかるようになっている。


そして青いリボンは1年の色、つまりまだこの学校に入学してから1ヶ月と数日しか経っていないピカピカの1年生という訳だ。


彼女の名前は美海碧みうみあおい


肩くらいの長さの黒い髪に青いピンをつけていて少し青みがかったひとみに日に焼けていない白い肌。同年代の女子と同じくらい……いや、少し小さいくらいの身長なのに出るとこは出ている。身長が小さいおかげで可愛らしさが強調されおり、いつもどこかのんびりしているというかやる気がなさそうにしてるのに顔はしっかり整っていて芸能界のスカウトが来てもおかしくないような見た目をしている。


碧とは幼なじみでもなければ中学が一緒な訳でもない。血縁関係がある訳でもないし部活が同じな訳でもない。少し前までは本当に赤の他人だったのだ。


「先輩、先輩、私もここでお昼食べてもいいですか?まぁ、私は弁当ですけど」


「いいですか?って……もう弁当箱の蓋開けてんじゃん」


別に食べちゃダメなんて言おうとしてた訳じゃないけど聞いたのに答えを聞かないで行動しちゃうとかほんとに不思議な奴だな、まぁこれくらい緩い関係の方が俺は好きなんだけど


「まぁまぁ先輩、細かいことは気にせずにいきましょう」


そんなこと言いながら弁当箱の中から卵焼きを箸でつまんでパクリと口に入れてもぐもぐと食べている。食事してる時の碧はほんとに小動物みたいだな。これをあいつに見せたらなかなかいいダメージになると思うんだけどな〜


「先輩、今日の卵焼き上手くいったんですけど1つどうですか?」


そう言いながら弁当箱を俺の方に差し出してくる。


「じゃあもらおうかな、ちなみに俺は卵焼きに関してはかなりうるさいからな!」


「まじですか」


お言葉に甘えて碧の弁当箱から卵焼きを1つつまんで口にほおりこむ。


……口に入れた瞬間わかった。あぁ、これ母さんの卵焼きより上手いわ。弁当に入ってるのにふわふわしていて俺の好きな砂糖多めの卵焼き。まさに俺の好みドンピシャだ。そして俺は後悔した。うどん食べ終わってからもらった方が良かった……と


「どうですか?美味しいですよね?」


「……俺の好みドンピシャだったわ、これなら胃袋掴む作戦も余裕そうだな」


「良かったです。あとはどうやって渡すかですよね」


「ん〜そうだな〜あいつもいつも弁当だしな〜」


う〜んと何かいい案がないかと頭をひねらせてると碧がいい案を閃いたのか、ぽんと手を叩いた。


「あ、今度私が先輩に作った弁当を渡しておかず交換と称して私の作った料理を渡すのはどうでしょうか?」


ズイッと俺の方に身を乗り出しながら提案してくる。


「……それありだな」


確かにそれだったら実に自然な感じで碧の料理を渡すことが出来る。よしそれでいこう。でもそれって


「俺も弁当貰う感じになっちゃくけどその辺はいいのか?」


あげるにしても全部渡す訳にはいかないから必然的に俺が少し食べることになるんだけど大丈夫なのか?好きでもないただと先輩に自分の作った弁当食べられるのは


「それくらい別に大丈夫ですよ」


「それならいいんだけど」


「じゃあ決まりですね、明日作ってきますね」


「明日って行動力半端ないな」


「……やっと調べ終わったので」


「なんか調べ物でもしてたのか?」


「そんなとこですね、……あ、先輩先輩、卵焼きあげたのでお返しにうどん少し下さいよ」


そう言って俺の目の前にあるうどんを指さしてくる。


「まぁ1口くらいならいいけど」


卵焼き美味しかったしお返しが学食のうどん1口くらいなら安いもんだろう。お金払ってもいいから毎日食べたいくらい美味かったなあの卵焼き。なんであんなに母さんのと違うのか……やっぱ砂糖の量か?火加減も完璧だったしほんとにあいつのために頑張ってるんだな


そんな事を考えながら碧の方に丼をテーブルの上を滑らしながら差し出す。


「じゃあもらいますね」


そう言うと箸でうどんを3〜4本掴んですすっている。

……ん?


「お〜これは、麺にコシがあって美味しいですね」


「……その使ってる箸さっきまで俺が使ってた箸だろ」


「そうですね」


「いや、反応薄いな、普通の女子だったらあわてる場面じゃないのか?」


よく見ると今碧が持ってる箸は俺がさっきまで使ってた黒いプラスチック製の箸だった。確かに箸を入れたままだったけどまさかそれで食べるとは、さっきまで自分ので弁当食べてたからそれで食べると思ってたんだけどどこまでマイペースなんだ


「あ〜私そういうの気にしないタイプだんですよ、先輩はこういうの嫌な人ですか?もしそうだったらすいません」


「俺も別に気にしないけどさ」


しかも反応薄いし、いや、碧に「すいません!間違えちゃいました!……これって間接キスですよね」なんて慌てながら言われるなんてこと思ってたわけじゃないけどさ、俺の事なんとも思ってないのは知ってたけど少し心にくるなこれ。……あ、あれだ、お父さんが思春期ししゅんきの娘に「これからは洗濯物別にしてよね!」って言われる感覚だ。多分……もちろん娘がいる訳じゃないからわかんないけど


けど今までのやり取り疑問に思った人もいるだろう。なんでこんな可愛いやつと俺みたいなやつが一緒に昼食をとってるのか、そして他の人には意味がわからない会話をしてるか。その理由を知るには1ヶ月前までさかのぼることになる。

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