9-9【アイズの灯火2】



◇アイズの灯火ともしび2◇


 五柱の女神はそれぞれに特化した能力を主神から継いだ。

 しかしそれは、負をも継いでしまうという事態が起こった……それが初めの女神オウロヴェリアであり、主神の負を一身に受け継いだ悪神として誕生してしまった。

 だから主神は急ぎ他の女神……エリアルレーネとウィンスタリア、イエシアスを生み出した。


 運命に従う神、世界を救う神、人を惑わす神を。

 権能を次々と生まれた女神に明け渡し、残されたのは育む力。

 最後の女神にはその能力……豊穣の名が付けられた。


 エリアルレーネが完成した時点で、オウロヴェリアは主神によって抹消された。


「その後は私も知りません。イエシアスとあなたが生まれたのはその後ですからね……」


「ええ。そしてあたしが作られた後、主神に残されたのは、創造したいと言う心だけ……クリエイトする事だけが生きがいの、つまらない神になってしまった」


 世界を創り出し、そしてそのまま放置する。

 いったい幾つの世界を生み出して、幾つの世界をダメにしたのだろう。

 アイズはこの世界を、そうはしたくなかったのだ。


「主神がこの世界に、能力を持った人間たち……つまり地球からの転生者たちを散らばせた時、どう思いましたか?」


 エリアルレーネはアイズの榛色はしばみいろの髪をくしかしながら言う。

 されるがままのアイズは。


「――チャンスだと思ったわ」


「なんの?」


「決まってる……神を殺すための、よ」


「……」


 アイズレーンの目的は神を殺す事。

 全ての神を殺し、この世界を自由にする事こそが、【女神アイズレーン】の本望だ。


「だからあたしは、転生の仕事を放棄して……他の女神あんたたちが転生させる人間の中から転生者を選別してた……でも、あたしの思うままの転生者は一人も出てこなかったのよ――で、ミスったわけよ」


 何年何十、何百年も転生の流れを見てきて……そしてようやく初めて、転生の仕事をした。そんな時だった、ドデカいミスをしたのは。


「ミスをするのは、とても人間らしいですね……だけど、そうして誕生したのが――ミオ・スクルーズですか」


「あたしの権能である能力――【叡智ウィズダム】。この能力にはあたしの人格をコピーしてある。『この人間だ』と反応すれば、自動的に開眼するように設定もした」


「そして目覚めた。【叡智えいち】の能力は全ての能力を管理できる……使用者に合わせて共に成長する。そして自立思考を持ち……いずれ」


「――使用者を、神殺しの英雄へと導くのよ」


 だから今消える訳にはいかない。

 更には……


「もうすぐEYE’Sアイズが継承されちゃう……時間は無いのよ」


「だから【神命与奪しんめいよだつの儀】をするのでしょう……?」


「あんたの命なんて要らないわよ」


 EYE’Sアイズの選別は本人同士によって進む。

 しかし今回は特別だ……一人のEYE’Sアイズが、突出しすぎていた。


「ですがこのままでは……あの村娘は次のあなたになるわよ?」


 アイズは拳を握る。

 弱々しくあるが、意思を込めた強い力で。


「それは……でも、なんだかあの子は少し違う気がするのよね」


 EYE’Sアイズはいずれ次の自分を生み出す。

 名称は違えど、それは四柱の女神全てで共通の儀式だ。

 だが、EYE’Sアイズであるアイシアには、少し違う感覚があった。


「違うとは?」


「……アイシアは、創られた神アイズレーンにはならない気がするの。まるで別物……それこそ主神が生み出そうとした――本当の神のような」


「――止めておきなさい、それ以上は」


 髪をかし終えて、エリアルレーネはアイズレーンの言葉を止めた。

 アイズの考えは、果たして妄想か……それとも真実か。

 神すらも予測できない世界の未来は……誰にも分からないのだ。

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