7-67【森の中は危険がいっぱい5】



◇森の中には危険がいっぱい5◇


 見たことのないテントを作り上げたミオは、気を失うように眠ってしまった。

 焚火の明かりがその豪華なテント……ミオが言う、ミオの前世の世界の代物を照らして、その中に……私とジルリーネがいる。

 ミオは荷台で、寝袋にくるまって眠っている……まだ三月、寒いはずなのに。


「凄いですねお嬢様!このテント……【ステラダ】に売っているどのテントよりも高品質で、しかも暖かいですよっ!」


「ジルリーネは元気ね、空元気でしょうけど?」


「――っ」


 ビクッと、ジルリーネは肩をビクつかせて。

 背中越しのまま、ミーティアに言う。


「お嬢様やミオを……母に会わせるのが怖いのです」


「そこまで?」


 振り向いたジルリーネの顔は、蒼白だった……悲しいほどに。


「こう言ってはなんですが、母……女王は溺愛できあいが過ぎるのですよ、昔にはなりますが、ジェイルを許してしまうほどに……王の血を愛しているのです」


「王の血……女王陛下にとっては、自分とは血の繋がりがないジェイルも、等しく息子なのね」


「……そう、なんでしょうね」


 それが辛い……とでも考えてそうなほどに、ジルリーネは少し悲しそうに、けれど少しだけ嬉しそうに呟いた。

 そうして一息つき、落ち着いたジルリーネは笑い。


「ふっ……さてとお嬢様」


「はい?」


「そろそろ眠りましょう、わたしは夜中にルーファウスと番を変わりますので起きますが、お嬢様はしっかりとお休みを。いいですね?」


「……はい、分かりました」


 笑顔で答えるミーティア。

 テント内は、小さな明かりを発する魔法の道具で照らされている。

 女子二人、外では荷台でミオが、焚火の前でルーファウスが夜番をしている。


「おやすみなさい、ジル」


「はい、お嬢様……――え?」


 一言そう言って、ミーティアは寝袋に入った。

 出会ってから十七年、十八になる年で始めて愛称で呼ばれたジルリーネ。

 何故かかたくなに愛称で呼ばなかったミーティアの心境は、ジルリーネに背を向けた先の……優し気な笑顔だった。





「なぁルーファウス」


「――わぁっ!!お、起きてたんですか……ミオくん」


 荷台の上から顔だけを出して、焚火に当たるルーファウスに声を掛けたミオ。

 顔色は若干悪く、目がうつろだった。


「悪い、おどろかせたか?」


「い、いえ……てっきり死ぬほど眠っているのだと」


 こめかみを搔きながら、ルーファウスは苦笑いで答えた。

 どうやら本当におどろいたらしい。


「まぁ死ぬほど疲れてるけどさ……それより、お前は寝なくていいのか?」


「……僕は火の番ですよ?寝られると思いますか?」


 パチン――と、木が跳ねた。


「あ~そっか、そういうことか。つーか今ちょっと呆れただろ」


「……そ、そんな事は?」


 ジト目を向けて来るミオの視線を感じながら、木を追加するルーファウス。

 二人も、気心が知れて来て冗談を言い合うようになっている。

 まるで親友のように。


「噓つけっ……ははっ、楽しいよなぁ、こう言うのもさ」


 ミオは荷台に寝直しながら、綺麗にかがやく夜空の星を見上げて言う。

 満天の星空は、明かりの少ない森の中では特に光って見える。


「楽しい、ですか?」


「ああ、楽しい。疲れるし、辛いけど……めちゃくちゃ楽しいんだ」


「そうなんですね……」


 変わってますね、と……そう取れる雰囲気ふんいきを持った返答だったが、ミオは気にせず続ける。


「明日、また魔物とか……頼むな?俺も出来ることはやるからさ、協力頼むよっ」


「それは、勿論ですよ」


 ルーファウスはルーファウスで、今日の失敗を悔やんでいた。

 だからミオが言う楽しい……が、中々に理解出来なかったのだ。


「そいじゃ、お休み!なんかあったら起こしてくれなっ」


「え、あぁはい……ふふっ」


 脈略もなく、急に寝だすミオに……ルーファウスはクスッと笑った。

 面白い人だと、やはり師匠せんせいに似ていると思いながら、焚火に当たるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る