8-100【罪を断つ者17】
◇罪を断つ者17◇
【
これでまた大怪我でもしてたら、ミーティアたちに合わせる顔も無かったよ。
「アレックス・ライグザールの奴、マジで聖女に……」
アレックス・ライグザールは聖女を抱え、この場から去っていった。
少し前から近くに居たんだろうな。
それにしても、魔力の質が……前会った時とは別物だった。
これが聖女の【
「あーあ……俺が倒したかったなー」
「なら、やられないで倒すんだったな。速いもん勝ちだって」
「ちぇー」と唇を尖らせるユキナリ。
お前一度勝ってるんだろこの人に。こんな姿になる前の、本気の戦いでさ。
「見てくださいっ!この方の身体が、崩れていきます……」
ライネが言う。
【
しかしそれも、毎秒ごとに書き換わるプログラムを、ウィズが必死にやってくれているから可能であり、本気の殺し合いで、しかも聖女の奴がこの人に【
「存在崩壊だよ。でもきっと、これでいいんだ」
「あの聖女さんはいいのかよー、逃げちゃったぜ?」
「まぁ……いいんじゃないか?」
「え、それだけか?」
「それだけですか?」
いいんだこれで。
聖女には、きっと死よりも重いだろうさ。
「ああ。あの姿で生きていくには、この世界は冷たいだろ……頭部を半分失って、本来なら即死ものだ。それを【
命の大切さを、誰よりも知っただろう。
それでも尚、俺の前に立つと言うのなら……今度は容赦しない。
「聖女の顔に刺さったあの黒い破片……あれは?」
「ん?ああ、あれは俺の能力。【
ライネの疑問に答える。
「さ、触りませんよ……一目で危険だって分かりましたし」
「うん、それでいい。触ったら、聖女のようになるからな」
「……っ!」
ごくりと、ライネの喉が鳴った。
想像したね、君。
俺は少し歩み、騎士のもとへ。
「……よう、騎士のオッサン。気分はどうだ……って喋れねぇか。なら、一つ言っておくよ」
俺は崩れる途中の騎士のオッサンに声を掛ける。
もう下半身まで崩壊して、高さは俺たちと同じまで小さくなっていた。
騎士のオッサンは俺を見る。
まるで戦ってたことが噓のような、そんなクリアな眼だった。
「あんたは聖女の【
オッサンは首だけを動かして、
「あんたが死んで、どこに行くかは分かんねえけど……今世は楽しかったか?」
俺は今が楽しいんだ。
この世界に生まれ変わって、転生して。
戦いも、辛い事もあるけど、それでも前世よりは楽しいし、守りたいって思った。
ボロボロのユキナリも、何かを言いたそうに歩いてきた。
おい、変な事言うなよ……これは最後の時間なんだからな。
「……よっ。俺もあんたと戦った事を忘れないよ。【リューズ騎士団】の騎士。【帝国精鋭部隊・カルマ】のメンバーとして、最高の剣士と戦えたこと、誇りに思うぜ。あとなんだ……え~っと、そうだ。その姿のあんたには勝てなかったけど、そう!俺の魔力が万全なら、きっと負けねぇから!!」
良い事言ったと思ったら、急に負け惜しみを。
「あ……崩れて……」
「オッサン、あんたは立派だった。聖女の命令に反旗を
(感謝する……)
そうして改造され、異形の姿となった騎士は姿を消した。
消える瞬間、ポトリと何かが落ちた。
俺はそれを拾い。
「これは、騎士団の
【リューズ騎士団】の騎士ゲイル・クルーソー。
本当の顔も知らないその男の人生……願わくば、次の人生は幸あらん事を。
◇
俺は死ぬんだな。
やっと、地獄から解放される。
罪を背負い生きてきた、その罰から解放されるんだ。
仲間を案じた事は、きっと本能だったのだろう。
大切だった、その居場所が。
奪って得た場所だとしても、それが生き甲斐だった。
一度は敗れ、死を覚悟し……殺してくれと願った。
しかし身体を怪物とされ、最後に選んだ相手は……偶然にもターゲットの少年だった。
ああ……強かった。
剣があれば、もう少しまともに戦えただろうか……出来れば万全の状態で戦いたかったが、だが……最後に万全の俺と戦ってくれたあの黒髪の男にも、俺は本気で勝ちたかったんだろうな。
感謝する。
俺の罪を、この世界で重ねた罪を断ってくれて……
ありがとう。
黄金の――断罪者よ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます