8-82【ひとつの恋のおわり3】



◇ひとつの恋のおわり3◇


 アイズは続ける。

 今も北で戦う、クラウ姉さんと誰かさんを援護する為の作戦だ。


「能力の波長から見て、相手は【奇跡きせき】の能力……イエシアスの権能を持つ転生者で間違いないわ。憎たらしいわよね、あのケバ女が【奇跡きせき】だなんて」


 お前は【美貌びぼう】とか持ってるじゃないか。


「ああ。王国で噂の、聖女様って奴だなきっと。どんな女かは知らないけどさ」


「……へぇ」


 アイシア、へぇ……って。

 そんな俺を横目で見ないでくれ。俺が何でも知っているとは限らないんだぞ?


「聖女なんて、馬鹿らしい……イエシアスが選ぶような転生者に、そんな大層な出自になれる訳ないでしょ。せいぜい悪女よ、悪女!」


 俺もそう思うよ。


「その聖女様~?が、村に何か用って事で来ている訳だけど、あんたに心当たりは?イエシアスの差し金かもしれないけどさ」


「いや、もう何年もイエシアスには会ってないよ」


「なぁにやってんのかしらね、あの腹黒女神は」


 知らんて。あとソレはあっちも思ってると思うぞ、アイズ。


「で、どうするんだ?聖女の兵士は死なない。クラウ姉さんがそう言ってたけど」


「簡単よ。消滅させればいい」


 簡単に言いすぎなんだよ。

 こちとら極力殺さないって言ったばかりなのに、消滅って……だけどまぁ、それは人間相手での事だ。

 もう人では無い、戻ることも出来ないと言うのなら、話は別だ。

 それを、クラウ姉さんだって思っているはず。


「分かった。問題は数だ……あと質」


 【感知かんち】で反応を示したのは、魔力を持たないのを除けば五百程度。

 それ以外は魔力を持たない、徴兵ちょうへいで集められた一般人だろうな。

 多少の魔力、そして技量がある人物は、上位の兵士となっているんだと思う。


 問題は、その更に上位だ。


「質ね。【奇跡きせき】って能力は、麻薬に近いものよ。感覚を狂わせ、自我を失い、あるものに心酔する……それが聖女なんだろうけど。死なない身体になるまで能力を使われた人間は、【奇跡きせき】でも元には戻らないわ」


 だから殺すしかない。

 そう言う事なんだろうが。


「ミオ、クラウさんは大丈夫なの?」


「ん、ああ……元気に飛び回ってるよ。それに、アイシアだろ?クラウ姉さんを戦力として選んでくれたのはさ」


「いやそう言う意味じゃなくて……いや、うん。あたしにはそれしか出来なくて。クラウさんには悪いことをしたなって……」


 そうじゃないよ。

 それしかなかったのなら、それが正解なんだ。


「その判断のおかげで、村は襲われてないんだよ。炎は着けられてしまったけど、誰も死んでない、戦ってるクラウ姉さんたちも、村の誰も。だからアイシアが謝る事じゃないんだ。むしろ、その選択をとったから……こうして助かってるんだよ」


 ほこっていい。

 この結果はアイシアと、そしてアイズのおかげだ。


「なら、あんたはさっさと王国兵を追い返して……あ~。やっておしまいなさい!」


「たくっ……ご隠居さまかよ。まぁやるけどさ、クラウ姉さんにばっかり美味しい所は任せらんないしなっ」


 だからお前はここで大人しくしておけ。

 俺とクラウ姉さんが、この村を守るから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る