7-73【テスラアルモニアの神1】



◇テスラアルモニアの神1◇


 温かいスープで冷えた身体を温め、魔力も少しだけど回復した気がする。


『――気のせいです。【豊穣ほうじょう】で育った野菜ならまだしも、そこら辺で採取した野菜には魔力回復効果は――』


 分かってるっての。

 気休めだろ?そういう風に言うのはさ。


「はぁ~……美味しかった……」


 恍惚こうこつの笑顔で感想を言うミーティア。

 なんだろう……最近ミーティアが凄く色っぽく見える。


「お嬢様、お腹をさするのははしたないですよ。殿方の前で……」


 いいじゃん、かわいいよ。


「ご、ごめんなさい……」


「ははは……それじゃあ、話の続きって言うか……今度は俺も聞かせてほしいな、ルーファウス」


「え?……なにをでしょうか」


 聞きたい事は沢山あるけど。

 それこそ、アイズレーンやイエシアスのような女神の話だ。


「この国、【テスラアルモニア公国】で信仰しんこうされている神様って、どんな神様なんだ?」


 ルーファウスは一呼吸置き、俺を見ながら教えてくれる。

 ジルさんを一瞬見てから。


「……公国であがめる神の名は、【女神ウィンスタリア】様です」


 ウィンスタリアか……う~ん、聞いた事はないな。

 そんな俺の考えが顔に出たのか、俺を見ていたミーティアが補足をしてくれた。


「ウィンスタリア様は、【救世の女神】とされる、勇猛果敢ゆうもうかかんな戦女神さまね……かつてたった一人で戦争を止めた実績から、【救世の女神】と呼ばれるようになったと学んだわ」


「へぇ」


 【救世の女神】か、カッコイイなぁ……【豊穣の女神】と呼ばれる神を知ってるけど、汚部屋で寝て過ごしているような奴だぞ。

 勇猛果敢ゆうもうかかん、さぞ傑物染みた御方なんだろうな、ムキムキ女子をイメージしちまったよ。カッコイイ。


「アイズさん……アイズレーン様とは大きくイメージが違うわよね……あはは」


「アイズレーン様とは、【豊穣の女神】様ですね。公国でも学びますよ……聡明で美しい、思慮しりょに溢れた女神様だと聞いています」


 あーあ。だってさアイズ、言われてるぞ?

 いやでも、それはもしかしたら先代のアイズレーンなのかもしれないんだよな。


「それにしても、【救世の女神】様か……一度会って見たいな」


「は、はい!?あのか――……女神様に、会う?」


 その様子だと、やっぱり俺の話は半信半疑で聞いてたな?

 突拍子もない話だし、そうなるのも仕方はないが、本当に女神はいるんだぞ?

 しかし……今、あの方って言いかけたか?


「ええ。私たちがたまに口にする、アイズさん……というのが、【女神アイズレーン】さまのことね。現在は受肉して、ミオの村に住んでいるのよ?」


「――え!!じゃあ、ほ、本当に……」

(そうだったのか……それで)


 もうさ、最初からミーティアが説明してくれれば良かったのでは。

 信頼を勝ち取るとか言って、ミーティアの方が信頼されてね?


「本当だよ。【豊穣の村アイズレーン】……そこを守護してくれているのが【女神アイズレーン】……いるんだ、俺たちをこの世界に生まれ変わらせてくれた、神様はさ」


「……そう、ですか」


 真剣なトーンで話す俺の言葉に、ルーファウスはごくりと喉を鳴らした。

 これで本当に信じたかな。転生者の話も、形見の刀の事も、女神の事も。

 だけど……どこか演技染みた説明と返答……まるで女神を知っているかのような、そんな風に取れたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る