9-23【異世界への憧れ2】



◇異世界への憧れ2◇


 帝都からのお客様であるフドウさんは「かはは」と笑いながら、あたしに手の平を見せる。

 そこに描かれていたのは紋章で、瞳の形をしていた……まるで見透かしいるような、そんな黒い、悪魔の目のような紋章。


「それ、は……?」


「これは――【ナイトメアアイ】。さいみんなんたらどうにゅうなんたら?とか言う能力を持った魔物の能力で……悪い夢を見せる事が出来るんだ、でもってこの目で、その夢を覗ける」


「……」


 あたしは無言でフドウさんを睨んでいた。

 意味が分からない言葉もあるけれど……悪い夢を見せたのはこの人なんだ。

 しかも無断で人の夢を、いや……でもそれはあたしも。


「そう睨むなって幼馴染ちゃん。ミオっちたちはここ数日寝不足気味だっただろー?だから寝せてやったんだって。その代わり、夢を見せて貰ったけどなー」


 だからミオもクラウさんも起きないのね、こんなにうるさいのに。


「どうしてそんな真似をするんですか?」


 疑問でもあるし、聞かなければいけないとも思った。

 フドウさんはニッ――と笑い、ミオとクラウさんを交互に見ながら言う。


「――知りたいんだよ、日本をさ」


「にほん……を?」


 さっき見せられた、ミオとクラウさんの前世の光景。

 刺されて命を落とす青年と、首を絞められて命を落とす女性の……悲惨な結末。

 そんなものを見せて、覗いて、趣味が悪いよ……そんなの。


「そ。【ナイトメアアイ】は、その人の一番最悪な夢を見せるんだけどさぁ、転生者にとっての最悪・・ってのは、たいてい前世だって、相場が決まってるんだってさ。押し売りだけど」


 まるで他人から聞いたように言うフドウさん。

 いやちょっと待って……押し売り?受け売りではなくて?

 でも実際、二人が見た悪夢は前世のもので……しかも命を落とすと言う最も残酷な物なのかも。


「だから、ミオっちにもおチビにも悪い事をしたとは思ってるよ、謝りはしないけどっ。でも……まさか幼馴染ちゃんも同じ夢を覗くなんてな、どうだい?ミオっちの前世の世界、地球って星は」


「……どうって、あたしは別に、見たくて見た訳じゃ」


「噓だね」


 !!


「……」


 憎たらしいまでの、確信を決め込んだ笑顔だった。

 だけど、そう……あたしは見たかった。

 自分から手放した、ミオとの関係性を、あたしは捨てきれていない。


「日本では、沢山の恋愛は出来ないらしいからなー。例えばどこかの国では、奥さんや旦那さんが何人もいる人がいるけど、日本でそれは出来ないって言ってた」


 誰が。


「たったのひとりだけを愛して愛される。それがルールなんだ、縛られた世界で生きてるんだよ。意味の分からないものにルールを決めたり、意味のないものを法で裁く。あーそう言えば、実際は罪でもないのに、死ぬほどの罵詈雑言を浴びせる世界だって聞いたな、かははは!」


 この人の言う地球という世界は、日本という国は……もしかして、全部聞いた話なの?


「あなたは、転生者なのに知らないんですか?」


「かはは、はは……はは……ああ。そうだよ、だから覗いたんだ。知りたいから……俺は日本に行きたかった、いや、生きたかったかな」


「?」


 言葉だけでは伝わらないようなものでも、不思議と。


「俺が生まれるはずだった世界に、俺は憧れているんだ」


 だから悪い夢を見せてでも、その世界の情報が欲しかったと、フドウさんはそう言いたいんだ。

 切なそうに、ミオとクラウさんの寝顔を見るフドウさんは、叶わない夢を覗いてしまった少年のように……悔しそうに唇を嚙んだ。


 まるで女神の悪戯いたずらに翻弄されて、迷っていくように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る