7-85【何のために来たんだっけ?2】



◇何のために来たんだっけ?2◇


 俺は武家屋敷風の古民家から飛び出して、人気ひとけがない事を確認すると、大きな声で。


「おいアイズっ!!色々とツッコミたい所だがな!それは今かっ!?」


『――一昨日おとといのようです』


 答えたのは、いつもの控えめな抑揚のウィズだった。


一昨日おととい!?」


 つまり、俺たちが森の中を移動している最中さなか

 タイミング的には、ジルさんに頼まれて伝言を届けに行ったサイグスさんが村に着くころだ。

 まさかあの人が……?


『……【女神アイズレーン】はサイグス・ユランドの事は述べていません。アイシア・ロクッサ知られた理由……それはどうやら、クラウお姉さまと【女神アイズレーン】との会話を聞かれたようです』


「姉さんとのアイズの会話っ!?い、いや……それはいいが、なんで今それを伝えるんだよ!現状はどうなってんだっ!」


 一昨日おとといの事を今言われても、俺に何が出来るってんだ。

 その時に寄こして……いや、ダメか。


畜生ちくしょうっ!その時教えられても何も出来ないからかっ。だからって、教えてくれるだけでもいいだろ!」


「――ミオっ」


「……ティ、ティア」


 俺を追いかけて来てくれたミーティア。

 ウィズに聞いたのか?


「大丈夫……?」


「ああ。俺は、な」


 村の状況が気になる。

 アイシアが色々な事を知ってしまった……本来俺が言わなければいけない事も、元々知らなくてもよかった事も、全部。


 微細報告してくれよ……アイズ。

 報連相は大事だろ……アイズ。

 お前は大丈夫なのか……アイズ。


「ミオ、戻ってみる?」


「……!」


 ミーティアはそう言う。

 しかし……今から戻る事は。


「いや、駄目だよ。今からまた三日以上かけて村には行けない……それに、三日でここまで来れたのが順調だっただけで、次は分からない」


「それはそうかも知れないけれど……アイシアに、アイズさんも」


 ごもっともだよ……理解できるし、事実そうしたい。

 これは俺がうだうだと、数年答えを先延ばしにした結果だ。

 ミーティアが成人までに答えを出し……それを告げる。

 数年時間があると、天秤てんびんに乗った二人の少女の事なんて、考えてなかったんだ、きっと。


「村には戻れない」


「ミオ……」


 理由は単純。魔力がないからだ。

 しかしその理由は……ミーティアを助けたからで、それを口にすれば、今度はミーティアをも傷付ける。


 くそ……ここまで何も出来ないなんて。

 俺は、赤ん坊の時以来の気分になっていた。

 何も出来ない無力さと、先延ばしにした結果の事態。


「平気さ、ティアが悲しむ事じゃない」


 何も出来ない俺は、せめてミーティアだけは悲しませてはいけない。

 今ここにいる、目の前にいる……手の届く範囲だけでも、守らないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る