ガチガチのほどほど
シヨゥ
第1話
「頑張れ俺。いまが踏ん張りどころだ。頑張れ俺」
自分を自分で応援する。頑張ることを自分で強いるように、何度も何度も声に出して繰り返す。それは自己暗示のようで。だんだんと自分が研ぎ澄まされていくような感覚に陥っていく。
しかしながら僕は分かっている。分かっているんだ。この感覚は研ぎ澄まされていっているんじゃない。プレッシャーで追い込まれているだけなんだ。追い詰められてギリギリ立っていられるような状態。腹の底がひりつくようなそんな感覚。それを感覚が研ぎ澄まされていると勘違いしているだけなんだ。
「そんなに頑張らなくてもええよ」
そんなガチガチに緊張したぼくにお嬢は声をかけ、その手を僕の手に添える。
「下手に力が入ると出来るもんも出来ん」
ぼくを抱くようにお嬢は後ろに回った。
「型はあっている。あとは体さばきだけやね。それじゃあひとつうまくいくおまじないをしてやろうか」
耳元でささやくお嬢。そして耳に息を吹きかけられた。ぞくっとする感覚。
「いきっ!」
その声に刀を振りぬく。
「できるやないか」
今まで何度やっても切れなかった丸太が真っ二つに裂けていた。
「力を抜いたほうが良い結果も出るものさね。何事もほどほどが一番。覚えとき」
「分かりました。いい学びをありがとうございます」
「それは結構。それじゃあ今日はここまで。しっかり片付けとき」
「ありがとうございました!」
道場を後にするお嬢に対して深々とお辞儀をする。
「言う端から力んどる。お辞儀もほどほどが一番。そんなガチガチにやられたら暑苦しくてかなわんわ」
そう言ってお嬢はぼくの頭をやさしく叩くのだった。
ガチガチのほどほど シヨゥ @Shiyoxu
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