11−41【女王国の闇2】



◇女王国の闇2◇


 ミーティアたちが滞在している場所は、【ステラダ】の東の区画だった。

 俺が初めて【ステラダ】を訪れた時に泊まった宿ではなく、安価で人がいない場所だった。

 正直今のミーティアなら高値の場所でも宿泊できるだろうが、あえて選んだであろうその理由は……


 キィ――と金具が緩んだ扉が音を鳴らす。

 ミーティアが開けた部屋は、灯りすら着けられていなかった。


 そして暗がりには。


「――ジルさん」


 俺が室内に入った瞬間視界に入ったのは、柱に鎖で括られ身動きを封じられた……ジルリーネ・ランドグリーズ、ジルさんだった。


「ああ……ミオか、ふふふっ、良い所に来た……この鎖を、外してくれないか」


 フルフルと、ミーティアが首を横に振る。

 どうやらこの鎖はミーティアが用意したようだ。

 ジルさんが繋がれた鎖は赤くにじんでいて、無理矢理鎖を外そうと暴れたのだろう……


 普段の冷静なジルさんなら、魔法で簡単に解けるはずなのに。


「待っててくれジルさん、今怪我を治す」


 進化した【無限むげん】なら、ウィズの記憶したデータから作用させて、肉体をも操作できる。これで治療すれば、一瞬だ。

 正確には治療ではなく、復元だな。


「――構わない。いいからこの鎖を……外し、外して……はず……せぇ!!」


 目を見開き、揺れる瞳孔。

 ジャラジャラと鎖を無理矢理外そうと、身体を捩る。

 ぷしゅっ、ぐしゅっ……と血の飛沫を見せた。


 混乱しているのか、それとも何か他に……いや、考えるまでも。


「何処だ……何処にいるジェイルゥゥゥゥゥ!!」


「ジル……お願い!もう暴れないでっ!」


 ジルさんに抱きつき、ミーティアは泣きそうになりながら願う。

 これか……しばらくは会わないつもりでいたミーティアが、考えを曲げてまで俺を迎えた理由は。


「ジルさんごめん、ちょっと眠っててくれ」


 この一年で解放された、十個の能力の一つ。

 他者の精神を落ち着かせ、眠らせる能力――【夢望むもう】。


「や、止めろミオっ!わたしはジェイルを!ジェイルをころ――」


 かざした手の平でジルさんの両目を覆う。

 その途端、ジルさんは糸の切れた人形のように、眠りに落ちた。


 この能力は、ほぼ催眠術のようなものだ。

 ジルさんクラスの実力者ならかかりはしない……そんな中級クラスの能力だが、簡単に眠ってしまったな。


「殺す……そう言おうとしたな、ジルさん」


「うん」


 悲しそうに。

 ミーティアは【ステラダ】に来てからの事を、俺に相談出来たはず。

 それでも数日、俺が連絡をするまで自分の力で解決しようとしていたんだろう。

 目元にくま……疲れも見える。


 どうして相談しなかったんだなんて、そんな事は言わない。

 言えなかった事情も、心情も痛いほど理解出来るから。


「ティア、頑張ったな……もう大丈夫、大丈夫だからな」


「っ……ごめん、ごめんなさいミオ……」


 ギュッと抱きしめる。


 ジルさんがジェイルをそこまで憎んでいた……いや、違う。

 これは同じだ。【アルテア】で起きている騒動と。

 全部、黒の【オリジン・オーブ】の仕業だ。


 憎悪に駆られ、心の内に閉じ込めた悪意を目覚めさせる。

 自分の意志とは関係なく、その対象に襲いかかる……黒の【オリジン・オーブ】の悪意。

 きっとジルさん、【アルテア】にいる間は耐えていたんだな……だけど近付いた。

 発信源である場所に近付いて、抑えられなくなったんだ、一度は許した……兄への憎き思いを。

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