7-84【何のために来たんだっけ?1】



◇何のために来たんだっけ?1◇


 今俺がいるこの場所、在国的には【テスラアルモニア公国】。

 だが、その昔は【パルマファルキオナ森林国】と呼ばれたエルフの国だった。

 そこでは重婚が可能だったらしい……そう言えば、ジルさんとジェイルは異母兄妹なんだもんな、王様に第一王妃、第二王妃といてもなんら不思議ふしぎじゃない。


 問題は……それを俺に求めている可能性、か。

 そんな状況、正直言って望んでいない。

 自慢じゃないが、俺はそれほどたらしになる素質は無いと思っている。

 実直とまでは言わないが、それでも……一人の女性を愛し抜くつもりで過ごしてきた。

 そうして決めたんだ、ミーティア・クロスヴァーデンと言う少女に。


 村に残した許嫁、アイシア。

 彼女に何も告げないまま、ミーティアと恋人関係になった事は……心から申し訳ないと思っている。

 蚊帳の外で、許婚と言うアドバンテージを発揮させる事なく終わってしまった結末を、俺は告げなければならない。


 自分が二人の女性から好意を抱かれているだなんて、前世では有り得ない事だ。

 そんな前世に胡坐あぐらを掻くつもりは毛頭ない……二度目の人生、ファンタジーの世界に生まれ変わり、運良く金髪イケメン少年へとジョブチェンジした武邑たけむらみおが、最低な選択だけはしてはならないんだ。


 いや待て?

 俺たちそもそも、この里に何しに来たんだっけ?


「……」


「……!」


「??」


「……っ!」


 なにやら話し声が聞こえる。

 俺は、ルーファウスからの「重婚可」と言うあまりの衝撃に、脳内会議を始めていたのだが……どうやら俺を置いて、ジルさんたちは女王様と話をしているようだ。


 いやいや、俺を置いておいていいの?


『――ルーファウス・オル・コルセスカが、「自分がミオくんに余計な事を言ってしまった」……説明しています』


 ああ……俺がボケっとしてしまった事、ルーファウスが懇切丁寧に説明してくれたのか。なら……考えられるな。


 なぁウィズ……村の様子とか分からないのか?


『現在のでしょうか』


 ああ。それが好ましい。


『大変言いにくいのですが』


 は?


『たった今【女神アイズレーン】から、こんな情報が――』


 そう言うと、ウィズは口調をアイズのものに変え……こう言った。


『――「ミオ。この間のウィズダムからの伝言、完全に伝えるの忘れてたわ。クラウとハーフエルフの子は、村に出来た宿で従業員を研修中」』


 いや、それはこの前も――


『「その過程で……アイシアに知られた。女神の事も、EYE’Sアイズの事も……多分あんたとミーティアの事も……ごめん」』


 は。


「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――!?」


 予想のななめすぎる回答に、俺は思い切り立ち上がって叫んでいた。

 当然そうなれば、不審者を見る視線の如く……俺に突き刺さる訳で。


「ど、どうしたんだっ……ミオ」

「ミオくん?まさかそこまで……」

「あらあら、ミオ・スクルーズ殿は面白い殿方でもあるのですねぇ、ねぇエリリュアちゃん?」

「え、ええ……ですが突飛とっぴ過ぎました……心臓が痛いです」


「し、失礼します!!ちょっと外にっ!!」


「あ――待ってミオ!」


 俺は説明する事も無く、顔を青くして外に飛び出すのだった。

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