8-14【既に賽は投げられて2】



◇既にさいは投げられて2◇


 たった今入ったケイト教官からの連絡。

 【ステラダ】に駐留ちゅうりゅうしている王国正規軍、その全軍が、南西に進軍を始めた。それつまり、【サディオーラス帝国】に侵攻を開始したという事だ。


「大群で【サディオーラス帝国】内に入るには、どうしても綺麗な道が必要だ……森を通る事も出来るが、安定はしないし事故もあり得る。つまり――」


「……はい。休める休憩所があり、綺麗に整地された道。しかも馬車が数台通れる程の道幅がある……もっとも安全に【サディオーラス帝国】に入る事が出来る、俺の村、【豊穣の村アイズレーン】が……次の目的地だっ」


 ジルさんの言葉に、俺は断言する。

 口にしてしまった瞬間、頬からは汗が流れた。


「た、大変じゃないですかっ!ミオくんっ」


「ああ、今すぐ向かうべきだっ」


 ルーファウスとエリリュアさんが後ろから言う。

 分かっているさ、充分理解している……だけど、簡単に実行は出来ない。


「無茶を言うな二人共、ミオは回復したばかり……まだ魔力もカツカツなんだ。急いでいくにも、足が必要だし。なによりここからでは数日以上かかるぞ」


 森の拠点であれば、一日歩けば到着していた。

 しかし、その拠点から東に進んだこの場所……エルフの里。


「……ここからだと、単純計算でも四日はかかる。それに加えて、【ステラダ】から村までは半日で到着できるようにしてしまったから……っ」


 俺が、村との行き来を楽できるようにと街道整備をした結果が、これだって言うのかよ。


 くそっ……――何のためにっ!!

 俺が何のために住みやすい環境を整えようと考えたか……戦争に利用させる為じゃないんだぞ!!


「ミオ……」


「――!?……ティ、ティア……??」


 俺の手に触れる、少し冷たい手。

 しかし、熱が、心の熱が伝わる。


「……よかった、怖い顔をしてたから」


 冷静になれと、そう言ってるんだよな。

 ありがとう……おかげで頭が冷めた。


「ミオのせいではない。全ては王国だ……お嬢様がいる手前、言いたくはないが」


 冷静なままだったジルさんが言う。

 ミーティアは王国出身だからな、ここでは唯一の。


「いいのよ」


「今回の侵攻が、帝国を落とす目的ならば……そうだな、【豊穣の村アイズレーン】を経由をしないのではないか?」


「つまりどういうことです?ジルリーネちゃん」


「帝都【カリオンデルサ】が目的ならば、同じく西の国である【ローデタラー】から南下した方が確実だ」


 【ローデタラー】って、【サディオーラス帝国】の北側、【リードンセルク王国】の真西の国か。

 確か、国土は広いが人が少なく、田畑が半数を占める農業国家だったな。

 村にも数年前から物品が流れて来てた覚えがあるよ。


「確かにそうですね、従姉上あねうえ。慎重に進軍をし、【ローデタラー】経由で南下すれば、帝都【カリオンデルサ】は真下です。わざわざ帝国最東端の村から入国する必要はありません」


 エリリュアさんが言う通り、村を通過しなくても、帝都狙いならばその方が確実だ。

 ならやはり、狙いはミーティアという事に。

 いや、だが……そこまでの大群を使ってまで探すか?

 正規軍だぞ?【リューズ騎士団】だけならともかく、聖女と噂される人物までが、ミーティア一人を捕らえるためだけに動かせるものか?


「他に目的があるのか?」


「……」


 手の熱が、体温が変動した気がした。


「ティア……」


「平気よ……もう、迷わないわ」


 ギュッと握られる。

 その手からは勇気と、恐怖も含まれているだろう。

 ミーティア一人を狙っているのなら、居ないと分かれば撤退するか……そうしない可能性が高いから、きっと俺は冷静じゃなかったんだ。落ち着けよ、ミオ・スクルーズ。

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