8-76【反撃の狼煙1】



◇反撃の狼煙のろし1◇


 【転移てんい】。

 リディオルフ・シュカオーンが使用していた、転生の特典ギフトだ。

 それを何故か、ウィズの中から声だけで話しかけてくる図々しい女神が使用しろという。だがしかし、先程ミオも言った……「お前さっきなんか言ったか?」と。


 アイズは気のせいでしょと、そう言ったばかりなのに。


「……どーいう事だよ、ウィズ」


 俺は半眼で西……アイズが居るであろうその場所を見る。


『では説明をさせて頂きます』


「手短にな。時間ないぞ」


 今度は北を見る。

 絶賛戦闘中であろうその場所から、光や風が乱舞していた。


「クラウ姉さんも【超越ちょうえつ】したとか……しかも俺と違って、自然に」


 少し悔しかった。

 異世界に転生した以上、自分自身の力でのし上がる……そんな場面だって憧れた時はある。ミオの場合は、能力で強制的に昇格させた、言わば不正だ。


「はぁ……ま、それも俺だよな。よし悪い、脱線した……話してくれ」


『はい。まず……ご主人様の能力、【強奪スナッチ】ですが、正式名称はmaterialマテリアルitemアイテムsnatchスナッチです』


「うん」


itemアイテムの文字列が、天上人に【超越ちょうえつ】した時点で、abilityアビリティへと変わっていました』


 結構前じゃねぇかと、ミオは嘆息たんそくする。


「はぁ……アビリティ。能力か」


 魔物を倒すことで、その魔物が落とす素材が確定でドロップする。

 しかも高品質になって……それが【強奪ごうだつ】だった。

 しかし、今回は人間相手であり、奪ったのは能力、しかも転生者の能力だ。


『その通りです。その結果、魔物以外からも奪うという事が出来るようになりましたが……ご主人様は積極的に使うとは思えなかったので』


「アイズが言い出した事に、お前は素直にしたがったって事だな?」


『……はい』


 「んっ」と、ミオはため息を飲み込む。

 ウィズが自分のために最優先になってくれるのは知っている。

 責めるつもりもないし、とがめるつもりもない。


「分かった、で。【転移てんい】ってのは、あの男のように使えんのか?」


『残念ですが、やはりウィズに記憶されていた【転移てんい】には、魔力や存在感をバラバラに【転移てんい】させる効能はありませんでした』


「へぇ……つまりあいつ、リディオルフの努力や才能の結果……オリジナルの効果を編み出してたって事か、すげぇじゃん。勝てなかったけどな」


 既にここにはいない人物をあおるミオ。

 やはり少し怒っているようだ。


『で、ではお叱りはまた今度受けますので……』


「別に怒ってねぇって。じゃあ行くぞ……【転移てんい】!」


 どうせ行く先や距離感などは、ウィズが全てやると判断して、ミオは【転移てんい】を発動する。

 身体が空間からブレていく感覚と、意識がほんの一瞬だけ喪失そうしつしそうな時間。

 そんなほんの一瞬だけで……ミオは、アイズの家の目の前に立っていた。

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