11−94【無限永劫2】



無限永劫インフィニット・エタニティ2◇


「キヒ……キヒヒ……ヒヒヒヒヒヒヒヒィ……」


 ゾッとするような笑い声に、ミオは背筋に汗を流す。

 今まで戦っていたのは、いったい誰だったのかと。


「君は……何なんだよ」


 落下から体勢を整え、周囲を確認する。

 綺麗に消え去った城跡と、変わりのない城下の景色……


 ミオは安堵した。

 消滅したのは城だけで、城下町と住人たちは無事だと分かったからだ。


「フハッ……ハハハ、アハハハハハハハハ!!」


 ゆらりと首を傾け、シャーロットはミオを見下ろす。

 ギギギ……と、狂った人形のように、不規則な動きで。

 そして一瞬で。


「――消えっ」


 【転移てんい】のような能力の発動ではない。

 これは、身体能力だ。


武邑たけむらぁぁぁみおぉぉぉぉ!」


 背後に感じた悪意に、ミオは飛び退こうとしたが。

 その衝撃は背中に走った。


 ドン――と。


「がっ!!くっ……くそっ、刺された……のか」


「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、イヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 左背部から出血。

 【哀傷あいしょう】で痛みはないが、それは確実に心臓を狙ったものだと理解させられた。前世の時のように。


「君が、本当の……」


 「ユルサナイ」と聞こえたあの時の空気。

 それをその身で感じ、改めて間違いだったと気付く。


「コロス……殺す殺す殺す殺す!アハッ、アハハハハハハハハ。ウフフ。フフフフフフフ!」


 ゆらりゆらりと、左右に揺れながらミオに迫る。


「シャロ!どうだ!?」


 全力の【無限永劫むげんえいごう】に乗せて、【滅壊めっかい】を相殺した歳に本物のシャーロットは女王の身体に戻った……はずだが。


「ちっ!飲まれたかっ!!――ぐっ!!」


 ザシュ――!!


 左肩から斬り裂かれた。

 異常なスピード、ミオでさえ動体視力が追いつかない。

 だからミオは【転移てんい】で距離を取ろうとする……が。


「ちっ……」


 【転移てんい】をした先で斬られた。

 今度は左脇腹。しかしシャーロットは少し先で首を傾げてたたずんでいる。


「空間に、切れ目?そこから斬られたのか……」


 脇腹の傷は【無限永劫むげん】で修復するが、出血は防げない。


「面白いわねぇぇ……ねぇそうでしょうぉぉ?」


「君と同じにしないでくれ。俺は……狂っちゃいない」


 正直な感想だ。

 仙道せんどう紫月しづきは狂っている。

 【女神オウロヴェリア】とかシャーロット・エレノアール・リードンセルクとか、そんな人格は度外視にしなければ、もう手立てはない。


(そもそも何で斬られたんだよ……爪、か?)


 つまりは手刀に近い。

 それで背中を刺され肩を斬られ、脇腹を裂かれた。


「ねぇ痛くないの、痛くないのぉぉ?どうして、ねぇどうしてぇぇ??」


「マジでキチぃな……二つの意味で」


 どうすればこの状況を打破できるか、ミオは必死に思考する。

 力も速さも、能力ですら及んでいない。

 冷静さだけが唯一勝てていると自負できるが、それは勝敗に影響するのか。


「気持ちのいい痛みを、分かち合いましょうよ……武邑たけむらみおぉぉ!」


「――勘弁に決まってんだろ!!」


 斬り裂かれる度に、ミオは微かな違和感を感じていたが、それを思案する暇もないほどに、シャーロットの攻撃……いや殺意は苛烈になる。

 全て心臓を狙った、鋭利な爪での一撃。

 徐々に近付きある距離に、ミオは……一縷いちるの望みを託すしかなかった。

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