底無しの沼
@rabbit090
第1話 沼
私は沼から出てきた。
沼から生まれ出でたのだ。
だから、臭いよ?だって、コイとか金魚とかライギョとかなんでも住んでるんだ。
「はあ、何だかな。すっきりしない。もやもやするよ。」
私は元来はっきりさせたい性格で、すっきりしたい性分なのだ。そう気づいたのは、最近だけどね。何でか、何でもかんでもはっきりさせなくては。というんだ。
「ねえ、最近どうしたの。疲れているみたいだけど。」
彼女は聞く。
「そうなんだ。有り余ってる感じ・・・。僕はエネルギッシュなんだって。」
私はそう答える。
彼女の前では、僕、と偽る。私を。本当は私なんだけどさ。
最近ここは空気が悪い。環境も悪い。とても寝付けやしない。自分の感情に正直にはなれない。こんなところに住んでいては。はあ、一刻も早く抜け出したい。淀み切った場所。この空間。
「あ。」
泳ぎ回る彼女を見つける。徹底的に意味が分からない。誰かを貶めてしまったのか、と不安に思う。あのひらひらとしたドレスは私を誘惑する。
きれいだ。私にも着させてくれと。ぼやくように口を動かす。
彼女は華麗で華美で華奢だ。華が三つも付くなんて。よ。
私の彼女に対する気持ち。それは?それは?という繰り返しを毎日している。なんて。
彼女は昔から派手だった。生まれた時からだね。そうらしい。ひらひらひらひらと舞っているよう。だから私はもう恐ろしくて仕方なかった。あんなに輝いている彼女が。あんなに光っている彼女が。そして、彼女が私を嫌っているという事実が。
社交辞令だ。彼女はよく私に話しかける。そのたびに私の心は浮かれてしまう。
でも、彼女は私を嫌っているらしい。
だって、避けるのだ。ひらひらと。私から近づこうとすると、ひらひらと、逃げる。
ああ、こんな場所からは出よう。出ようと思う。
出てしまってどうするのか、分からない。
そもそも出るとは?分からない。
探そう。
そう決意したから、私は一日中動き回る。ああ、楽しい。動き回って、何かを求めるのがこんなに楽しいなんて。思わなかったよ。
自分の思考が明確になるのを認識する。
それでね、行きついたんだ。ある場所に。ずっとずっとずっと行った先、そこに光を見る。見た事のない光。見るはずのない光。私はすぐに適応できない。だが、適応してやろう、と思う。誰にも見せる必要はない。私が、行ってやる。そんな、まがまがしいような猛々しいような不気味な決意をしたのだ。
「おかしいわ。あの子。最近。」
ネミノは思う。
ネミノは優秀だ。いつも先を見通している。だから、彼女の予測を超越していくあの子が気になってしまう。
「いつもいつも、どこかへいってしまうの。何かを探しているみたい。言ってしまうと、欲求不満な犬って感じ。」
そう思い始めると、やっぱり気になる。
ネミノはいつも思っている。なんて、狭い世界だろうか。なんて、退屈な世界だろうか。なんて、汚い所なのかと。きれいな顔をした彼女の内面は、泥に満ちている。本当は、きれいなものなんて心を動かさない。泥々しくて、汚れたような、そんなものに胸の内をえぐられる、という感じ。
だから、ネミノはあの子に魅かれる。いつも、心を固まらせて、何かを追い求めて
いる。理解しがたいあの子。だから、つい、避けてしまう。
自分の醜い本性を、知られまいと。あの子に。
不可思議な現象を感知する。不可思議って、まあ、通常では考えにくいってことかなぁ?
この世界は平和なんだろうか。疑問をいつも抱き続ける。
見回すと、なんとも息苦しいことに気付く。息が、できない。
そう思い始めて、目の前が見えなくなって、そのまま闇になる。
闇の先には、何が、そんなことを思っていることに、気付いたんだ。
誰も疑問を抱かない。誰かが疑問を抱くべきなのに。それは分かってる。それも分かってる。何にもなれない自分は、どうしようもない。何かにならなくてはと、焦る。焦って、焦って、崩壊していくのだ。ただ、やりたいことをやれば欲求は満たされるのだろうと思った。けど、私は誰にも承認されない。私はそれを満足できない。苦しい。この沼を、抜けだそうと決意する。さあ、今抜け出してやろうか。
沼とは、何だろう。この沼は何だろう。さあ、この物語には私いや、僕とネミノが登場するんだけど、一体ここはどこなのだろうか。教えてほしいと焦がれても、きっと答えは見つからない。これから、これからずっと深く立体にする。だけどさ、もういいんじゃないのかな。もう、どうでも。全部どうでもいいはずなんだよ。どんなに自己満足を繰り返しても、私は不幸だ。だって、さあ、社会の中で、誰が、私を認めてくれるの?そこの部分がどうあがいても達成されないという現実に、打ちのめされている。
果たしてその正体は何だろう。沼の中で暴れまわることしかできない彼らは何者なんだろうか。ぼんやりとした輪郭を濃くしていく。そんな作業を繰り返す。
さあ、次はどうなるのだろうか。想像している。
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