10−12【進む未来は同じはず3】



◇進む未来さきは同じはず3◇


 同じく夜、会議に参加していなかった面々といえば。


「――と、父さん村長なのに……」


 そうなげくのは、【豊穣の村アイズレーン】の村長、ルドルフ・スクルーズ。


「それはごめん、ホントごめん」

「ごめんなさい、パパ」


 平謝りする娘と息子に、涙目になりそうな思いで落ち込む。


「まぁまぁあなた。あのお嬢さんが皇女様だったのも知らなかったのに、いきなりその会議に出ろと言われても、あなた絶対に混乱したでしょう?」


「それは……まぁそうなんだがなぁ」


 家族の食卓に木皿を並べる妻レギン。

 皿の中には、ミオが町で買ってきた魚介スープが。


「美味しそー!」


「……コハクは呑気だなぁ、パパはこんなにショックなのに……」


 目を輝かせて魚介スープを見る末妹コハク。

 どうやら魚系が好きらしい。


「父さんを呼ぼうとも相談はしたんだけどさ、事が事だったし、母さんの言う通り混乱しそうだったからさ……ね」


「そうね。それに追加で公国から公子と公女がダブルで来たのよ?しかも女神付き……パパは失神すると思う」


「……パパもそう思うよ、残念だけど」


 はぁ……と深い溜め息を吐き、とんでもない事になっていると理解する。

 しかし村長として、そんな重大な場にいないというのも恥ずかしい話だった。


「勝手に決めたのは悪かったと思ってるよ。でもさ、村は多分……ここでは再起出来ない可能性があるから」


 土壌の汚染は、思いのほか深刻だった。


「父さんも見ただろ?このままじゃあ野菜は育てられない、魔法の影響のせいでね……だから移動する。幸いな事に、場所も確保できる見込みだし」


 しかもエルフの森だ。

 百年前に焼かれた森だが、魔法の影響はない。

 土壌は汚染されていないし、【豊穣ほうじょう】があれば、少し前の村には直ぐに追いつける算段だ。


「――ただいま……って、あれ。皆揃ってるね」


「あ、レイン姉さんおかえり」


 スクルーズ家、久しく全員揃う。


「姉さん、どうぞ座って。アドルさんの怪我はどう?意識は戻ったのよね?」


「え?ええ……え?」


 クラウがエスコートを始めるが、レインは戸惑い気味だ。

 椅子に座り、キョトンとする長姉。

 母レギンが追加でスープを持ってきて……久しぶりに全員で食事をするのだった。





「ふぅ……やっぱり母さんのご飯は美味いね」


「そうね……控えめに言っても、泣きそうだわ」


 ミオとクラウがそう言う。


「ふふふ、嬉しいことを言ってくれるのね。二人が元気に戻ってきてくれて、本当に嬉しいの。お母さん、もっとお料理したかったけどね」


「仕方ないよ、材料は村の野菜でもないし」


「それでも百倍美味しかったよ、ママ」


 クラウに至っては、前世から数えても数十年ぶりの魚まで食せた。

 しかし材料は少なくなってきている。ミオとリアが隣町で買ってきた村人全員分の食事だが、思ったよりも消費が大きかったのだ。


「嬉しいわ、ありがとね二人共……あ〜でも、そろそろ材料がね……」


「……ティアとジルさんが持ってきてくれた野菜や山菜、果物のおかげで足りた感じか。明日からは、ルーファウスが援助してくれた公国産の食料のおかげで生き延びれそうだね」


 疲れ気味に言うミオ。

 そんな弟にクラウは。


「また買いに行けば?資金はあるんでしょ?」


「忙しいっての、代わりに姉さんが行ってくれよ……飛べるじゃん」


「はぁ?一度行った場所なら、【転移てんい】で簡単に行けるんでしょ?ならせめて一緒に行こうとか言いなさいよっ」


「――ティアならともかく、姉さんとは行かないって」


「このっ、生意気っ!」


「いでっ、痛いって!」


「「「……」」」


 組み付いて脇腹を小突く。

 そんな姉弟を見て……家族は。


「な、なんだか昔より仲良くなったな……二人共」


「そうね、なんだか……姉弟きょうだいって言うよりも、親友?みたいな」


「――あ」


 父と母はそう言う。

 そして長姉は思い出す……助けられた日の、弟の言葉を。

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