7-69【エルフの大樹】



◇エルフの大樹◇


 驚異的なデカさだった。

 日本の高層ビルなんか目じゃないほどの、雲を突き抜ける大樹。

 世界樹と言われても納得できそうな、そんな神秘的なものだった。


「……すげぇ……」


「本当ね……壮大だわ……」


 俺もミーティアも、語彙力ごいりょくを無くして見上げる。

 それほどまでに大きく、それほどまでに絶大な魔力を感じる。


「どうしてこんなものが、この国に……今までも何度もおとずれれているのにっ」


 ルーファウスが言う。

 この国、【テスラアルモニア公国】生まれのルーファウスならではの感想か。

 確かに、遠くから見ても判別可能な大きさだ、それは確実。

 それが、この距離まで気付かないのはおかしい……なんでだ?


「ふふふっ……魔法だよ。エルフ族にしか判別できない、空間認識の魔法。わたしが範囲に入ったから、空間がゆがんで出現したのさ」


 まるで鼻高々に、ジルさんが言った。

 空間認識か……この距離までこないと、ここら辺一帯は森のままだという事か。

 それを考えれば……もしや。


「ジルさん、もしかして……エルフの里も?」


「おっ!さっしがいいなミオ、その通りだ」


 百年も前にこの森から追い出されたエルフ族。

 それがこの森に里があると聞いて、俺はおかしいと思っていた。


「エルフ族は、敗戦して世界中に散り散りになった……だけど、残った数がこの森に魔法を使って、女王を守ってた……ですか?」


「そう。【リードンセルク王国】で冒険者学校の理事をやっている、それは事実だが、初めからこの森から母は出ていないんだよ」


 フェイクか。そうなると……【テスラアルモニア公国】は未だにエルフの女王を狙っていると考えるべきか。


「な、なんだかすごい話になってきていない?」


「……ですね」


 ミーティアもルーファウスも、百年の歴史の事実におどろいている。


「この大樹、凄い魔力をはっしてる……身体の奥底がビリビリするような、不思議な感覚だ……こんなのがあれば、確かに狙われるのも理解できる」


 魔力のみなもと……それが正しい表現かもな。


『――計測完了。この大樹は、能力――【神木しんぼく】によるものであり、樹齢で言えば……三千年以上経過しています』


「樹齢三千年か……すっげぇな」


「そこまで分かるのか?」


 俺の隣に並んだジルさんが、腕組みをして言う。

 相変わらず乗ってるな……胸が。


「ウィズが計算してくれました、しかも……転生者の能力で作られたものです」


「――なんだと!?」


 きっと大昔の時代、エルフに転生した人が作ったんだろう。


「どれくらいの能力はまだ分かんないですけど、【神木しんぼく】って能力らしいです」


「御神木って事かしら……?」


「だろうね。エルフに転生した俺の同郷の者が、この大樹を育てたんじゃないかな」


「……転生?」


 あ、そうだった。

 ルーファウスにはまだ伝えて無かったな。


 ポツリ……ポツポツ……


「あ、降ってきたな」


「そうね、でも……この木の下にいれば」


 ミーティアの言う通り。

 これだけの大きな木だ……雨なんて軽く防げる。

 そこで話そうか、ルーファウスに……俺の事を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る