9-22【異世界への憧れ1】



◇異世界への憧れ1◇


「――なっ!!」


 目の前に手をかざす黒髪の少年に、アイシアは仰け反った。

 しかし膝には二人の頭部。しかも足が痺れている。


「――っ……!、~!」


 声にならない声で、アイシアは身をよじる。

 それを見て黒髪の少年ユキナリは、腹を抱えて笑う。


「かっはっはっは!面白っ……さすがはミオっちの幼馴染だ!」


 意味は分からないが、どうやら褒められているらしい。

 心底意味不明だし、嬉しくもないお褒めの言葉を受けて、アイシアは。


「あ、あなた……帝都からのお客様の、どうしてここに……ここは女神様が許可されなければ……っ」


「??」


 「何言ってんだ」。まるでそんな顔でアイシアを見るユキナリ。

 しかし意味が分かったのか、手のひらをポーンと叩いて。


「――あ。許可はエリアから貰ったよ、迎えに来たんだ」


「エリアルレーネ様を……あ、あ~」


 アイシアも納得し、敵意を出してしまった事を反省する。

 自分も寝落ちしてしまったからなにも言えないが、もう朝である。

 あれから数時間経っているのだ、迎えが来てもおかしくはない。


「でもってエリアはここの女神と一緒に寝てやがる、かははっ!」


「え」


 あれだけ睨み合っていた(アイズが一方的に睨んでいた)のに、まさか仲良く寝てるとは。本当に神様は分からないものだと、アイシアは混乱しそうだった。


「と、ところでえ~っと」


「ん?ああ……俺はユキナリ・フドウ、不堂ふどう雪鳴ゆきなりでもいいぞ!?こう書くんだ……っと、どう?」


 名前を聞かれたんだと分かったユキナリは、アイシアの隣にしゃがんで自分の手の平に、指で文字を書く。

 アイシアには分からない、漢字だった。


「どうと言われても……」


 困惑しかない。

 アイシアは引き攣った笑顔で返すが、どう考えても引いている。


「そっかぁ……」


 シュンとする。


(こ、子供みたい……)


 褒めてもらえなかった子供。

 率直に言えばそんな感じだと思うアイシア。

 割と的を射ているのだが、アイシアには分からない事だった。


「所で、どーしてミオっちとおチビ、おんなじ夢を見てたんだ?」


「へ?え……ど、どうしてそれ……」


 二人の寝顔を見るユキナリを、アイシアはぎょっとした顔で覗く。

 こちらを見るユキナリの顔は……真顔だった。


「幼馴染ちゃんも見てたよな。日本の夢……」


「あなた……なんでっ」


 アイシアは怖さと危機感で、咄嗟にスクルーズ姉弟を覆うように被さった。


「かははっ、そんなに警戒すんなって!ほらさっき……こうして手を翳してただろ?」


 アイシアが目を覚ました時と同じように、ユキナリは手を翳す。

 その手の平には……瞳のような紋章が輝いていた。

 全てを覗いてしまいそうな、よこしまな瞳が。

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