11−26【神の恩恵1】



◇神の恩恵1◇


 その日、塔の村【アルテア】全土に映し出された光景は、後の世でこう呼ばれる。

 神から与えられた……覚醒の恩恵が授けられた日――と。


「……何が起こるんだろうな、ミオはいったい……何をするつもりなんだ?」


 この場所で集まっていたのは、ミオ・スクルーズの家族。

 父ルドルフ、母レギン、妹コハク。

 そして長姉レインと、婿むこに入る予定であるアドル・クレジオだった。


「さ、さぁ。でもなんだか、緊張してるのは伝わるわね」


 家族だから分かる微細な感情。

 両親は不安と心配の表情を浮かべていた。

 しかし妹は嬉しそうに。


「でもお兄ちゃん、なんだかワクワクしてない?」


「……そうね。新しいものを見たような、挑戦しようとしているような、そんな感じにも見えるかな」


 夫婦となる男の肩に手を置き、レインは微笑ほほえむ。

 その笑みには不安や心配はないようだった。


「ああ。流石に君の弟だ……頼もしいよ」


 視力を失った右目に眼帯を着け、アドルはその手にみずからの手を重ねた。





「さて、お手並み拝見ね」


「なにがお手並みよ!このままじゃあアイツ、本当に主神様に並んで――」


「あら、よいではないですか?」


 ここは【四神教会ししんきょうかい】。

 アイズレーン、イエシアス、エリアルレーネが言葉にする。


「そうなのだー、ミオは本来、並び立つ者がいない領域に到達した初の転生者だぞー。興味を持つのは神として当然ではないかー、イシスの愚か者」


「な、なんですって!!か、神なら止めるべきでしょ!同じになるのよ!?主神様にしか出来ない恩恵を……ただの転生者如きが!!」


 ウィンスタリアの言葉にいきどおるイエシアス。


「アンタがなんと言おうが、ミオはもうスイッチ入ってんのよ。その如きに負けた女がどうこう言える立場じゃないのよ」


 アイズレーンはイエシアスの心配を毛とも思わない。

 それどころか大歓迎なのだ内心は。


「あらあら、イシスはまだミオを認めないおつもりですか?」


「当たり前でしょ!!」


 エリアルレーネは頬に手を当てて笑っている。

 認める……と言うのは、既にイエシアス以外の女神が通っているのだ。


「神に並ぶという事がどれだけの事態なのか分からないエリアじゃないでしょ!?今ならまだ間に合うわ、この飾りを外して!!」


 女神の三柱の神力を集約させた装飾品。

 それはイエシアスの神力を封じ、今では新人のアイシアよりもくらいが低い扱いだ。

 その腹立たしさも勿論あるだろう。しかし、その苛立ちの本質は……


「――自分が主神の傍にいられなくなるから、同じ存在が鬱陶しいんでしょ。これじゃあ主神レネスグリエイトかミオか、どっちが自分の求めていた存在か分からなくなるものねぇ!」


「くっ……アイズレェェェェン!!」


 それは認めたくはない事実そのもの。

 ミオ・スクルーズは……主神と同じ、授けと言う行為を行える。

 主神が女神に能力を授けたように、仕様こそ違うものの……覚醒させるという本来生きていく上では気付く事すら無いであろう人たちへも、力を与えるのだから。

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