8-30【溝が深まる切っ掛け2】



◇溝が深まる切っ掛け2◇


 地面や空に走る稲光は、それだけで真っ黒に焦がす程の高威力だ。

 雲を割く程の射程距離、地面を穿うがつ威力。

 大凡おおよその人間では一瞬で黒焦げになる事が予測される、そんな次元の違う技。


「あのボケナス……っ!」

(まさかユキナリの奴、また新しい魔物の能力をっ)


「――【フレア・リング】!!」


「なっ……くっ!」


 横っ飛びで回避する。

 飛んできた炎輪は一つ……反射的に避けたが、ライネは気付く。


「どういうつもりっ!こんな……手加減してっ!!」


 当てるつもりのない、牽制けんせいに近い物。

 牽制けんせいのターンは既に終わっている。これは侮辱だ。


「うるせえ。よそ見すんなよ、前髪女」


「――あんた、あの雷見たでしょっ!?あれは私の仲間ので……あんたの仲間の物じゃないのよ!?」


 その言葉が意味するものは。

 お前の仲間が死ぬぞ――だ。


「知るかよんなもん。これが俺たち……【リューズ騎士団】だっ」


「そんな犠牲っ!」


 ライネはユキナリの方に戻ろうとしたが、コーサルは違う。


「前髪女、いいか……【リューズ騎士団】はな、別に仲間意識のある集団じゃねぇ。今のメンバーの半数以上が、元ある椅子を奪った……泥棒だ」


 コーサルは剣を仕舞い、黒銀の髪をガリガリと、苛立ちを抑えるように掻き毟った。指の隙間からこぼれる赤いメッシュが、その怒りがこぼれたように。


「だから長い付き合いでもねぇ。雇われ、買われ、攫われて……そうやって今の【リューズ騎士団】は成り立ってるんだ。リーダーはいない、候補だった人間も死の間際……だからゲイルの奴は知ってる」


「……なにを」


「単純な事だ。今回の任務を失敗すれば、【リューズ騎士団】の大半が路頭に迷うって事よ……俺等を含めてな。いい様に使える駒に過ぎない」


 【リードンセルク王国】の新大臣、ダンドルフ・クロスヴァーデン大臣の財務力によってその地位が築かれた、【リューズ騎士団】と言う立場の騎士たち。

 その大半が、その立場を奪った簒奪者さんだつしゃ

 大臣との関係は金銭……信頼はない。


 団員同士も、付き合いの長い知り合いではない。

 そんな中でも、仲は深まる。


 ザルヴィネ・レイモーン、レイモンド・コーサル、ゲイル・クルーソー、ヨルド・ギルシャ。他にも買われた転生者が複数人、それに加えて、転生者ではないが、ゼノ・クインター、マルクース・フィノメー(三ヶ月前ミオに動きを拘束された騎士)と言った騎士がいる。


「そんな駒のような奴らだ、あの大臣様が律儀に雇用し続ける訳はないだろ?」


「それは……」


「だから失敗できねぇ。例え複数の団員が死のうが……他の団員の為にやるだろうよ。残された人間やつの為にっ!」


 だから仇を討つ。

 自分を守ってくれたザルヴィネ・レイモーンの。

 仲間の任務遂行を望んだ、ゲイル・クルーソーの。


「だから行かせねぇよ。帝国の人間……」


「――!!」


 ライネの使う剣技。型は自己流で、アレンジされたものだった。

 しかしそれは、長年つちかった帝国流剣術を偽装するための所作。

 しかしそれにも、多少の名残がある。


「あっちにいるゲイルがな、帝国出身なんだよ……お前が使うその剣技に似た技を、何度か見てんだ」


「……」

(気付かれていた?私の剣技に……そんな仕草)


「さぁ続けようぜ前髪女。俺もゲイルも、ここで死ぬつもりなんてないんだからなぁ――っ!?」


「!!……アシュっ!?」


「――わりぃけど、そんな時間はこないよ」


 二人の前に現れたのは、血濡れの少年。

 六本の腕に六本の剣、黒い翼と稲妻の角を生やした、ユキナリだった。

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