月の人

バブみ道日丿宮組

お題:茶色い雑草 制限時間:15分

月の人

 月の人と出会って、大地は大きく変わった。

「気持ちいい」

「良かった」

 雑草が生い茂る道路は寝そべっても気持ちいい。もちろん、車が通る場所は茶色く変色してしまってるけど、月の人曰く数日でもとに戻るらしい。

 今や月の人の力で地球環境は自然の摂理が支配してる。科学は使えるが自然を破壊するものは全てなぞの乖離現象で消失。武器であった銃や、刃物はなぜか草でできてる特殊なおもちゃに。大量にあった爆弾や弾薬は、投げるだけで花を咲かせる綺麗なアイテムに。

「あなたは地球を助けてくれたけど、私はあなたの子どもを産むだけでいいの? というか結婚するだけでいいの?」

「そうだよ。ボクはずっと月からあなたを見てきた。あなたほどの自己嫌悪、人間嫌いはいないでしょう」

「褒められることじゃないんだけどな……」

 でも、人間じゃない月の人だからこそ、私は想いを受け取れたのかもしれない。地球に害なす人間はその行為自体を否定され、不可能にさせた。

 これ以上ない幸せな世界が産まれてた。

「あといじめとかそういう小さなものはなくせればいいのだけど」

「そこまではボクの力は働かないかな。あくまで自然に関わってるものに関係するから」

「人間も自然じゃないの?」

 動物もそうだし、魚も、植物ももともと自然に関わってて、勝手に人間が破壊し、家畜としてる。

「そうだね。人の心を変えてしまってはボクは君の旦那様にはなれないし、君が望まないでしょ」

「それは……そうだね。そんな人は人間じゃなくても嫌いかもしれない」

 ぎゅっと握りしめられた手は冷たい。

 平均体温が20度もないっていうのだから、不思議。

 身体データをみても、ほんと人間と同じなのに体温が低いのはなんでだろうな。

「気になる?」

「そりゃぁ、私たちの子どももそうなったら困るじゃない」

 そういうと月の人は笑う。

「大丈夫。その頃にはボクたちは月へ向かう」

「月?」

「うん。月でボクたちは変革を見守る。君が望んでやまない自然に溢れて人と人が手を取り合える世界になるように」

 そっかと私は、お腹をさする。

「学校もやめちゃったし、あとは待つだけだね」

「後悔してない?」

「もともと産まれたことを後悔してたから、これからはあなたの近くで嫌いなものをもうちょっと信じてみたい」

 戦争は止まったし、犯行グループも数を減らし、事故も減った。

「うん、良かった。ボクは嫌われるかなって思ってもいたんだけど、いらない心配だったみたい」

「最初はびっくりしたけど、はじめて産まれて良かった。あなたと出会えてよかったって思えたから」

 だから、後悔はない。

 産まれてあなたにあえて。

「じゃぁ、家に帰ろう。弟くんと遊ぶ約束をしてたんだ」

「そっか。私は晩御飯の支度するね」

 期待してるからと月の人は、ゆっくりと私を持ち上げてくれた。

 いわゆるお姫様だっこ。

「ありがとうね」

「これから君の足にもなるんだから、全然だよ」


 世界がもっと平和であればきっと私の足はこうならなかったんだけどな。過激派グループに巻き込まれたのは運命だったのかあるいは、奇跡だったのか今はもうわからない。

 これからはこれからなんだもの。

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月の人 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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