エピローグ8-1【後始末1】



◇後始末1◇


 戦いの処理ってのは難しい。

 舞台となり、炎上する村の消化は全然追いつかないし、幼女に任せた長姉も気になるし、村に入ってしまった兵士たちを追った方の次姉も気がかりだ。

 北門で疲れ果てている訳にもいかないんだよな……


「よっと。あー二人共、悪いけど帰らないでくれるか?」


 俺は背中を見せるユキナリに言い放つ。


「あ、ばれた?かっはっは!」


「す、すみませんミオくん」


 ライネは申し訳なさそうに平謝りする。

 ユキナリの服を掴んでいるから、引き留めてくれたんだろうな。


「いや、事情聴取ってわけじゃないけど……話は聞きたいんだ。それに、まだやる事多くてな。出来れば手伝ってほしい、頼めないかな?」


「……えー」


「分かりました!ご協力させてください!」


 やけにはきはきしているじゃないかライネ。

 やる気があるのはいい事だ、うん。


「助かるよ。寝泊まりできる場所は用意させてもらうから、まずは……」


 そうだな。

 二人にはクラウ姉さんを追って貰おうかな。

 あの人も疲労困憊だろうし、向かったのは村の北。

 アイズが言ってた……移住民が多く居た場所、問題が起きた場所だからな。


 でもって俺は……村の現状を全体で見てみるか。





 村に侵入した兵士の数は少数だった。

 聖女の命令を聞く、数少ない意思のある人物……【王国騎士団・セル】の団員数名だ。

 その中でも、一人の少女が指揮を執っているように見えた。


「さぁ急ぎましょう!早くしなければ……今度は自分や友がああなりますよ!」


 聖女の【奇跡きせき】は、自我を奪い怪物とする。

 この事実は、後の王国史にも記されることになる大罪だ。

 国民の二割が徴兵ちょうへいされ、物言わぬ人形兵士となって隣国へ侵攻した事は、断じて許される事ではない。


 【王国騎士団・セル】の騎士カルカは、聖女の側近ともいえる立場だった。

 最後に受けた命令は……村に侵入して火を放つ事。

 数は少数だが、魔法をもちいて既に火は掛けられている。


「こんな事したくて騎士に成ったんじゃないのに……」


 燃える木製の建造物を見上げ、炎上する赤を瞳に映して呟く。

 今この場にいる騎士すべてが、同じことを思っている。

 しかし、やらねば自分が怪物になるのだ。


「――な、なぁ……あんた、王国の人間なんだろっ」


「誰ですっ」


 カルカに声を掛けたのは、この村の人間と見られる複数人。

 北の地区に住む、王国からの移住民だ。


「お、俺たちは王国民だ、敵じゃない!だから剣を納めてくれないかっ!」


「……申し訳ありません。目撃者は……消します」

(吞気なのか馬鹿なのか、まだ逃げずに残っているなんて……王国民と言った?王国の民は、そこまで考えられないほどに……)


 カルカは自責に表情を険しくするも、剣を振り上げる。

 移住民の男は、こうなるとは一切思っていなかったのだろう。


 「ひ、ひぃぃ!」と腰を抜かして、尻餅をつく。

 後ろにいた移住民も同じだ。後退りし、現実を受け入れられない。


 そしてカルカの動きに合わせて、他の騎士も同じく剣を抜く。

 移住民を囲み、誰一人として逃げられない状況が出来た。


「この村にきたことが運命です、残念ながら」

(王国民であろうと、聖女さまの目には入っていない……その時点で)


 「う、うぁ……」と、小さくうめく男に、カルカは非情に剣を振るった。

 しかしその剣閃に、割って入る小柄な影。


 ギィィィン――!!


「――待ちなさいっ!」


「……っ!」


 カルカの剣は受け止められた。

 刀身の輝く剣に、小さな少女に。


 ギリリと押し返され、カルカは後退する。


「まさか気付かれるとは……あなたは、先程まであちらで戦っていたはずなのに」


「優秀な弟がいるのよ、だから来れたわ」


 【クラウソラス・クリスタル】をブンっと振り風を斬るクラウ。


「あ、あんたは……村長の娘、た……助けてくれ!!」


「……」


 クラウの背中にかけられる懇願こんがん

 身勝手で、最低で、救いようのない言葉だと……クラウは思った。


「その男は、いえ……ここにいる人たちはどうやら王国民のようですね。私が保護します、ご迷惑をおかけしました」


「あなた、自分の意志?それとも……」

(たった今剣を振るったくせに、よくもまぁいけしゃあしゃあと……)


 内心で苛立ちながらも、クラウは騎士に問う。

 先程まで戦っていた死なない兵士と同じく、この騎士も聖女の傀儡かいらいなのか、と。


「これは私の意志です。悲しい事に、聖女さまのご意向ではありますが……」


「なら今すぐに引き返しなさい、これ以上は戦っても無駄よ」

(……魔力反応!?こっちに来るっ)


 クラウは【感知かんち】で近付く反応を確認した。

 それはすごい勢いでやってきて、カルカの前に立つ。


「――アレックス団長!?そ、その方……聖女さま!!」


「団長?……金髪に緑眼、天族みたいだけど……って!聖女!?」


 その男性が抱えるのは、頭部を抱えてうめく女性。

 しかし見ただけでも分かる……重傷、瀕死だと。


「どうやら私の可愛い弟にやられたみたいね、生きているのが不思議な――っ!!」


 睨まれた。

 アレックスとか言う男に。


「カルカ。聖女様を連れて撤退する……意識のあるメンバーを集めてくれ。それから、これまでの指示は全て解除だ……いいね?」


「は、はい……ですが、撤退とはどこへ」


 戦うつもりはないようだと、クラウも少し胸をなでおろす。


「出ていくなら止めはしないけれど、この惨状の責任はどうしてくれるのかしらね?」


「――戦うしかあるまいな。む、追って来たか。いくぞカルカ、ついて来るんだ」


 アレックスという騎士は、こちらに向かってくる二つの反応に気付き、コートから何かを取り出し……地面に投げた。


「ちょっ!……賠償請求っ!!逃げるなーっ!!」


 煙幕。それも広範囲。

 ゲホゲホとむせる。

 そして煙が晴れると……【王国騎士団・セル】の面々は一人残らず消えていた。


「なんなのよ、あれ。って……フドウくんたちが来た」


「――な、なぁお嬢さん……」


 クラウに声を掛ける移住民の男。

 クラウはもう気付いている……この男は、戦いが始まる前に揉めた、あの男だった。

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