8-83【ひとつの恋のおわり4】



◇ひとつの恋のおわり4◇


 話を終え、俺はアイズの部屋を出る。

 クラウ姉さんの援護に向かうんだ。


「――ミオ!」


「……アイシア、どうした?」


 部屋を出た俺を追って来て、心配そうに眉を寄せる。

 首から掛けた……何かをにぎって。


(【オリジン・オーブ】か……アイズの奴、アイシアのオーブを持ってやがったのか)


 見たところ、瞳は紫色じゃない。

 能力の発動や暴走状態ではなさそうで一安心だけど。


「あのね……その、こんな時に言うのも、あれなんだけど……あたし」


「!」


 そうか。

 こんな時じゃなければ、俺はアイシアに言わなければならない。

 ミーティアとの事を。彼女選んだことを……アイシアに。


「その……あたし、もう――知ってる・・・・から」


 何かあきらめたような。

 切ないものを抱えたような。

 そんな優し気な笑顔で、俺を見る。


「……」


 そうか。

 アイシアの力で……俺とミーティアの事を、知ったのか。


「……だからその……もういいから。あたしの事は気にしないで、存分に戦って?」


「ごめん。俺は……言葉にもしないで、アイシアをずっと傷付けて。昔から同じだ、アイシアに甘えっぱなしで。だけど……俺は俺の選択を変えられない」


「うん。分かってるよ……それがミオだもん、あたしの大好きな、ミオ・スクルーズだもんっ……だから、いってらっしゃい!!」


「ありがとう、アイシア」


 背を向ける。

 アイシアは笑顔だ……悲しい程の。

 これ以上何も言わない、言えない、言ってはいけない。

 覚悟を決めた彼女にとって、一つの決別……恋との決別。


 だから俺はせめて……アイシアを、守るよ。





 行ってしまった。

 あたしに背を向けて、戦場へ。


 分かっていた、全部、全部。

 あたしが今ここで、馬鹿みたいに彼を引き留める。

 涙を流して、女々しくすがりついて……そうして彼はアタシの物になる。


 それが――一つの未来。

 アイシア・ロクッサの、恋の終着点。


 だけど……認めたくなかった。そんな未来は。

 あたしは、負けたんじゃない。

 放棄したんだ、彼女の手から彼を奪う未来を、自分の手で。


「行っちゃった……頑張ってね、ミオ」


 自然と、涙が出た。

 決着がついて……恋が、終わってしまって。


 えてしまう。

 彼と彼女と、その子供たちの仲睦まじい姿が。

 ここで終わらせることで、彼の悩みが一つ減る……だからあたしは、空気も読まずに彼に言ったんだ。


「ぅ……ぅっ……うぅ」


 込み上げてくる。

 自分で捨てた、恋と言うものの大切さに気付いて。


 崩れ落ちる。

 壁に寄りかかり、もういなくなった彼の幻を見て。


「……こんなに、ずっと、ずっと、好きだったのに……」


 幼馴染、許嫁いいなずけ

 そんな決められたものじゃない……自分の意志で、自分の想いで好きになった。

 選ばれなかった。自分で捨てた。


 そうして、アイシア・ロクッサの恋の物語は終わりを告げる。

 捨て去ったものと、残るもの……それは人としての恋と、女神としての新たな道。

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