7-100【精霊エルミナの幻晶3】



◇精霊エルミナの幻晶げんしょう3◇


 扉の向こうは、おどろくべきことに……森林だった。


「わぁぁぁ……」


 感嘆と言うべき、緑の世界。

 四角い箱庭に、一面の緑。澄んだ空気。鳥のさえずりでも聞こえてきそうなほどの透明感だった。


 そして、そんな緑の箱庭の中央部には。

 樹木が守護する安置台が一台、ポツンと光を浴びていた。


「これ、【明光石】なのかな」


『素晴らしい。これなら……』


 ウィズが何かを感じ取ったのか、そうつぶやく。

 私にも、肌に感じるヒリヒリ感がそれを思い起こさせた。

 これは……神秘的な存在だと。


「数百年経っても、変わらずに安置されている……幻晶げんしょうは無事。これで確認は完了……依頼も達成です」


 そう言いながら、ジルは中央へ向かう。

 安置台には結界のような、魔力の壁が張ってあったけれど、ジルはその壁を簡単にすり抜けた。


「ジル?」


 ジルは何も言わず……ただ真剣に、安置されている魔力の結晶――【精霊エルミナ】の幻晶げんしょうに触れ、一言だけ述べる。


「お力をお借りします」


 と、そう言って。

 幻晶げんしょうを手に取り、安置台から降りる。


「いいの?それ……確認が依頼じゃ」


「いいんです。初めからこのつもりでしたし、女王陛下……母も気付いているでしょうから。これは、お嬢様とミオに使うのですよ」


 ニコリと笑みを見せるジルのそんな言葉に、私はおどろいた。

 初めから、このつもりだった……ここに来たのも、この幻晶げんしょうが目的だと、私とミオの為だと。


「平気なの?」


 安置されているのには理由があるはずだもの。

 実際に、誰かが侵入しようとした形跡もあった……狙いはこの幻晶げんしょうなのでしょうね。


「狙われている事が分かったのです、ならばここに置いておくよりも……エルフが管理した方がよろしいでしょう……それに、いつ裏切者が現れるか分かったものじゃあありませんからね」


 エルフに反応するなら、それも可能性の一つなのだろう。


『――魔力反応あり、これは……守護者……でしょうか』


「なにウィズ、どういう……守護者?」


「そう来たか。ふふふ……やはりエルフの加護は本物か……ならば!お嬢様、戦いです。どんな魔物が相手でも……必ずやこの幻晶げんしょうを持ち帰りましょうっ!」


 な、なんで急にやる気になっているのぉ!?


 ジルは腰の細剣を抜き、部屋のあちらこちらに【明光石】を設置し始めた。

 途轍とてつもない笑顔で。


「本当にこれでいいのかしら」


 私も、守護者と言う何かと戦わなければいけないのね。

 と、そんな覚悟をしようとした瞬間。


「「!?」」


 ゴゴゴゴ……と、地層が揺れる。

 おどろく私たちだが、それよりも目を引かれたのが。


「安置台がっ!」


「沈んでゆく……これが、守護者か!」


『――盗難防止の警報装置でしょう。反応は一つ……ミーティア、魔力の反応は大きいですよ。この魔力量は……転生者クラスです』


「て、転生者……!?」


 ミオやクラウと同じ!?

 それが、安置台の下から……出てくるの?


『過去に能力によって作成された、守護者ガーディアンでしょう……エルフに転生した人物は、よほど臆病だったのかもしれませんね』


 暢気のんきにそんな事を言うウィズだが、私はもうそれどころではなかった。

 転生者と同じ……それはつまり、ミオやクラウと戦うのと同じ。

 私に、それが出来るの??

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