8-78【反撃の狼煙3】



◇反撃の狼煙のろし3◇


 東の森。


「クーねぇちゃぁぁぁぁぁぁぁん!」


 子供の声とは思えない超反響する声が木霊こだまする。

 その対象は、森の木々の炎を消し終えた……クラウだった。


「……リア……ちゃん?と、レイン姉さぁぁぁん!?」


 リアが近くにいる事は、先程ミオと話している時に気付いていた。

 【感知かんち】で反応を示していたからだが、魔力を持たない姉の事は、ミオがウィズと話している内容でしか知らなかった。


 振り返ったクラウは、小さな女の子が、自分の倍以上の大きさの女性を抱えて猛スピードで走って来た事におどろいた。


「は……はぁ?」

(なにこの反応。これがリアちゃん……?まるで別人じゃない)


「ク、クラウぅ~~~……よかったぁ~」


「ね、姉さん……平気、ではなさそうね」


 リアに降ろされ、へとへとになるレイン。

 足がガクガクに震えていた。


(あのスピードで、ここまで一直線に走って来たのだものね……常人ならそうなるわよ。加減の知らない子供らしいわ……ふふっ)


「リ・アイリス、がんばった!」


「え、なんて?」


 自信満々に、褒めて欲しそうに顔を上げるリア。

 クラウは頭を撫でながらリピートを求む。


「リア、名前!リ・アイリス!!」


「あ、あ~本名ってこと!?思い出したの?」


「うんっ!ミオにいちゃんのおかげ!これ!これ!見て!!」


 首の少し下、鎖骨さこつの真下辺りに輝く、菱形ひしがたの宝石。

 アイシアが持っていたオーブに、雰囲気ふんいきがよく似ていた。


「それ……【オリジン・オーブ】?」


「うん!」


 きっとミオが加工して、この形になったのだと推測すいそく

 それでリアの記憶が戻り、魔力が数倍にふくれ上がったのだと。


(それにしては、安定が凄い……これが【竜人ドラグニア】なんだ)


「ク、クラウ……アドルは??」


「――え、あ!!そう!こっちよっ」


 きょろきょろとしていたレインは、クラウとリアの会話に水を差さないように自力で探していたのだろうが、見つからず。

 その様子にクラウも申し訳なさそうに案内する。


「――ア、アドル!!」


 少し離れた場所。

 そこに横たわる、青年の姿を見てレインは駆け寄る。


「傷は深かったけど、どこも致命傷じゃなかったわ。手加減したのか、それとも痛めつけて楽しんでいたのか……でもそのおかげで、私の魔法で回復できたから」


「アドル!アドル……よかった、よかったぁ!」


 胸にすがり涙を流すレインの姿は、どう見ても恋仲だ。

 ミオに見せられない……などとクラウは思うが、ミオは血と共に涙を飲んだのだ。


「でも姉さん、アドルさんの右目だけは……」


 右目は、一番初めに傷を負った箇所。

 おそらく傷ではなく、感覚や視力の問題なのだろう。

 だからクラウでは治せなかった。


「ううん、いいの……クラウ、ありがとう。ありがとう……!」


「……うん」

(ミオの奴……いきなりやって来て、いきなりまたどっか行って。レイン姉さんを助けに行くだとか、私はまだ戦ってんのに……!)


 ミオとクラウが頭と頭で再会した直後。

 ミオはアイズからの言葉を聞いて、【紫電しでん】を使った。

 しかし、びしょ濡れだった身体には電撃が流れて……感電した。


(ダメージを負う事で耐性を付けて、それで能力を得るだなんて……無茶苦茶するわよ)


 【電極でんきょく】は、そうして会得したのだ。

 そしてその後、ミオは「んじゃクラウ姉さん、レイン姉さんを助けて来るから」そう言い。


(簡単に能力を私にくれるんだもの……もうため息しか出ないわよ)


 「だからクラウ姉さん、火消しといて」。

 そう言って、【譲渡じょうと】にて【護風ごふう】を授けたのだ。

 因みに【護風ごふう】は、水蒸気爆発で吹き飛んだ爆風を受けて会得していた。


「……はぁ~~~~~」


 本当に深いため息を吐いて、クラウは自分の弟が、本当に“チート能力全持ち”の転生者だと、再認識したのだった。

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